第23話 七の試練/虚実 Ⅴ

 さて、ちょっとしたイザコザはあったものの探索再開。

 とは言え、序盤はモドリ草の補充が重要案件なのでリポップするまでもいでもいでもぎまくる地味な作業の開始。

 たまに通りすがるプレイヤーから何をしてるのかと聞かれたので採取ですよと答えたら納得された。

 モドリ草とマヨイ鉱はセットで置かれてることが多い上に、そこらにうじゃうじゃ生えてるのでわざわざ持ち帰るほどでもないと思ってるプレイヤーが多いのだろう。無事に持ち帰れたら結構な値がつくのにね。



「だいたいこんなところかな?」



 時間にして一時間は採取に取られたか。額の汗を拭いながら錬金作業に準じていた女性陣に語りかける。

 彼女達の足元にはそれなりの量のアイテムが出来上がっていた。生産者が攻略の鍵を握るとは他の探索プレイヤーも思うまい。

 道中の戦闘は霊装のお披露目もしつつ、そのままランダさんの作った巻物が示したルートへ。するとそこは……



「あれ? ハズレ?」



 どこか雰囲気の違う場所。行き止まりと言って差し支えのない空間だった。あんな意味深な暗号の先がハズレとは困ったなぁ。

 一人で悶々と悩んでいると、



「いや、これ鉱脈だよ。採掘ポイントがある」



 沈黙を破ったのは他ならぬランダさん。

 肝心の採掘ポイントが専用スキルを持たない私には見えないんですけどね。

 後は流れでジキンさんから手渡されたツルハシを担いで全員がそれに参加する。


 出土されたのは屑石に交じって銀や魔銀、オリハル鉱石と呼ばれるものだった。要するにオリハルコンの元となる鉱石が発掘できる場所。

 ちなみに私やスズキさん、ジキンさんは全てが屑石だった。

 妻と探偵さんが銀や魔銀を出したりしていたが、オリハルコンの材料になる鉱石を見つけたのはランダさんだけだ。この人何者だろう?


 ランダさん曰く、採掘技能を持ってないと100%屑石になる難易度らしい。なんでやらせたんですか!

 ジキンさんを睨み付けると、知らなかったんですよと笑ってごまかしていた。まったく……まぁ一人だけ突っ立っているのも気まずかったですし、ナイス判断だったとしましょうか。



「それはさて置き、この情報を何処で取り扱って貰うかですよね」



 私の発言に、何を今更と探偵さんが乗っかってくる。



「あれだけ好き勝手やって置きながら何を言ってるんだか。これ一つ手に入ったところで錬金術という製法がなければどうしようもないと答えは出てるでしょう?」


「そう言えばそうだ」



 じゃあオクト君に丸投げしてしまおう。それでその場は解決する。



「いや、何解決ムード出してるんですか! 持ち込まれたこちらの身にもなってくださいよ!」



 持ち込んだ先で非難された。解せぬ。



「別にどう扱おうと自由だよ? せいぜい君に錬金道の足しにしてくれたまえ」


「それを言われたら弱いですけど」



 満更でもないという顔で懐にオリハル鉱石を入れるオクト君。

 取り敢えず状況に流されっぱなしという立場が嫌だったから拒否反応を出してみたが、全部自由にして良いと聞いてご満悦だった。

 本人は、どうやって出所を説明するべきか悩んだらしいが、私の責任にすることで無事に解決したらしい。

 やっぱり作っておいてよかったじゃない、別枠。


 本当だったらダグラスさんにもいくつかお土産を持たせようと思ったけど、いつでも行けるし今じゃなくて良いか。

 私達の目的は採掘じゃなくて攻略なんだ。

 ついでに採掘場所への行き方も教えておいたらご機嫌になったオクト君に見送られた。

 結構な値段で売れるらしいよ。私には何処に旨味があるかさっぱりだけど。

 次にあの場所行ったらプレイヤーで埋め尽くされてそうだね。

 それはそれで活気が出てきて良いか。

 レア素材ハンターのフィールも喜ぶだろう。一応メールでもりもりハンバーグ氏に報告しておく。今からどんな反応をされるか楽しみだ。


 そういえば行きは良いけど帰りの手段を確立してないとどうしようもないよなぁ。採掘場は行き止まりだし、モドリ草の能力も次の部屋に行く扉があるのが前提だし。

 採掘場は広い空間とは言え他の場所と何処にも繋がってない密室だ。あの時は巻物で普通に帰ってきたが、一応この情報もあったほうがいいんだろうか?

 ランダさんに事前確認して、錬金で作った巻物のレシピも売ることにした。

 オクト君の笑顔が凍りついたのはあの時が初めてだった気がするなぁ。普段はなんだかんだと驚きながらも心の何処かでスルーしつつのらりくらりとやっているけど、敵わない相手を目にして恐々としてたもん。


 いっそ売店で売る? そう聞いたときはやめてくださいと断られたっけ。恐るべきはそれを作り上げてしまったランダさんの総合錬金術の高さか。その上で調理もこなせて戦闘もこなせるって凄いよね。ジキンさんが霞んで見えるよ。



「何か良からぬことを考えてますね?」


「気のせいですよ」


「本当ですかー?」



 まったく、この人は。こういうどうでも良いところだけ察しがいいんだ。



「まずはともかく次の素材を探しましょう。きっとあの試練はオリハルコンさえ中間素材として見ている節があります。なんだったら必須武器になり得る感じでしょうね。我々はそれを発掘してやる気のある若者に手渡した。後は任せて我々に出来ることをするべきだ」



 そんな風に場を盛り上げる言葉で再度七の試練に赴く。

 それにしてもマヨイ鉱の使い道って何かあるんだろうか?

 あれだけそこら辺に転がってるのも意図があるはずだ。

 女性陣の作品に期待しつつ、私達は立ちはだかるエネミーの前に躍り出た。



「こんなものができたけど」



 いくつかの戦闘を終えてランダさんから手渡されたのは消費アイテム。

 巻物とは違って、緑色の溶液だ。そこにはポーションと書いてある。素材に鉱石を使って置きながら飲み物ときたか。少しだけ飲むのを躊躇う私がいた。

 


[消費アイテム:逆行ポーション小]

 効果:使用すると振りかけた場所の時間を巻き戻す効果を持つ。ある場所で使うと……?



 アイテム効果からして意味深だな。

 スクリーンショットの構えでそれを覗き込むと、やはり文字が浮かび上がった。


 [五、三、一、五、五]


 これはこのアイテムを使う回数か?

 それとも前々回同様マヨイ鉱石の所持数に関与しているのか。

 一人で悩んでも仕方ない。スクリーンショットに写し込んで切り取り、全員に一斉にメール送信して送りつける。



「何やら意味深だね」


「もしかしたら所持してる鉱石の数でランダムに部屋が変わるシステムだったりするので一人一個握って後は探偵さんに水操作で管理してもらおうと思うけどどうだろうか?」


「僕はそれで構わないよ。途中から見なくなるものね」


「アタシのアイテムの方は?」


「一応量産しておいて。石の代わりに使えるかもしれないし」


「はいよ」


「アキエさんも何かの色素は出来た?」


「鉱石から抽出するのは難しいのよ。今の錬金レベルじゃダメね」


「ならば後でランダさんに頼み込んでやり方を教わったら?」


「そうしてみるわ。ありがとう」



 どこか気落ちしていた彼女もすっかり機嫌を直してくれたようだ。元々はどこかの犬が余計なことを言い出さなければよかったんですけどね。そんな事を思っていたらジキンさんがじっと見てきた。



「なんですか?」


「いえ、特に。ただ全部自業自得なのに人のせいにしてる気配がしたので」



 全てを物語ってる言葉が返ってきた。怖いなぁ。エスパーか何か? そんな私達を探偵さんとスズキさんが肩を揺らして笑いを堪えて見守っている。

 そういえばスズキさんの肩ってどこだろう?

 そもそも肩ってあるんだろうか?

 魚人の謎の生態系に触れて思考がぐちゃぐちゃになったところで気を取り直す。


 妻の手にはエメラルドグリーンの染色アイテムが静かに握り込まれていた。それをすかさずスクリーンショットで切り取ると、暗号ではなく妖精がとんでもなく集まる映像が見て取れた。


 この染色アイテム……なんだ?

 もしかしたらとんでもない重要アイテムだったりするのだろうか? 影の大地で見た影のボックス並みに光る薬液に、そこはかとない不安を覚えた。

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