75.神々しい露出には、誰も抗えない

 やがて、ロッシュは笑うのを止め、不意にイケメンな真顔になった。


「さて、魔装王。お前の一番の武器は、こうして俺の手の中にある。対するお前は武器を失った挙句、邪封の魔法で弱体化。こうなれば、もう勝ち目は薄いと思うが……どうする?」

『ふざけるな、小僧‼ 貴様ごときの力で、魔界を支配する我を打ち倒せるものか‼』

「……そんなふうに意地を張ると、負けフラグになるぞ?」


 ロッシュが言うと、トレンチコートに包まれたイノセンスな裸体から、膨大な魔力がドバポンッとあふれ出した。


 その規格外の魔力量に、アイナとカディルは目を見張った。


「この魔力は……‼ ロッシュの奴、いつの間にここまでの力をつけおった⁉」

「凄い……。でも確か、前にもこんなことが……」


 言いさして、アイナはハッとした。


「ふふふ……そうだ。皆もっと、俺の赤裸々なボディを見つめてくれ……。俺はこの時が来るのを、ずっと待っていたんだ……」


 うっとりと陶酔するようなロッシュの姿を見て、アイナの嫌な予感は確信に変わった。


 そう、それは、ロッシュの切り札である「裸体魔限突破ヌーディスト・ブースト」。


 自身の裸体を多くの人にさらして興奮を覚えることで魔力を急上昇させる、彼のとっておきの特殊(性癖)スキルだった。

 

 ……が、実はロッシュがこの能力を使うのは、ドロリーンチョ湿原でエンペラースライムと戦って以来、久々のことだった。


 ドロリーンチョ湿原の戦い以降も、暗殺ギルドを壊滅させたり、レッドドラゴンと戦ったりと、様々な戦闘を繰り広げてきたロッシュだが、そこでは彼は、裸体魔限突破を全く発動させていなかった。


 なぜならそれらの戦いでは、いわゆる「妙齢の女子」の視線が幼馴染のアイナ以外に無く、あとはほとんどが、むさ苦しい暗殺者や騎士団の男たちの視線だったためである。


 だが今回の戦いでは、男の兵士以外にも、後衛の魔法部隊や看護部隊、さらにはラスタリア援軍の女性神官など、数多くの女性たちが戦闘に参加していた。


 そして、そんな人々は、黄昏たそがれの陽光を浴びて浮遊するロッシュの裸コート姿に、ただただ圧倒されていた。


「強大な魔族を相手に裸コートとは、なんて剛毅な男だ……」

「魔剣をそそり立たせて、あんなにも威風堂々と……。あの胆力は、只者じゃないぞ」

「やだ。あの人、凄くカッコいい……。裸コートだけど……」

「ええ、凄い屹立きつりつだわ……」

「ああ……なんと神々しい御姿なのでしょう……」

「主よ、このような素晴らしい光景を我が眼前に与えてくださったこと、感謝いたします……」


 戦場に立つ人々の衝撃はひとしおで、特に普段から敬虔けいけんな修行を重ねているラスタリアの女性神官の中には、天に祈りを捧げる者まで出る始末だった。


 そして、ロッシュと親交の深い人物たちも、その雄姿をまざまざと見せつけられていた。


「ロッシュ……この死闘の最中に堂々と裸になることができるとは、なんと羨ましい……。僕も総指揮官という立場になければ、今すぐにでもこの鎧を脱ぎ捨てるというのに……」


 ジーク王子は口惜しそうに言いながら、同時にどこか嬉しそうな表情で、自らの胸元に拳をあてがった。


「さすがの度量だ、ロッシュ……。私も剣の腕を磨き、少しは君の実力に近づけたかと思っていたが……君はまたあっという間に、私の手の届かない高みへと昇ってしまったな……」


 騎士科首席のカイン・レッドバースが、感極まった様子で的外れの賛辞を送った。


「ロロロ、ロッシュ先輩いいいいいっ‼ そんなお姿で股間の窓から魔剣まで出してくるなんて、反則ですよおおおおおっ‼ 『俺の魔剣でお前の暗黒領域ダークマターを開発してやろう』的な妄想が溢れて、もうどうにも止まらないじゃないですかああっ‼ ゴキュリンコブッシャアアアアアアアアアアアアアアッ‼」

「ココローーッ‼ 治療班! 急いで輸血用の血液を持ってきて‼」


 後輩のココロ・フィジョースが絶叫と共に大量の鼻血雨を戦場へ降らせ、フィーリ・サクリードは致死量に近い血液を噴出した友人を救うため、周囲に救護を要請した。


「あらまぁ。おたくの孫、ホントにいい身体してるわね、マーサ」

「そうでしょう、マリナ。立派に育ってくれましたよ。うふふ」

「ああ、私の作ったコートが、全裸若様の供物くもつに……」

「気に病んではいけません、シンリィ。とりあえずお二人に、お茶をれてください」


 マリナベル女王とマーサは、いつの間にかメイドたちの手を借りて、呑気にお茶会を始めていた。


「ウゴォオ、ガウッガウ……(あの人間、色っぽいじゃねえか……)」

「グルルウウァ、ゴクリンチョォオ……(全くだぜ、ゴクリンチョ……)」


 なぜか敵からも、ロッシュに魅了される魔物が続出していた。


「誰か、あの変態をどうにかしてくれ……。一族の恥じゃ……」

「師匠、あんなのもう、私たちの手には負えません……」


 カディルとアイナは、ロッシュの究極変態形態アルティメット露出フォームに酔いしれること無く、その蛮行に頭を痛めていた。

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