62.激戦。ふぁいと一発、仲間たち!

 一方、開戦から半日近くが経過し、リシタータキ大平原の戦闘は激化の一途をたどっていた。


「燃えよ、フレイム・ブラスト‼」


 浮遊魔法で上空に浮かぶカディルによって放たれる、赤い閃光。

 それは、中規模程度の爆撃を連鎖的に生じさせ、地上の魔物を次々と仕留めていく。


 かつての英雄の名に恥じぬカディルの活躍に、ローヴガルドの兵士たちも士気を鼓舞され、それぞれが決死の覚悟で戦っていた。


 だが、魔装王率いる魔界の軍勢は、王都周辺の雑魚魔物とは桁違いの怪物揃い。


 ローヴガルド王国が誇る精鋭の戦士たちは、一筋縄ではいかない苦戦を強いられていた。


「……ぐああっ‼」


 戦場の一角で不死族アンデットの剣士と交戦していた兵が、敵の剣を肩口に受けて、深い傷を負ってしまった。


チャペル降り注げウィーパ治癒の光プゼーキエ絢爛たるリヌカーヴェ聖錬の衣よ……『セイントウォール』‼」


 が、そこで兵士たちの頭上に白いオーロラ状の光が幻出し、波打つ光から降り注ぐ無数の粒子が、彼らの負傷した傷を癒していく。


「これは……聖魔法の光か?」


 その言葉通り、それはロッシュの祖母マーサによって唱えられた、治癒の聖魔法だった。


 マーサの魔法は治癒力だけでなく、その効果範囲も絶大で、光の中心から半径数十メートルの範囲にいた兵士全員が、一度に回復の恩恵を受けることができた。


「なんて効果範囲だ……。かつて『世界最高峰の聖魔法使い』と呼ばれた実力は、未だ健在だな……」

「マーサ先生、凄い……」


 他の兵たちと同じく、弟子のアイナもまた、初めて戦場で目の当たりにする師の聖魔法に圧倒されていた。


 アイナ自身は、全軍の回復のかなめであるマーサの護衛をおおせつかっており、散発的に後方へ攻めてくる魔物たちを自らの魔法で蹴散らしていた。


 敵の数は相変わらず膨大ではあったが、前線で高威力の魔法を放つカディルの活躍と、勢いづいた兵たちの猛攻によって、現在はローヴガルド軍の方がやや優勢のように思われた。


「いいぞ‼ 魔物たちの攻勢が弱まっている‼ このまま一気に突き崩すんだ‼」


 総指揮官のジーク王子が、自らの剣をかざして豪語した。


 無論ジークも、これほど大規模な戦闘は経験したことなど無かったが、随所で見せるその指揮ぶりは堂々たるもので、放たれた声は他者を圧倒するカリスマ性に満ちていた。


 その姿に、初めは彼を「お飾りの王族指揮官」と色眼鏡で見ていた兵士たちも徐々に評価を改め、軍のさらなる士気向上に繋がっていった。


「会長……いえ、王子。少し前に出過ぎです。敵の攻撃を受けたら大変ですから、もっと後方に下がってください」


 生徒会役員のフィーリがジークの騎馬の前におどり出て、陣形の隙間を縫って襲い掛かってきた蜥蜴人リザードマンを、手持ちのダガーで斬り落とした。


 元暗殺ギルドのメンバーだけあって、その戦闘技量はさすがのレベルだった。


「そうですよ、会長! 会長は全軍の指揮に集中してください! 魔物退治の方は、私たちにお任せですよぉ! おりゃーーーっ‼」


 同じく生徒会役員のココロが、自身の身長よりも遥かに巨大なバトルアックスを振り下ろして、筋骨隆々たる牛魔人ミノタウロスを真っ二つにしてしまった。


 小柄な体躯と、武骨な武器との組合せがあまりにアンバランスで、その巨斧を縦横無尽に振り回すココロの姿に、他の兵士たちは唖然としていた。


「さあ、どんどんいきますよーー‼ 総指揮の会長がオークの群れに襲われて、エロ同人みたいな目に遭ったら大変です‼ それはそれで見てみたい気もするけど、どうせなら会長には、ロッシュ先輩やカイン先輩みたいなイケメン男子と、ロマンティックな逢瀬おうせを重ねてもらいたいですからね‼ ふぁいとおおお、いっぱーーーつ‼」


 鼻血をまき散らしながらココロが振るうバトルアックスが、続く魔物も容赦なく切り伏せていく。


「ココロ、出血多量で自滅しないでよ。回復魔法でも、失った血までは取り戻せないんだから」

「わ、分かってるよ、フィーちゃん‼ ちゃんと鼻に詰め物しておくから、問題ないって‼」


 間の抜けたやりとりをしつつも、二人はとても学生とは思えない、見事な戦いぶりを見せていた。


 そして、騎士科首席のカイン・レッドバースもまた、戦場で自らの剣を振るっていた。


「はあああああああっ‼」


 勇ましい声と共に、獰猛なオーガの重戦士に鋭い剣撃を放つカイン。


 少し前までは「優秀だが、剣筋けんすじにどこか迷いが見られる」と評されていた彼だったが、遠征でレッドドラゴンを仕留める戦果を挙げてからはその迷いも消えたようで、峻烈な連続攻撃でオーガに攻め勝つと、そこから続けざまに、強力な魔物を次々と仕留めていく。


 ロッシュが戦場に来られない今、私が全力を尽くさずしてどうする‼


 カインは真っすぐな騎士道精神を胸に、必死の思いで戦っていた。


 ロッシュ。呪いで苦しむ君の分も、私はこの剣を振るって戦うぞ‼ そして必ずや勝利の吉報を、本国の君の元へと届けてみせる‼


 思い込みが激しい性格は相変わらずで、若干の暑苦しさは否めなかったが、カインの場合はかつてのジークのように、ロッシュの露出精神汚染を受けていないだけ、だいぶマシではあった。

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