41.ブリだと思ったらヒラマサでした、的な?

 その後、一行は目的地に向かいながら、魔物との戦闘を繰り返していった。


 騎士団第三部隊は手練てだれの騎士揃いで、回復のほどこしようが無い死傷者は出たりしなかったが、襲い来る魔物の数は増える一方で、さすがに団員の疲労も濃くなっていった。


 しかし、ロッシュやアイナの献身的なサポートもあり、騎士団は一週間ほどの行程を経て、無事モノゴッツタケー高地に到着を果たしていた。


「ようやく着いたか……。中々大変な旅路だったな」

 遠くに並び立つ山々を眺めながら、ロッシュは馬上で軽く伸びをした。


「思った以上に、戦闘も多かったしね。やっぱり魔物の数は、間違いなく増えているみたい」

「まあ苦労はしたが、こんなに美しい山並みを見る機会が得られたことだし、それで良しとするか」

「なに気取ったこと言ってるの……」


 アイナはそう返したが、巨大な夕陽が周囲の空を黄金色に染めながら山脈へと沈んでいく光景は、確かに息を呑むほど美しかった。


「魔物が出たぞ‼」

「「‼」」


 そこで不意に、周囲の見回りを行っていた小班の騎士が、敵襲を告げた。


 ロッシュたちが声の方角を向くと、確かに一匹の魔物が、土煙を上げながら騎士団に接近してきていた。


 魔物は、体長二メートルを超える赤いトカゲのような外貌で、高山の大地を二本足で、やや鈍重に走っていた。


 直近の騎士たちはその姿を視認するや、各自、素早く剣を抜き取った。


「敵を囲い込め‼」

 隊長の号令で、乗騎した団員が輪上に広がり、フォーメーションを組みながら魔物を包囲していった。


 と、そこで、赤トカゲが大きく口を開き、その口中でチリッと火花が散り始めた。


「攻撃が来ます‼」

 ロッシュが叫んだ直後、赤トカゲの口から激しい炎が吐き出された。


「うおっ⁉」

「ウォーター・ウォール‼」


 驚く騎士たちの眼前にロッシュの水魔法で障壁が張られ、吐かれた炎を綺麗に受け止めた。


「敵の炎は魔法で防ぎますから、隙を見て攻撃を‼」

「分かった‼ 次に敵の攻撃が止んだタイミングを見計らって、一斉に斬りかかるぞ‼」


 隊長が指示を出すと、今度は赤トカゲが、数発の火球を小刻みに発射してきた。


「なんの‼」

 ロッシュは続けざまに水の障壁を現出させ、飛来する火球を全て防いでみせた。


「今だ‼ かかれ‼」


 そして敵が火球を吐き終え、口を閉じかけた瞬間、数人の騎士が巧みに馬を操り赤トカゲに接近して、馬上から剣を振り下ろした。


 全身をうろこに覆われてはいたが、装甲はそれほど厚くなかったようで、騎士たちの剣に身を裂かれた赤トカゲは、グギャアアアと耳障りな悲鳴を発して地面に倒れ、やがて動かなくなった。


「やれやれ、気を抜く暇も無いな……」

 隊長がボヤキながら、赤トカゲの亡骸に歩み寄っていった。


「隊長。トドメは刺せたと思いますが、一応気を付けて」

「分かっているよ、ロッシュ。援護してくれて助かった。ありがとう」


 そしてロッシュも隊長に続いて、こと切れた魔物の元へ近づいていった。


「しかし、火を吐くオオトカゲ種など、この高地で見るのは初めてだ。一体どこからやって来た魔物だろうな?」


「……これは‼」


 こと切れた魔物の姿を間近で確認したロッシュは、驚きに目を見張った。


「どうした、ロッシュ?」

「隊長……この魔物は、オオトカゲの亜種ではありません。見た目は似ているが、こいつは、全く別の生き物だ……」

「オオトカゲではない? なら一体、なんの種族なんだ?」

 珍しく愕然とした様子のロッシュに、隊長が問いかけた。


「こいつは…………ドラゴンの幼生です」

「なんだと⁉」


 ロッシュの言葉に、今度は隊長が動転して叫んだ。


「文献で読んだことがあります。一般的なオオトカゲ種とは異なる瞳の色と、鱗の模様。そして、背面に生えた小さな翼。さらに炎を吐いたということは……こいつは、レッドドラゴンの幼生に間違いありません」

「馬鹿な‼ レッドドラゴンは、人間が容易たやすく踏み入ることのできない火山帯に生息する、伝説級の魔物じゃないか‼ そんな大物、この高地にいるはずが……‼」

「俺も驚いているんです。こんなことは、まずあり得ない。だがこれは、間違いなくドラゴンだ。しかも、幼生がいるということは……」

「ま、まさか……‼」


 隊長が不吉な予感に身を震わせた、その時。


「おい、あれはなんだ⁉」


 騎士団の一人が、そう言って空の一角を指さした。

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