34.特急腐海行き、出発進行
「あー。それは騎士科三年生の、カイン・レッドバース先輩ですねー」
放課後、生徒会室で紅茶を飲みながら、後輩のココロ・フィジョースが言った。
「カイン……。どこかで聞き覚えのある名前だな」
「それはそうですよー。カイン先輩は騎士科の首席で、風紀委員長もやってるんですから。ロッシュ先輩は魔法科の首席でしょ? 去年、全校生徒の前で表彰があった時、隣に立ってたじゃないですかー」
「ああ、そうだったか」
昨年行われた各学科の「最優秀生徒表彰式」を思い出して、ロッシュはポンと手を叩いた。
言われてみれば確かに、騎士科の首席はあの男だった。
そういえば表彰式の時も、なにやら不満そうな顔つきで、こちらを睨んでいた気がする。
ロッシュ自身は、表彰式の壇上で大勢の生徒を前にして、「ここで露出を行ったら、最高にハイな気分になれるな……」と不埒な妄想に
「カイン先輩も騎士科のトップだから、結構有名人ですよー。でもそのカイン先輩に、一方的に絡まれたんですよね? 一体どんな言葉攻めをされたんですか⁉ カイン先輩は絶対『受け』気質だと思ってたのに、まさかロッシュ先輩のほうが攻められるなんて‼ でもそのカップリングも、それはそれでありですね……ぶつぶつ……」
「ココロ、ヨダレと鼻血がカップに垂れるよ……」
生徒会書記のフィーリ・サクリードが、言いながら親友の鼻に布をムギュムギュと詰め込んだ。
元々暗殺ギルドの一員として王子であるジークの命を狙っていたフィーリだったが、ロッシュの手でギルドが壊滅した後、ジークの恩情によってそのまま学園に残れるよう取り計らわれ、生徒会にも所属を続けていた。
「しかし、カイン君がロッシュにそんな態度を取るとは……。僕も彼と面識はあるが、生真面目で礼儀正しい、正義感の強い生徒という印象だったが……」
ジークが、紅茶のカップを上品な所作で口に運びつつ言った。
「なぜあんな風に絡んできたのかは分からんが、なにやら敵意を向けられているということだけは、よく分かった」
「あー……確かにカイン先輩、結構他人をライバル視してるトコはあるかもです。ロッシュ先輩みたいな一流家系の生徒に対しては、特に……」
「と言うと?」
なにやら思わせぶりに呟いたココロに、ロッシュは尋ねた。
「うちの学校って、実家が由緒正しき名門とか、先祖代々貴族の血筋……なんて生徒も結構いるじゃないですか。カイン先輩は以前から騎士科で凄く優秀だったんですけど、中等部の頃、平民の出身だからって、貴族階級の上級生たちから色々嫌がらせを受けたりして、苦労したみたいなんです」
「なるほど。自らの血統やら、お家柄やら……そんな物に固執する浅ましい連中が、騎士科にいたわけか。下らないな」
ロッシュが言い捨てると、ジークも同意して頷いた。
「全くだ。父上が国王になったばかりの頃は、まだローヴガルド国内でも特権階級の影響が強かったと聞くが、今のヌーダストリア学園は『完全実力主義』の校風で、生徒の出自や家系になど
「私たちはロッシュ先輩が自分の家名を盾に威張るような人じゃないって分かってますけど、カイン先輩はちょっと、誤解してるみたいで……」
「まあ、ローヴガルドはうちのじいさんの名声もあって、他国より魔法使いが優遇されやすい傾向はあるからな。騎士科の生徒としては、そういった部分も面白くないのかもしれないな」
「だが騎士科にだって、優秀な人材は沢山いるさ。現にカイン君は、剣についてはかなりの実力者と聞いている。まだ学生ながら『騎士候補生』の形で、王国騎士団の任務にも帯同しているそうだしね」
ジークの説明に、ロッシュは「ほう」と感心を示した。
「それは大したものだ。俺としては、できれば仲良くしたいんだが……」
「んんん、ロッシュ先輩‼ 先輩は男同士で、ぐちょんぐちょんの熱く
「ココロ、ちょっと落ち着いて……」
脳内でBL暴走特急を発進させてはしゃぐココロに、フィーリがフォローを入れた。
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