70.発掘だ。ジーンズを穿け!

 そして、回復で傷が癒えたカインやココロ、フィーリらも手伝って、クレーターの中心をどんどん掘り起こしていくと、やがて地中深くから、土に汚れた重厚な鎧が一つ、姿を現した。


「う、うう……」

 その鎧の内部から聞こえてくる、か細い声。


「ロッシュ‼」

 土まみれの鎧兜の中に幼馴染ロッシュ・ツヴァイネイトの顔を確認して、アイナは叫んだ。


「おお、アイナ……。ようやく会えたな。口の中に、土の味が広がっている……」

 言いながら、苦しそうに土を吐き出すロッシュ。


「ロッシュ‼ 無事だったか‼」

「よく生きてましたね、先輩……」

「ロッシュ先輩、噂にたがわぬビッグな鎧ですね……ごくり……」

「まさかこんな形で、キミと再会することになるとは……」


 ロッシュを一緒に掘り起こしたカインたちと、そこに駆けつけたジークも、安堵の表情を浮かべた。


「やあ皆、助かったよ。土の中で全く身動きが取れず、危うく窒息死するところだった」


 そう言ったロッシュは、相変わらず鎧の呪いで満足に動けない様子だった。

 

 おまけに、呪いはさらに深刻化しており、鎧のサイズは倍近く膨れ上がった上、あちこちから所狭しと巨大なトゲや角を生やして、一層邪悪な外見となっていた。


「なんだか、ますます鎧が凄いことになってるわね……」

「ああ。もう自力では、起き上がることもできない。だが、皆が戦場で戦っていると思うと、居ても立っても居られなくてな。本当に無事でよかった、アイナ……」

「ロッシュ……」


 優し気に微笑んだ幼馴染のイケメンな表情に、アイナは不覚にも、胸をキュンとさせてしまった。


「……ちなみにアイナ。ずっと土に埋まっていたせいか、今もまた、股間がかゆくてしょうがないんだ。もう俺の腕は動かせないから、ぜひまたお前に、股をいてほしいんだが……」

「誰が掻くかっ‼」


 変態平常運転のロッシュの脳天に、アイナはロッドを叩きつけた。


「……しかし、あの老婦人は何者だ? 俺を後ろに乗せた状態で、馬を非常識なスピードでかっ飛ばすわ、戦場が見えた途端、『これはマズいわ』とか言って、俺のことをダークドラゴンに向けて素手でぶん投げるわ……。まさか浮遊魔法無しで、あんな超速飛行を体験するとは思わなかった」


「ごめんなさいね、ロッシュ。非常事態だから仕方なかったのよー」


 マリナベル女王が、全く悪気の無い口調でロッシュに謝罪した。


「まあ、驚きはしたが……って、あんた誰だ⁉ あの老婦人はどこに行った⁉」

「あら、あたしがその老婦人よー。あなたと一緒にいた時の恰好は、世を忍ぶ仮の姿。ビューティフル美魔女なこの姿こそが、私の真の姿トゥルーフォームなのよー。ほほほほー♪」


 なぜかご機嫌な女王様に、ロッシュは珍しく困惑の表情を浮かべていた。


「ロッシュ……あの方、マリナベル女王陛下よ。ラスタリア神聖国の……」

「なに? ということは、じいさんの戦友という剣姫か⁉」

「だから、姫はやめてよー。女王様って呼んでちょうだい♪」


 そう言われれば確かに、生まれて間もない頃、目の前の女性に似た人物が何度か屋敷を訪れていたことを、ロッシュは不意に思い出した。


 今回屋敷に現れた時は変装していたとはいえ、まさか彼女があの剣姫本人とは、さすがのロッシュも全く予想していなかった。


『ふ、ふふふ……ふはははははははは‼』


 そこで突如、狂ったように甲高い笑声が戦場に響き渡った。


 それは、ロッシュたちからやや離れた場所に立つ魔装王まそうおう、カオスブグレが発したものだった。


「や、やはり……。なんということじゃ……」


 もう一方で顔面に汗を浮かべて呟いたのは、カディルだった。


「ん? じいさん、どうかしたのか?」

「マーサから『鎧』と聞いて、嫌な予感がしていたが……なぜお前がそれを身に着けておるんじゃ、ロッシュ⁉」

「あー……これには、やむにやまれぬ事情があってだな……」


 鎧をまとう原因となった自らの行いをどう誤魔化そうかと考えるロッシュをよそに、魔装王の笑いは止まらなかった。


『ははははは‼ ダークドラゴンの頭が吹き飛ばされた時に感じた魔の気配は、気のせいではなかったか‼ まさかその鎧が、こうして目の前に現れるとは‼』


「? この鎧が、一体なんだというんだ?」

 ロッシュが、いぶかしむように尋ねた。


『その鎧こそ、暗黒の魔鎧まがい「ダークヌゲヌ・カタヴィ」‼ かつて我が兄、魔王ダークハドリーが身に着けていた、魔界最高クラスの魔装具まそうぐだ‼ 五十年前に兄者が破れた際、消失したものと思っていたが……まさか、原形をとどめて残っていたとは‼』


「なっ、魔王の鎧⁉ あれが⁉」


 カオスブグレの言葉に、アイナは驚愕した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る