第22話 束の間

 孫達を見送ってから集結する。事前に話を終えたとはいえ、何があったか聞きたいとメンバー達の目が物語っていた。

 そこで私は面倒ごとの処理と、そこから得られた情報の開示。

 つまり『霊装のチャージング』が可能になった情報を語った。



「成る程ね。僕には関係のない話だった」



 ジキンさんはつまらなそうに鼻を鳴らす。

 ちなみに私が『スキル複合』で特殊スキルを合わせまくってゴリ押しでクリアした事を仄めかすと、その手があったかという顔をされた。

 スタイル的にあちこち飛び回るのが苦手なサブマスターではあるが、既に臨機応変に動き回れる基礎は出来上がっている。

 そこに空歩★などをつければそこら辺のスピードファイターに負けない速度で走れると思う。

 問題はAPの管理くらいか。



「しかしゲームの進行度によってシステムがバージョンアップしていくのは面白いね。今まで蓄積してきたデータが全部無駄になりそうだ」



 探偵さんが寂しそうに言う。



「無駄なものですか、調べた結果は絶対役に立ってますって。あとはかけあわせたり、付け合わせていくことでさらなる飛躍を遂げるでしょう。単独ではどうにも使い勝手の悪いスキルも、複合することで化けるものですよ?」


「ああ、それは確かにあるか。無駄は言いすぎたよ。息子は頭を抱えそうだがね」


「ご愁傷様です」



 私からもミチザネ氏に労いの言葉をかけてやろうか。



「それで、それで? ハヤテさんはどんな霊装を手に入れたんです?」



 スズキさんが興味津々に聞いてくる。

 なんて答えていいものか。戦闘組の彼女ならなんとなく察してくれるだろうか?



「銀騎士の鎧と言うものだね。三十分間、行ける範囲へ文字通り瞬間移動を可能にする霊装だ」


「じゃあマリンさんと同じ奴だ」


「マリンに取得場所を教えてもらったのでそうでしょうね」



 私がスズキさんとワイワイ話してるところへ、ジキンさんがちょっと待ってと会話に割り入ってくる。



「なんですか?」


「マスター、瞬間移動なんてできる様になったんですか? ただでさえあちこち行けるのに。ずるいですよ」


「今ならチャージングの効果を合わせて一時間か、倍の飛距離で飛べますよ」


「より追いつけなくなってしまうので、僕たちと一緒の時は使わないでくださいね?」


「僻みもここまでくると清々しいね。嫌だと言ったら?」


「ログアウトします」



 その目は本気だった。これ以上揶揄うのは危険そうだ。

 ここはひとまず引き下がっておこう。別に仲違いしたいわけではないからね。



「冗談ですよ。これはAPが足りなくなった時の秘策です。六の試練の時、結構みんなピンチだったでしょ? そんな時にこう言うのがあると便利だなって思ったんです」



 思ったのは効果を知った時だけどね。嘘は言ってない。



「確かに自分の力で行ける範囲に瞬間移動ならAPを消費せずに空に到達できますけど、普通は地上か頑張って壁。一瞬の足場として天井が限界でしょうし」



 過去のスズキさんからしたら喉から手が出るほどのものだったんでしょうが、今はどうなんだろう。それとなく聞いてみる。



「え、霊装ですか? それ頼りの戦闘方式になると困りますが、ハヤテさんの言う通りの切り札だったら獲ってみてもいいかなーとは思います。でも今は特にはそれ程でもないですね。なんせ陸・空・海を制覇してる様なものですし」


「じゃあ一定時間周囲が海に切り替わる霊装とかあってもいらないんだ?」


「それはあったら欲しいです。海大好き!」



 態度を一瞬で変えて迫るスズキさん。先ほどまでのドヤ顔は何処かに行ってしまった様だ。何処まで行っても魚と海pは切っても切り離せないのかもね。もしもこの流れで地下に行きたいと言ってもついてきてくれるか怪しいな。どざえもんさんとシェリルには頑張ってもらわないと。



「それで召集って事はあの遺跡探検の続きなんだろう?」



 ランダさんの言葉に頷く。

 思いの外発掘してしまったオリハルコンの生成法。

 それの利権関係は若者に丸投げしつつ、私達は手当たり次第の攻略に移る。



「それであの人、ダクラスさんはなんて?」


「忙しい時期にこんな面白いネタ持ってくるなんてここのクランマスターは鬼か、だって。まぁあの人なら興味本位でたどり着くと思うから好きにやらせてるよ。そして運用方法は自由に使ってくれと言った」



 妻の質問にありのまま答えると口元を押さえられた。そんなびっくりすること?

 妻曰く、それでは情報規制してないのと一緒だと。

 明るみになったとはいえ、作り上げられる人材は限られてるよね。それこそ最有力候補はウチのダグラスさんか、オクト君ぐらいだ。これらは高位錬金によるものだとランダさんは言っていたし。なら別に公開してもいいんじゃないかなって思う。

 素材自体が未発見のものが多いいんだし。



「無駄ですよ、アキエさん。この人はこう言う人です。自分の興味を湧かない情報には大体こんな対応です。ブログを見れば一番早いんですけど」



 そういえば妻とは特にフレンド交換をしていなかったな。

 クランに行けばいつでも会えるし、わざわざ行動を縛りたくないので別にいいかなって思ってたけど。



「そう言えばフレンド登録してなかったね。する?」


「そうですね。ジキンさんにここまで言わせるなんて何処までやらかしているのか心配なのでしてみます」


「じゃあ送るね」


「受領しました」


「確認したよ」



 ジキンさんにグッと親指を立ててナイスですとアピールすると、これぐらいの事でわざわざ僕の手を煩わせないでくださいよとジェスチャーで帰ってくる。その態度がまたムカムカするんだ。別に良いけどね。



「あらあらこれは……はぁ。ごめんなさい、ウチの主人が皆様をだいぶ振り回した様で」


「そうでしょうそうでしょう」



 妻が頬に手を当てて困った様に頭を下げた。それを聞いていたジキンさんが腕を組みながら頷いた。聞けば彼、被害者友の会会長だって言うじゃありませんか。冗談じゃありませんよ。



「ちょっと、ウチの奥さんに変な噂流さないでくださいよ?」


「ありのままの事実ですが?」


「その節は本当にご迷惑をおかけしました」


「腐れ縁て奴ですかね。こんな人と出会ってしまったからには、僕としても被害者の心のケアをしていくつもりです。何よりの被害者第一号としてね」



 一番付き合い短い人が何か言ってますよ。



「でも被害者って大体情弱な奴が勝手に騒いでるだけですよね? 言うほど被害って出てます?」


「オクト君やパープルは被害甚大って言うけど、マリンやスズキさんは言うほど驚いてないんですよね」


「それは単純に責任の差でしょうね。情報を扱ってる側からすれば出し抜かれたんですから悔しいでしょう」


「でも素人の発掘だよ? みんなやってるでしょ」


「規模が違うんだよなぁ。序盤から大型レイド討伐戦&首都防衛戦ですよ。それを手垢のつきまくったファストリアから発掘したと聞いた時はこの人何者だって思いましたよ」


「あなただって現場にいたくせにそんなこというんだ?」



 さも恐怖体験に付き合わされた被害者の如く震えて語るジキンさんに、私は呆れた様に嘆息した。



「それはともかくとして、今後の目標は?」


「そりゃこの真・シークレットクエストを進めますよ。当然でしょう? ここまできて辞める理由がない」


「つまり今以上の発掘がついてくると?」


「それは出てきてからのお楽しみって奴ですよ」



 それを聞いて何かを諦めた様に語るジキンさん。信用ないなぁと思いつつも私達の足は[七の試練]に向けられた。

 なんだかんだ言いつつも付き合ってくれるのだからありがたい限りだよ。

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