68.ちょっと反則ですよ、あなた
後方に素早く陣を展開したラスタリア軍は一斉に戦場へ加わり、魔物と交戦していたローヴガルド軍の援護を開始した。
無傷の新戦力の出現によって、攻め一辺倒だった魔物たちは勢いを削がれ、あちこちで崩れかかっていたローヴガルドの戦線が、徐々に再構築されていった。
「女王陛下‼」
声と共に、マリナベルの元に一騎の白馬が素早く駆けつけてきた。
そこには、洗練された意匠の鎧に身を包んだ、銀髪のイケメンが
「あら聖騎士長、ちゃんと援軍に来てくれたのね。ご苦労様」
マリナベルの口調は落ち着いていたが、反対に、聖騎士長のリアクションは慌ただしかった。
「いやいやいや‼ 女王陛下がご不在でしたから、代理を務める軍務大臣の指示で迅速に軍を率いてきたのに、なぜ当の陛下がここにいらっしゃるのです⁉ ローヴガルドに向かわれたのではなかったんですか⁉」
「そうよー。初めはローヴガルドに行って、そこでカディルたちが出発しちゃったって聞いたから、方向転換してここまで来たの。二度手間で大変だったんだから~」
「回り道したのに、どうしてラスタリアから直進してきた我々より早く平原に着いているのです⁉」
「そりゃ可能な限り、馬をかっ飛ばしてきたから……」
「いくらなんでも、速度がおかしいです‼」
「相変わらず、ぶっ飛んだ行動を取りおって……」
マリナベルと聖騎士長の会話に、カディルは呆れていた。
『貴様が、マリナベル・ラスタリアか……。ようやく現れたな……』
そこで、完全無視される形になっていた
「あら。こいつが、今回の敵の大将?」
『いかにも。我が名は、魔装王カオスブグレ。五十年前に貴様らに倒された魔王、ダークハドリーと血を分けし魔族だ。兄者の無念を晴らし、このゼン・ラーディスを再び魔族の支配下に置くため、
「わざわざご苦労なことで……」
魔王の直接の
『ご苦労だと? 余裕ぶっていられるのもそこまでだ、人間‼』
魔装王が断言すると、最後に残っていた無傷のダークドラゴンが、カディルとマリナベルの元に猛烈な速さで向かってきた。
『そいつらを始末しろ、ダークドラゴン‼』
「女王陛下、早く下がってください‼」
焦る聖騎士長をよそに、マリナベルはどこまでもマイペースだった。
「あ、しまった……。急いでたから、聖剣を本国に忘れてきちゃったわ。聖騎士長、あなたの剣、一本貸してちょうだい」
「マリナ、敵が来とるぞ‼」
カディルが叫んだ時には、ダークドラゴンが巨大な前脚の一本を、眼下のマリナベルたちに振り下ろしていた。
「あら、さすが騎士団のトップ。いい剣持ってるじゃない。……よっと!」
言いながら、マリナベルは聖騎士長から受け取った剣を、上方にヒュヒュンッと、数回振ってみせた。
すると、頭上に迫っていたダークドラゴンの脚が
「ええええっ⁉」
信じがたい光景に、アイナは目を剥いた。
一方のマリナベルは返り血を避けるため、剣を振った場所から素早く移動していた。
「あれ、ダークドラゴンよね? あんなデカいのを、よくもまあ地上まで連れてきたもんだわ」
「さすが、デタラメな剣技と馬鹿力は健在じゃったか……」
女王に引きずられ、共に強引な高速移動をさせられたカディルが、溜息を吐いた。
「ちょっと、馬鹿力なんて酷いじゃない‼ そう言うカディルこそボロボロだし、年甲斐も無くはしゃぎ過ぎでしょ。もう年寄りジジイなんだから、無理しない方がいいわよ?」
「やかましい! お前も年齢は大して変わらんじゃろ!」
見た目の年齢は親子ほどにも異なる二人が、ギャーギャーと口論し始めた。
「……なんだかマリナベル女王陛下って、思ってたのと随分、
アイナが言うと、マーサはクスクスとおかしそうに笑った。
「マリナは若い頃から王族らしからぬ行動力で、頭より先に身体が動いちゃうタイプでしたからね。いわゆる『
「マーサ先生、にこやかだけどすごい辛辣ですよ、その評価……」
『おのれ……まだだ‼』
魔装王が言うと、脚を一本失ったダークドラゴンが、再び
「あーもう、邪魔よ‼」
マリナベルは吐き捨てると、放たれた毒のブレスをあっさり
そしてそこから、ダークドラゴンの背中へと綺麗に着地。
「ふうううっ……」
大きく息を吸い込んだ女王の身体から、
「
鋭い
すると今度はダークドラゴンの全身が、スパッと魚の切り身のように綺麗におろされてしまった。
『こいつ……⁉』
思わず
「うーん……やっぱり聖剣じゃないとダメね。ドラゴン一匹仕留めただけで、もう刃がボロボロになっちゃった」
あっさりダークドラゴンを斬り捨てて地面に降り立った女王が、あちこち刃の欠けた剣を手に、不満げな声を漏らした。
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