60.その頃の露出狂
一方、やや時を
「ううむ、身体がしんどい……」
日が経つにつれ強くなっていく呪いに
おまけに彼の身体をがっちり包み込んだ鎧は、呪いの進行と共に大きさを増しており、質的にも見た目的にも、身に着けた当初より数段ゴツくなっていた。
「若様、鎧が随分立派になっていますが、大丈夫ですか?」
メイド長のエリーゼが、いつも通り淡白な口調で問いかけた。
「正直、かなりキツイな。聖魔法の魔法陣の中にいても、大して楽にならんし……」
祖母のマーサが屋敷の床に形成していった魔方陣の中でうつ伏せになりながら、ロッシュはヒッヒッフーと弱々しい呼吸を繰り返した。
「こうして会話ができるなら、まだ大丈夫そうですね」
「エリーゼ……お前は、いつもながら塩対応だな」
「本来なら私も、マーサ様たちに同行して魔物討伐に向かう予定だったのです。ですが、若様を一人にしておけないからと、マーサ様に面倒を見るよう頼まれて……。そうでなければ、誰が好き好んで若様と留守番などするものですか」
エリーゼの声は、とても不満げだった。
「しかし、メイドは他にもいるだろう。わざわざお前が残らなくてもよかったじゃないか」
「呪われているとはいえ、変態の若様をフリーにしておくのは、危険極まりないですから。他のメイドたちではいざという時、若様の暴走を抑え込むにも力不足ですし」
「暴走だなんて、人聞きが悪いな。……そういえば、シンリィも屋敷に残っているんだろう? 今はなにをしているんだ?」
日頃から熱心に露出の教育的指導を
「全く懲りていませんね……。今度は一体、どんなセクハラ行為を敢行するつもりですか?」
「待て、誤解だ。少し前に彼女に頼み事をしていたから、その進捗を確認したかったんだ」
「……頼み事、ですか?」
「ああ。実は彼女に、ちょっとした服の製作を依頼していてな」
シンリィ・フクツキュールは、元々その縫製と服飾の腕を買われて、ツヴァイネイト家に雇われた少女だった。
孫の脱衣を防ぐためカディルが開発した
洋服店の数倍の給与を示され、ツヴァイネイト家への転職を即決したシンリィだったが、それが、彼女にとって悲劇の始まりでもあった。
シンリィの超絶技巧によって、裸封法衣の製作スピードは驚異的な向上を見せ、カディル的には大助かりだったのだが、まだ年若くウブな少女は、変態の次期当主にばっちりロックオンされ、事あるごとに露出の哀れな犠牲となってしまった。
だが、その変態ロッシュが、シンリィに真っ当な頼み事……しかも、服の製作を依頼していたというのは、意外な話だった。
「若様が服を縫ってほしいだなんて、天変地異の前触れでしょうか。呪いで頭がおかしくなったんですか? この指は何本に見えますか?」
「いや、俺は正気だぞ……」
思わず片手でピースを作るエリーゼに、ロッシュはか細い声で答えた。
「少し思うところがあって、どうしても必要でな。誠心誠意シンリィに頼み込んで、了承をもらっていたんだ」
誠心誠意、真っ裸でシンリィに詰め寄り、半ば脅迫に近い形で了承を得ていたロッシュだったが、それについては口に出さなかった。
「そういうことなら、確認してきますが……くれぐれも私が席を外している間に、屋敷から脱走など
冷たい殺気を漂わせるエリーゼだったが、それに対してロッシュは、苦々しく笑って見せた。
「心配しなくても、そんな力など残っていないさ。そもそも、それくらい身体を動かせていたら、今回の遠征にも参加していたしな」
「若様……」
そこで初めて、エリーゼの顔に
数日前、ローヴガルド軍が王都を出立した際も、呪いでほとんど動けなかったロッシュは、戦地に向かう祖母やアイナの後ろ姿を
さらに、
その他にもヌーダストリア学園に通う生徒が幾人か、強大な魔物から国を守るため、戦場へと旅立っていったのだった。
「俺は……自分の無力さが、恨めしくて仕方ない」
そう言って、ロッシュは唇を噛みしめた。
「大魔法使いの孫だとか、五十年に一人の天才だとか、これまで多くの人から様々な称賛を浴びてきたが……そんな称賛など、いざという時にはなんの役にも立ちはしない。今の俺は、とんだ
「若様……」
「皆が命懸けで戦おうとしているのに、一人だけこんな呪いで動けなくなって……なにが天才魔法使いだ‼ なにが露出の貴公子だ‼ くそっ‼」
「…………」
後半の異名は、別に誰も呼んでいないのでは……とエリーゼが呆れ交じりに思っていると、不意に、玄関から来客を告げるベルの音が響いてきた。
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