76.戦いの終着点は、露出だ!

『な、なんだ、この魔力量は⁉ あり得ぬ‼ ただの人間に、こんな力があるはずが……』


 裸体魔限突破ヌーディスト・ブーストによって増幅し続ける魔力に、カオスブグレも衝撃を受けていたが、同時に鎧に染み込んだロッシュの体液魔法が、封印効力をどんどんと強めていった。


『ぬっ、ぬああああああああああああっ‼』


 やがて、ヌルヌルの魔法で呪力を減殺された魔装王の巨体が見る見る縮んでいき、その身にまとっていた漆黒の鎧が、ピキピキと音を立てて崩れ始めた。


 そして、砕けて風化した鎧の中から、とても魔界の首魁しゅかいとは思えないほど貧弱な体になった魔装王が転がり落ちてきた。


『なあっ⁉ 我が鎧が、我が肉体が……これほどの弱体化を⁉』


 兜だけを残し、ヒョロヒョロの肉体をき出しにしたカオスブグレが、ギョッとして叫んだ。


「ふっ。これでお互い、裸の付き合いになったな」

 裸コート姿のロッシュが、満足気に笑った。


「魔装王カオスブグレ。せっかく露出ろしゅつ仲間フレンズとなった相手を倒すのは少々心苦しいが、今回のお前たちの侵攻によって、戦場に多くの血が流された。祖国を守るために必死で戦った兵士たちの働きにむくいるためにも、俺はお前を、全力で倒させてもらう」


 トレンチコートを風にはためかせ、筋骨たくましい裸体をこれ見よがしに無料公開したロッシュが、堂々と宣言した。


 それは常識を持った人間からすれば、もはやどちらが魔王なのか分からない、非常にカオスなシチュエーションだった。


『ふ、ふざけるな、この変態人間がああっ‼』


 カオスブグレはもっともな罵言を吐いて憤激したが、封印魔法で力を奪われ、魔剣までも奪われた状態では、虚勢にもなっていなかった。


「ではいくぞ。ワガマタ我が股間よりラーグ出でしノムスコー魔剣よグウィングウィン盛大に飛び立ちテンデマ天元をキヌヨツーケ突破せよ……」


 ロッシュの詠唱によって、その全身から発される魔力と呪力が、さらに量を増していった。


 あまりに人間離れした力を前に、ヒョロヒョロの魔装王は、顔をサーッと青ざめさせた。


『ぬおっ……‼ や、やめろ‼ 貴様、かつて剣姫たちにはずかしめられた兄者のように、我に乱暴するつもりだな⁉ ゼン・ラーディスに存在するエロ同人みたいにいいいいっ‼』


 弱体化し、もはや魔族の威厳すら喪失した哀れな魔装王は、完璧に錯乱状態におちいっていた。


「あらあら。魔装王がテンパってますよ、マリナ」

「五十年前に裸踊りしてたダークハドリーを思い出すわー。やっぱり兄弟ねー」


 戦場でお茶を飲む英雄二人が、のんびりと論評した。


 そして、ロッシュが形成した異空間から覗き出した魔剣にありったけの魔力が注ぎ込まれてゆき、その刀身がまばゆい輝きで満たされた。


 まるで、彼自身の股間が燦然さんぜんと輝いているような光景を、ある者は茫然と、またある者は陶然と、カディルとアイナなどは嫌悪を込めて見つめていた。


「これが俺の、全身全霊を込めた究極露出魔法だ‼ くらえ‼ 『ビックバン・ヌーディスト・スプラアアアアアッシュ』‼」


 ロッシュの咆哮と共に、輝く大剣が彼の下半身から、爆速で放たれた。


『こんな……こんな馬鹿なやられ方が、あってたまるかああああああっ‼ 兄者あああああああっ‼』


 絶叫が終わる前に、射出された魔剣は、見事魔装王に命中。


 それによって生じる極光と、猛烈な超全裸爆発。


 ロッシュの究極変態魔法を弱体化状態でくらった魔装王は、哀れにもその存在を、ゼン・ラーディスから完全抹消されてしまったのだった。



■□■□■□



 やがて、魔界の指揮官を失ったという事実に愕然とする、残された魔物たち。


 一方、爆風の中からトレンチコートをはためかせ、スーパーマンのように飛び出してきたロッシュの姿を認めた人々は、ワアッと歓声を上げていた。


「ま、魔装王を倒したぞおおおおおっ‼」

「信じられん‼ 俺は、夢を見ているのか⁉」

「一時はどうなることかと思ったが、なんて凄い戦いだったんだ……」

「全くだ。特に最後の魔法は、とても人間技とは思えない、凄まじい股間の一撃だった……。ゴクリ……」

「ああ……天にまします神々は、我らを決して見捨てませんでした。あのように雄々しき救世主メシアを戦場にお導きくださったこと、感謝しかありません……」

「いいえ。きっとあの方こそが、この世に降り立った現人神あらひとかみなのです。そうでなければ、あの人間離れした力と裸体の美しさに、説明がつきません。なんというビューティフルヌードなのでしょう……(うっとり)」


「ぬあああああ‼ ロッシュ先輩の魔剣攻めがあまりにも激しくて、魔装王が絶頂と共にはじけ飛んじゃったあああああああん‼ ブッシャアアアアアアアアアン‼」

「ココロ、落ち着いて‼ 誰か、この子の脳内妄想を停止させてーっ‼」

「ああ……もう辛抱ならない! 僕も、この鎧を脱ぎ捨てて戦うぞ‼ カイン君、手を貸してくれ‼」

「ジ、ジーク様、一体どうなさったのです⁉ お気を確かに‼」


 一部では興奮のあまり、脳の働きに異常をきたしてしまった人々もいたが、ロッシュが魔装王を倒したことで、ローヴガルド軍とラスタリア軍の士気は、うなぎのぼりの状態だった。


「魔装王を倒し、ダークドラゴンもいなくなれば、あとはこっちのものだ‼ 一気に勝負を決めるぞ‼」


 そして盛り上がる兵士たちは、統率を失って戸惑う魔物たちを勇猛果敢に攻め立て、戦場の勝勢を揺るぎないものとしていった。


「ふははは‼ まだまだ見せたりないな‼ 露出の宴は、こんなものでは終わらないぞ‼」


 その勢いを全軍にもたらした張本人のロッシュは、己の有り余る魔力と変態性を誇示するかのように、トレンチコートをはためかせて空中を飛び回り、残敵の掃討にあたっていた。


「もうヤツの奇行には、付き合いきれん……」

「全くです、師匠……。まさかあのノリで、魔装王まで倒しちゃうなんて……」


 カディルとアイナは、宙を舞う変態の醜態にただ溜息を漏らしたが、そこにマリナベル女王がふらりとやって来た。


「話には聞いてたけど、あなたの孫は色々と凄いわねー、カディル」

「ああ……魔法の発想力や応用力に関しては、若い頃のワシより遥かに上じゃろう。しかしマリナ、お前はこうなることを見越して、呪われたロッシュをわざわざ戦場に連れてきたのか?」

「まあ、ここまで上手くいくとは思ってなかったけど……。あの子が呪いにむしばまれながらも、鎧になにか細工をしてるのはすぐ分かったから、戦場に連れて行けば役に立ってくれるかもしれないって、直感で閃いたのよ」

「相変わらず、戦いに関する勘はずば抜けとるな……」


 かつての戦友の発言に、カディルは呆れたような声を返した。


「魔装王が魔王の鎧を吸収してパワーアップした時は、ちょっと焦ったけど……まさかあの状態で、鎧に弱体化の魔法を仕込んでいたとはね。末恐ろしい子だわ」

「そうじゃな……。独力で異空間魔法まで習得していたのには、ワシも驚いた」

「それに、あの脱ぎっぷりは半端じゃないわよ。裸コート姿であんなに嬉しそうに飛び回るなんて、筋金入りの特殊性癖の持ち主ね。恐れ入ったわ~」

「……それ以上言わんでくれ‼ ワシにはもう、あやつを真人間まにんげんに矯正する方法が思いつかんのじゃ‼ いっそヤツの脳天に隕石でもぶち当てるしかないのかと、本気で思い悩んでおるんじゃ‼」


 そう嘆きながら、カディルは頭を抱えてしまった。


「あらあら、いいじゃありませんかカディル。あの子のあんな嬉しそうな顔、久しぶりに見ましたもの」

「そういう問題じゃないですよ、マーサ先生……」


 マーサの言葉に脱力するアイナが見上げた上空では、裸トレンチコートの幼馴染が華麗なインメルマンターンを繰り出しつつ、ご機嫌な表情で地上の魔物たちに盛大な攻撃魔法をぶっ放していた。


 まさに、悪夢の変態爆撃機だわ……と、アイナはその姿にうんざりしたのだった。


 そして、数時間後。


 ローヴガルド王国とラスタリア神聖国の連合軍は魔物の大軍を駆逐し、奇跡の大勝利を上げて、見事魔界の脅威から、ゼン・ラーディスを守り抜いたのだった。

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