52.闇の襲来

 その頃、封印門ゲートが存在するムラムウラ山脈の古城に、ローヴガルド王国調査団の先遣隊せんけんたいが到着していた。


 彼らは封印門の定期的な調査のため、ムラムウラ山脈から馬で数日ほどの駐屯基地に常駐しており、今回はローヴガルド本国からの命令で、臨時の状況視察に訪れていた。


 前回の定期調査を数週間前に終えたばかりだったため、隊員たちは当初、「どうしてわざわざ、二度手間の調査をしなければいけないんだ……」と不満顔だった。


 が、しかし。


 古城内部を進み、最奥の大広間へと到達した彼らは、そこで目にした光景に驚愕した。


「な、なんだ、これは⁉」

「封印門が……まさか、そんな‼」


 彼らの眼前には、両開きの扉を備えた、巨大な石造りの門があった。


 門を構成しているのは、魔力を大量に蓄えることができる鉱石「魔封石まふうせき」で、惜しみなく使われた魔封石の内部には、強力な封印魔法術式が何重にも刻み込まれていた。


 その術式は五十年前、ゼン・ラーディスと魔界の境界を断絶するため、大魔法使いカディルによって編み出されたもので、若き日のカディルが英知と魔力を注ぎ込み完成させた封印門は、剣姫戦争けんきせんそう終結後も魔界の敵の侵攻を封じ続けてきた。


 ……だが今、その封印に、明らかな異変が生じていた。


 先遣隊の前にそびえ立つ、巨大な門扉。

 その扉全体が、ガタガタと不気味な音を立てて振動を続けており、門を包む封印魔法の青い光は、徐々にその輝きを弱め始めていた。


 今までの調査で目にしたことの無い異常事態に、先遣隊の面々は大量の汗を浮かべていた。


「ま、魔法部隊は、ただちに封印強化の緊急措置を取れ‼ それと、こちらに向かっているカディル様の元へ、大至急伝令を‼ 封印門の魔力が弱まっている‼ このままでは……」


『ククククク……』


 先遣隊の隊長が指令を発した直後、がらんどうな古城の広間に、不気味な笑声が響き渡った。


「……なんだ、この声は⁉」

「まさか……封印門の、中から⁉」


『忌々しい封印の力が、ようやく弱まってきたか……』


 重低音の声に続き、古城全体が大きく揺動し始めた。


「隊長、これは……‼」

「急げ‼ なんとしてもカディル様とローヴガルド本国に、情報を伝えるんだ‼ 封印門が……封印門が、破られる‼」


『この封印を破るため、長き時と多大な呪力を要したが……くだらぬ耐久の時間も、ついにお終いだ。これで心置きなく……ゼン・ラーディスを攻め落とすことができる‼』


 その一声が発せられた直後、五十年間決して開くことの無かった封印門の扉が、勢いよく開け放たれた。


 扉の内部からあふれ出す強烈な魔の気配と獰猛な魔物たちのうなりに、先遣隊の隊員は全員、声と顔色を失った。

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