第24話 七の試練/虚実 Ⅵ

 取り敢えず何かあると思って妻には可能な限り量産の方向で話を進めていく。ある程度数が揃ったら探偵さんを除く全員でマヨイ鉱を手に持って一つ目の扉を潜り抜けた。



「どうです? 何か変化は……」


「エネミーが来ましたね。これはまたもや強化型か。しかし一回目からとは骨が折れる」


「霊装も在庫切れですし、ボチボチ行きますか」



 取って間もない霊装は日に一度しか使えない制約がある。

 だからって何も出来ないと言うわけでもない。

 スクリーンショットで切り抜いた敵のデータをメンバー全員に拡散しつつ、全員がそれぞれの得意技を叩き込んで様子見をした。



「手応えはありませんねぇ。もしかしてこれ、マヨイ鉱石を五個消費するタイプの攻略手段ですか?」



 探偵さんの考察に、いやそれはどうだろうと頭を捻る。

 もしそうなら根本的に持ち運んだ数が足りなくなるからだ。

 五個ピッタリ持った事で初めて現れたエネミー[スワンプマン強化型/ホバー]の攻略手段は別にあるはずだと信じたい。

 ちなみにクリティカルは出なかったので攻撃手段や弱点属性は抜けなかった。耐久は10000/10000と無駄に高い。



「魔法も効いてる感じしないねぇ」


「ダメ元でモドリ草を使ってみたけどやっぱりダメね」


「僕の槍も効いてる気がしませーん」



 みんながみんな難色を示した。

 しかしここでジキンさんが目敏く何かに気がつく。



「そう言えばこのエネミー……ホバーとか言うくせして全然動き回りませんね」



 そう言えばそうだ。のろのろと地面を這って歩いてる。

 ダメージこそ通じないものの……いや、地を這ってる限りダメージが通用しないタイプか?



「何かホバリングできない理由がある?」


「敢えて動き回るまで色々行動してみましょう。マスターはスクリーンショットを頼みます」


「はいはい」



 ジキンさんが借りパクした巻物を自動で巻き取る未来型光線銃を構えながら格好をつけて言う。

 それを遠目に探偵さんが何か言いたそうにしていた。

 私は敢えて余計な口を回さず言われた通りに返事をする。

 取り敢えず地を這う理由を探るためだ。

 今でこそおしゃべりしてる時間こそあるが、動き回られたらそれどころじゃない。その代わり失策だったら後で目一杯笑ってやろうと心に決めて地を蹴った。



 考察は十数分に及んだ。

 数々の結果がダメになった。

 スクリーンショットは相も変わらず効果を震わせられず、かと言って暗号が浮かび上がるわけでもない。

 影じゃないので影踏みも出来ず、空歩でスタミナを無駄に消費するばかりである。

 そもそも体重が0である限り、向こうの攻撃にかすりすらしないんだけど。だからと言って無駄にダメージを受けてやるわけにもいかなかった。

 そこでようやく効果が出たのが妻特性の染色アイテムを浴びせかけた時だった。


 エネミーが突如苦しみだし、表面に被っていた泥が内側に取り込まれる形で収縮。

 耐久が三分の一まで減っていき、第二形態に差し掛かった。



「グッジョブアキエさん!」


「来るわよ、あなた!」



 今までのノロさが嘘のようにフィールド内を駆け回る。

 こう早くちゃ狙いも正確につけられない。

 狙えないんなら狙いやすくするだけだ。

 私、ジキンさんは水操作★をスキル複合させて一面を水で覆った。考えることは同じか。しかしナイス判断ですよと心の中で喝采を送る。


 突如現れた水の中に突っ込むエネミー!

 しかし空気を爆発的に発射するタイプのホバーは水中でもお構い無しに速度を上げた。耐久はみるみる減っていくが、このままじゃ巻き添えだ。



「水中での速度はまだまだ僕の方が早いですね!」



 スズキさんがドヤ顔を浮かべながらエネミーを上回る速度で水中内を縦横無尽に駆け回り、トドメとばかりに動きの鈍ったエネミーを氷漬けにしたのは探偵さんだった。

 そこへ私のキックでトドメが入り戦闘終了。

 ダメ元で足先に氷を纏ったのがよかったのか、それで耐久が削り切れてしまった。

 ジキンさんがいいとこ取りばかりしてずるいですよと不満顔をしていたが、無事に戦闘終了したんだから良いじゃないの。

 ドロップは特になし。チェインアタックしてる暇もなかったですし、初戦でしたからね。いやはや、強敵でした。



「それで次の部屋に向かうには、確か三個で良いんだっけか?」



 門番をしていたエネミーを倒した事で現れた扉に向かって親指を向ける。



「ですです」


「じゃあ二個預かるよ」



 探偵さんが氷で作った箱を差し出し、スズキさんとジキンさんがそこへ一つづつ入れる。氷の箱の上には器用に水で蓋がされ、その上がみるみる凍り付いて密封された氷の箱は探偵さんの高いコントロール技術によって付与付与浮いて私達の後方をついてくる。


 そして全員が渡った先、私たちの目の前には光り輝く鉱脈があった。まるで黄金の鉱脈だ。

 まさかの展開に驚きつつも、ジキンさんに差し出されたツルハシを無言で受け取り一同はカンカン採掘作業に更ける。

 正直なところ、私とジキンさんとスズキさんは屑石しか入手できないのでやる意味はないんじゃないかと思うけど「パーティーの代表が黙って突っ立ってるわけにもいかないでしょう?」とジキンさんに諭されて無理やり働かされた。

 やる気のありすぎるトップはこれだからいけない。金狼氏の苦労が窺えるようだよと皮肉で言ったら「これくらいでへこたれるようではまだまだですね」と返された。


 出土されたのは予測通り金や白金、そしてアダマン鉱石。

 別に珍しくもない鉱石らしいけど、ランダさん曰くこんな高確率でボロボロ落ちる穴場はないよと大絶賛していた。

 あの、屑石しか取れない私達が余計惨めになるのでその辺で。


 金や白金は融点が低く、加工しやすいので細工しやすくアクセサリーを生業としているうちの妻が大変喜んだ。

 しかし奇怪なことに、ここで取れる金は、絶対に固定のアクセサリーにしかならないと不思議がっていた。それが……



[装飾アイテム:金の指輪]

 効果:状態異常■■を一定確率で無効化するリング。

 ある場所で使うと……?



 またまた謎のメッセージ。怪しすぎたので断りを入れてからスクリーンショット。すると浮かび上がる古代文字。


[金、銀、白金、魔銀の指輪を持ち、向いくる■■に備えろ]


 なる言葉がリングから浮かび上がる。

 今の私じゃ■■の中身は特定出来ないのか、どうにも気になる。



「何か出てきた?」


「うん、どうもハズレと思われてた鉱石類でリングを作るのがこの先の攻略の鍵らしい」


「どう言うこと?」


「私にもわからない。浮かび上がった情報がこれだ」



 いつものように情報を共有する。

 すると困ったようにランダさんが唸った。



「これは一旦出直す必要があるね」


「どうして?」


「単純にリングにする手間を考えたら出土された量じゃ全然間に合わないからさ。さらに人数分作れときた。ああ、こう言う時に脱出の巻物を作らせたのか。なかなか気の利く采配をしてくれるじゃないか」



 何やらブツブツと独り言を述べるランダさん。

 どうしたんだろうと旦那であるジキンさんに聞いてみると、どうやらやる気スイッチがついたみたいだと肩を竦めていた。

 あの拘り屋のランダさんがねぇ。

 妻にも聞いたけど、こんな表情を見せたのは初めてだって。

 何でもかんでもそつなくこなしちゃう反面、一度火がつくとそればっかりになると聞いて驚いていたみたいだ。

 まるで十年来の付き合いのような彼女達だけど、私とジキンさん同様まだ出会って一年も立ってないんだよなぁと感じさせる。


 スズキさんは往年の炭鉱夫みたいに頭に鉢巻きをくくりつけてえんやこらとツルハシを振るっていたっけ。

 突っ込んだら負けた気がするので敢えて言わなかったけど、どうやって装備してるんだろう。

 魚人の謎がまた一つ浮かび上がる瞬間だった。

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