第04話 ゲーム内配信/陣営散歩 Ⅳ
まずはアトランティスのエントランスを抜けて中央を目指す。
都市自体は円形で、中心に施設が偏っている。
外部は侵入者を防ぐ防衛システムやメカニック向けの格納庫が置かれている。
いろんなパーツを組み替える事を想定して天井は高く作られていた。作業ロボットは今まで敵対して来たエネミーがあちらこちらで活躍している。
こういうところ一つとってもエネミーはアトランティスの技術だってわかるよね。
「本当にエネミーがロボットのように働いてますね」
「ええ。それにこの天井の高さも直に分ります」
「確か巨大ロボットも居るんでしたっけ?」
「うん、外周は概ね防衛システムと【メカニック】向けの格納庫だから」
「確か【テイマー】の他のもう一つのジョブでしたよね?」
「うん。もうそろそろクラメンの格納庫に着くから見学していこう」
【格納庫?】
【そういやメカニックってジョブがあるんだっけ?】
「そうそう、メカニックは自分の肉体を捨てて、ロボットを肉体に見立てるジョブでね。ちょうど知り合いがこの近くでテストをしてるんだけど……」
【クラメン?】
【今から嫌な予感がしやがるぜ】
【おい、今肉体を捨てるって言わなかったか?】
【今更だろ。レムリアだって肉体捨てるらしいぞ。陣営内ではパワードスーツで過ごすってレムリア板で噂されてるし】
【えー、色々頭がついてかないんだが】
「おーい、探偵さーん!」
『やぁ、少年。見慣れぬ人を連れているね。ああ、いや配信するとは聞いていたが』
目的のエリアに赴き声をかけると返事が返ってきた。
しかし声はすれど、姿は見当たらない。
すぐ近くには蒸気機関車があるくらいだ。
煙突からもくもくと煙を出し、時折ブシュウウウと蒸気を吹き出していた。
【機関車やん。歴史の教科書で見たことあるで】
【いつの時代の乗り物だよ】
【つーて俺ら乗り物に乗ったことないけどな】
【確かアキカゼさんより前の世代だっけ?】
「そう聞いてます。ところで探偵さんはどちらに?」
『目の前に居るよ』
「えっ、機関車しか見えませんが」
『機関車だよ』
「えっ」
あまりのことに絶句する。
精神体の試験をパスしたとは聞いたものの、ロボットの設計どころかなんでこの人機関車作ってるんだろう……
【アキカゼさんが絶句するところ初めて見たかも】
【それな】
【いつもは絶句させてる方だもんな】
【この人もキャラ濃いなぁ】
『ちなみに線路がなくても車輪を畳んで宙に浮くことで空を飛べるし、海の中も行けるように改造中だ』
「……あなた一体何してるんですか?」
【俺も知り合いがそんなことしてたら同じ言葉吐く自信あるわ】
【アキカゼさんのクラメンがアキカゼさんより濃い件】
【一般人探す方が大変じゃね?】
【言えてる】
「そう言えばサブマス知りません? 確かあの人も精神体の試練を受けたと聞きましたが」
『ああ、彼なら同じタイミングでクリアして巨大ロボ作るって息巻いてたよ。確かエリア06に篭ってるはずだ』
「ああそうなんだ。それじゃあ私はそっち行きますね。出来上がったら画像ください」
『了解だ』
「さて、無駄な時間を過ごしました。あの人のことは放っておいてまだ実りがありそうな人の場所にいきましょうか」
【さっきから同行者が沈黙貫いてるのが居た堪れない】
【メンツからしてあんまり喋る人たちじゃないからね】
【圧倒的ツッコミ不足なんだよなぁ】
【むしろアキカゼさんがツッコミに回る時点で件のサブマスもキャラ濃いんじゃないか?】
【いや、どうだろう。マスターがこの人だからな】
【どちらにせよ俺たちは黙って見守ることしかできないわけだが】
【言えてる】
クランの面汚しである探偵さんの元を離れた私たちは、雑談をしながらサブマスターの居るであろうエリアへと向かう。
ロボットを移動させる前提の距離感なので人が歩くには無駄に広い。仕方ないのでランディス君とハーノス君に移送をダブルで重ね掛けして、風操作で滑るように移動した。
足元を一面氷にして滑ってもよかったけど、流石にそれは周囲に迷惑をかけ過ぎるので自重した。
「はい到着。しかしシャッター閉まってますね」
エリア06の格納庫前に到着した私達を出迎えてくれたのは閉じ切ったシャッターだった。
「事前にアポイントメント取ってないんですか?」
ハーノス君のもっともな言葉が突き刺さる。
「あの人は夢中になれることがあればそればかりやってるような人ですよ。そしてサプライズ好きです。きっと配信を見ていてサプライズしたくなったんでしょう」
「完全に憶測じゃないですか。すれ違いの可能性だってありますよ」
ランディス君の声に呆れが混ざる。
不味いな。
ジキンさん、溜めが無駄に長いからな。
若者の興味が冷めるのが早い。
早くしてよ。
その場で祈ること3分。
シャッターが徐々に開き、ドライアイスに水をかけたようなスモークを焚いてシャッターが上り切った。
スポットライトが上部から当たると、内側から何か巨大なものが動き出す気配がある。
「あ、あれは!」
ランディス君が叫ぶ。
「犬? それもお座りをしている姿勢の……なんでしょう?」
「これまた懐かしいロボットを出して来ましたね。あれは私達が幼少期の頃やってたアニメのロボットですよ」
【いや、草】
【巨大っちゃ巨大だけどもwww】
【ロボットならせめて二足歩行しろ!】
【思ってたのと違う】
【違う、そうじゃない】
「それは普段でもできますけどね。あ、うちのサブマスターは犬のハーフビーストなんです。だからモチーフが犬なんでしょうね」
【獣人がアトランティスに来てる時点で勿体ない】
【獣人はムー一択だろ】
【誰がどこに行こうと勝手だろ】
【そうだけど】
「まぁうちのサブマスは棍棒ぶん回す以外で大して役に立ってませんので、どこに行っても一緒ですよ」
【言 い か た】
【酷い風評被害を受けてますよ、サブマスターさん】
【親父も爺さんにかかればそこまで言われるんだからたまったもんじゃないよな】
「おや、金狼君。君は勤務中でしょう? サボりとはいただけないな」
【休憩時間だ。今日は朝から会議続きでな。ようやく昼休憩が取れる。これじゃ今日のログインは絶望的だな】
【わぉ、ブラックぅ】
【言うて金狼は大会社の社長さんだけどな】
【クソ、世の中不平等だ! 俺なんて平社員なのに!】
【え、その人の親父さんてことはサブマスって?】
「会長やってるよ。本人はさっさと息子に後を引き継がせたいって言ってるけど」
【勘弁してくれ。オヤジが偉大すぎて俺はいまだに七光扱いなんだぞ?】
【俺たちはそんな人の揚げ足を取っていたのか】
【ちょっと自重するわ】
【手のひらクルックルだなお前ら】
【ちなみにアキカゼさんもシェリルの父親なんだよなぁ】
【元上位クランの父親すげーって騒がれないのがアキカゼさんの凄いところ】
【子供の権力を傘に着る前に自ら抜いた情報で炎上してるからな】
【凄いのか凄くないのか】
【十分凄いだろ】
【シェリルの父親ってより、シェリルでさえアキカゼさんの娘ポジションだぞ】
【卵が先か鶏が先かってやつだな】
「まぁ私達のリアルはどうでも良いじゃない。ここじゃ君達と同じ一介のプレイヤーに過ぎないよ。そんな仰々しくしなくても良いよ」
『部外者は放っておけば良いんです。それよりマスター、僕に何か用ですか? こっち来るだなんて聞いてませんけど』
そこには直立不動でこちらを見下ろす犬型ロボットがいた。
びっくりした。
あの姿勢のまま動かないと思ったら、自然に立ち上がらないでよ。
ちなみに後脚に比べて前脚がやや短いのはご愛嬌か。
「その割にタイミング良かったじゃない。スモークまで炊いてさ。お披露目する準備はしてたんでしょ?」
『さて、なんのことでしょうか。それよりもどうです? 懐かしいでしょう』
「はい、色々思い出しますね。それでお助けメカは出せるんです?」
『そこはまだ検討中です。あんなに細かいのを大量に作るのは手間ですし。幸いロボットパーツは多様化されてまして、組むのは簡単でしたので色々遊んでいるところですよ』
それもそうか。そこまで再現するのは大変だ。
「なら私がエネミーを使役してそれらしい事させますよ」
『お、良いですね。それで行きましょう』
【大会社の会長がこんなに自由にやれてるのって?】
【多分アキカゼさんを風除けに使ってるからだぞ】
【風除けは草】
【普通はもっと目立っても良いのになぁ】
【クランマスターがアキカゼさんである限り、どんなプレイヤーも霞むからな】
酷い言われようだ。
「私なんかより凄い人はたくさんいるんですよ。ダグラスさんとか、ダグラスさんとか。まぁ幼馴染なんですけど」
『あの人こそマスターの影で色々やってますよね』
【どうなってんだこのランクCクラン?】
【鍛治の巨匠が裏方にいるクラン】
【アキカゼさん、人数増やさないんですか?】
【定員15人のメンバーが濃すぎて俺らが入っても一瞬で霞むわ】
「無理だよ。あと二個派生生えるまで待って」
【ま だ 5 0 行 っ て な い の か(絶句)】
【本当謎だよな、この人のスキル骨子】
【そもそもパッシヴ極で48まで生やしたのを褒めるべきでは?】
【だな、戦闘スキルと違って戦うだけじゃ生えないもんな】
スキルが進化した結果、半分以上が使い物にならなくなったのはお察しだけどね。
何かの派生になってくれれば良いんだけど。
『他にもカネミツ君とかいるよね、うち』
【元検証班トップ勢じゃねーか!】
【アキカゼさんの情報まとめてるのその人か。なんか見覚えあるまとめ方だと思った】
【そういやクラン発足した時にいたな。その頃から追っかけてる人とか皆無だろ】
「ああ、うん。探偵さんの息子さんね。彼に情報教えると床を転げ回って喜んでくれるんだ」
【それ絶対喜んでないぞ】
【アキカゼさんの抜いた情報をダイレクトに目にすればそうなるのも無理はない】
【探偵さん……機関車の人か】
【その覚え方は草】
『それも頻繁的に引っこ抜くからもう今週はもう情報持ってこないでくださいって跪いて咽び泣くほどだったよ』
【あの情報乞食の検証班がwww】
【地獄絵図やん】
【他人だから笑ってられるけど、心底身内にはなりたくないな】
【どうせ枠空いても俺らの席はないから】
【夢ぐらい見させてよ】
勝手に盛り上がるコメント欄の傍、サブマスターのいくつかのモードチェンジを見ながら別れた。
無駄に時間を食ったので都市部で少し休憩を入れようと言うことになったのだ。
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