第21話 孫達の背を見送ってin赤の禁忌


 VR井戸端会議内での会話を思い出しながらニコニコしていると、孫にどうしたの? と心配されてしまった。

 あれから各自で話を持ち帰って詰めるとかで私は早々に帰ってきてしまった。

 たまには孫と一緒に遊ぼうかと帰宅を待っていたのである。



「そう言えば美咲。この前新しいシステムが更新されているのは知ってるかい?」


「まったく違うスキルに二つの効果を合わせて使うやつでしょ? 知ってるよ」


「実はそのほかにもう一つあるんだ。私はその発見に関わってないんだけどね、真希叔母ちゃんがお話してくれてね、判明したんだ」


「え、真希叔母さんが? どうして?」


「実はお爺ちゃんの伝で地下ルートのお手伝いをお願いしてたんだ。それで発見したのはよかったんだけど、丁度私の発表とタイミングが被ってしまったらしいんだ」


「じゃあ、とっくに使えるようになってたんだ? どういうやつなの?」


「それはログインしてのお楽しみ。今日は久しぶりに暇ができてね。美咲と一緒に遊ぼうかなと思ってたんだ。都合が悪かったら日を変えてもいいんだけど」


「平気! どうせユーノと一緒に遊ぶだけだし」


「ならよかった。じゃあ私は先にログインしてるよ。ユーノ君に先に連絡してしまいなさい」


「はーい」



 孫がダッシュで自室に戻るのを見送りながら、私も自室に戻ってログイン作業を進めた。



 ◇



「お待たせー」


「全然待ってないよ。今日はユーノ君にも付き合ってもらってすまないね。今回は少し霊装について教えて欲しくて来たんだ」


「霊装ですか? 失礼ですがアキカゼさんは攻撃スキルを持ち合わせていませんでしたよね?」


「ないね」


「では無理して取る必要はないのでは?」


「そうだね。でもソロで探索中、相手に襲われることもある。そして最近特殊スキルなんかでも攻撃することもあってね。じゃあどのみち戦うならそこら辺のシステムも知っておこうかと思って」


「なるほど。分かりました。マリンちゃん、そういうことだけど平気?」


「オッケー!」


「では早速行こうか」



 本日はマリン主導の元、霊装の一番難易度の低いダンジョンに挑むことにした。

 なんだかんだサポートスタイルなら私も普通に戦えるようになったからね。まだジキンさんや探偵さんほど息を合わせられないが、それでもマリンは少しづつ本気を出してくれた。



「お爺ちゃん、すごいすごい! これについてこれるならここの試練もクリア出来るかも!」


「それは楽しみだ」



 試練な題された場所はダンジョンの最奥にある。

 そこから先は一人で行かなければならず、制限時間以内に乗り越えなければ入手は不可能という。

 マリンは乗り越えられたものの、ユーノ君は相性が悪いらしい。つまりはスピードタイプの奴かと推測する。



「では行ってくるよ」


「行ってらっしゃい!」


「頑張って!」



 孫娘に見送られ、私はダンジョンの暗がりへと飲み込まれていく。それと同時にエンカウント。タイムを競うこの試練、いちいち相手するのも面倒だ。相手が鈍間なスワンプマン型であるのを目測し、『空歩+重力操作★』で踏み込みながら速度を上げていく。

 次の障害は飛び出る石壁か。

 これらは『重力操作★+風操作★』で自身の体重を0にして真後ろから突風で加速することで突破した。

 飛び出た先は大きな穴だ。

 出てきたのはシャドウ型。

 耐久は1000と低く、今の私の敵ではない。

 影踏みで足場にしつつ、『重力操作★+陽光操作★』で蹴り上げてやれば沈黙した。



<試練クリア!>

<クリアタイムは00:02:55>

<ベストレコードが更新されました!>


1位_アキカゼ・ハヤテ NEW

2位_マリン

3位_マリン



 おや、大人気なくやってしまったかな?

 しかしクリアできない方がせっかく案内してくれたマリンに申し訳ないと思うので、これで良いかと諦めた。


<霊装:銀騎士の鎧を獲得しました>


 ん? もしかしてここの試練って……いや、よそう。

 一番簡単だと聞いていたけど、思い起こせば霊装そのものが試練の中でも高難易度だと聞かされた。

 あとはこの魔法陣の上に乗れば出口に行けるのかな?


 移動した場所はダンジョンの入り口ではなく、試練を受ける場所の真横だった。そこから出てきたからイコールでクリアしたのかとマリン達が駆け寄ってくる。



「お爺ちゃん、おかえりなさい!」


「うん、ただいま」


「随分と早かったですね?」


「お陰でAPが空っぽだよ」



 ユーノ君の質問に答えながらダークマターを取り出して食べる。彼女達にしてみたら炭にしか見えないそれを食べる姿の私はさぞかしおかしな人に見えただろう。

 表情を見てたらわかる。



「それでもエネミーたくさん出てくるでしょ?」


「全部無視して先に進んだよ。最後のシャドウ型は倒したけどね」


「えー、ずるーい。私全部倒したのにー」



 んもー、と孫がその場でジタバタしている。

 そんな場所で暴れたらせっかくの衣装が汚れちゃうよ?

 ゲームアバターだから汚れないのかな?

 それはともかくとして。



「マリン、悪いがベストレコードはお爺ちゃんが上書きしてしまったよ」


「いいもーん、私はもっと強い霊装持ってるから」


「特別に簡単な霊装の場所を教えてくれたんだろう?」


「霊装の試練が簡単って言えるプレイヤーはそんなにいないですけどね。それで、どうして霊装を欲したんですか?」


「実は私以外からの情報網でね、新システムとしてチャージングという要素が霊装関連に追加されたようなんだ」


「チャージング?」


「うん。娘曰く、それは一日使わない事によって連続で二回使うか、今まで通り一度だけで効果を二倍にするか選択できるシステムだそうだよ」


「え、凄い!」


「私達のような学生だと遊べない日もあるから嬉しい効果だね、マリンちゃん?」


「うん。神システム! これが真希叔母さんの見つけたってやつ?」


「そうだね。それと一応こっちではシェリルって名前があるからそっちで呼んであげて」


「はーい……待って、シェリルって?」



 何やら名前を聞いた途端に難しく考え込んでしまうマリン。



「待って、もしかして叔母さんて上位クランでマスターしてるあのシェリル!?」


「本人はそうだって言ってたよ。それと亜耶叔母ちゃんはフィールって名前で素材を集めるクランを率いてるよ」


「そうなんだ。じゃあ瑠璃ちゃんはそこに?」


「ちょうど今空の鯨のとこでお仕事してるから今から会いにいく? フレンド登録しておけばいつでも会えるし」


「行く! ユーノも一緒に来る?」


「一度行ってみたかったんですよね。でもやっぱり乗るのに二の足踏んでまして」



 飛空挺と言っても見た目はまんまスズキさんだもんね。



「よし、じゃあこれを機にお空にピクニックしに行こう。今なら結構人が上がってるからね」


「やった!」



 クランメンバーなんだから気兼ねなく乗ればいいのにと思ったけど、行列で並んでる人たちを横目にさっさと乗り込むのは気が引けたそうだ。気にしなくていいのに。

 これもクランメンバー権限だよ?

 若者はそういう細かいところを気にしてしまうんだろうね。

 仕方ないので陽光操作★で私が思いっきり光る事で視線を散らし、今だ! と背中を押して乗り込んだ。

 マリンはユーノ君と顔を見合わせたあと笑ってた。

 そうそう、君たちはもっと笑ってなさい。



「着いたよ」


「真っ暗ー」


「ここがあの鯨の中なんですか?」


「その口の中だね」


「口!? 食べられちゃったの?」


「この鯨は人工物だから、そこが入り口なんだ」


「なーんだ。だったらそうだって言ってよ!」


「マリンちゃんが先走りすぎるからだよ」



 子供達は元気でいいね。きゃいきゃいとはしゃいでは前の方へかけていく。

 そして今ではすっかり様変わりした赤の禁忌を眺め、感慨深い気持ちでいっぱいになってるようだ。



「あら、マリン。こっちに来たのね?」


「おばあちゃん!」


「はい、おばあちゃんですよ」



 妻のお店に連れてくと、早速商品に目を向けてお話ししている。



「アキカゼさん、ここは不思議な場所ですね。空の上だと感じさせないほどに空気があり、そして活気があります」


「うん、大変だったよ。ここまで作り上げるのはさ」


「え、アキカゼさんが作ったんですか?」


「もちろん赤の禁忌は初めからあったよ? 私が作ったのは土台さ。プレイヤーの興味を引くものを提供して、いつでも足を運べるような移動手段を作った。それでもプレイヤーは定着しなくてね。それでもあれこれと頭を悩ませて、ようやくここまで来たんだよ」


「それは、想像もできない苦労があったんでしょうね」


「私としては私の発見したことをもっとみんなで楽しんでもらいたいと思ってるだけだよ。そのためにクランを作ったし、クラン同士で色々手を結んだ。でも一番最初はクランメンバーに楽しんでもらいたいというのがあるんだよ。だからユーノ君も楽しんで行きなさい」


「はい!」


「ユーノ~、どこ~?」


「ほら、呼んでるよ。マリンを頼むね?」


「はい。ではマリンちゃんと一緒に楽しんできます」



 孫達の後ろ姿はあの時のまま。

 スクリーンショットを構えてパシャリと写し取る。

 初めてこのゲームにお誘いしてもらった時から数えて半年。

 風景こそ変わったが、あの子達の歩みの先に幸多からんことを願うばかりだ。

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