31.祭りを終えたら打ち上げだ
やがて爆発が止むと、
「……いくらなんでも、ここまでやる?」
やや遠方で爆発を確認し、急いでアジトまでやって来たアイナは、ただ呆気に取られていた。
「まさか、本当に一人でギルドを壊滅させるなんて……」
フィーリも唖然として、崩れたアジトの残骸を見つめていた。
その残骸の周りでは、ロッシュの魔法をくらって黒焦げになった暗殺者たちが、干からびた蛙のような格好でゲロリンチョと転がっていた。
「おおアイナ、来ていたのか」
ロッシュがそう言って、瓦礫の中から歩み出てきた。
その恰好は相変わらずの制服スカート姿で、彼の足元ではボロボロの
「ちょっ、なんで女子の制服着てるの⁉」
「なんでって……ここに来るのに、裸は絶対やめろと言ったのはアイナだろう? それにこの格好なら、暗殺者たちも俺をフィーリと勘違いして、油断するかと思ってな……」
「するわけないでしょ‼ しかもよく見たらそれ、私の制服じゃない‼」
「おや、バレてしまったか。スカートを穿いたのは生まれて初めてだったが、中々の穿き心地だな。制服の布地に染み付いたお前の匂いも、最高だったぞ」
「やかましい‼ 早く脱いでよっ‼」
「おお、脱いでいいのか? いやっほおおおおっ‼」
喜び勇んだロッシュは、アイナの制服を瞬時に脱ぎ去ると、彼にとって最も自然な姿……すなわち全裸にフォームチェンジを果たした。
「ああ、もう‼ 全裸になるなっ‼ 別の服を着なさいっ‼」
怒りに震えるアイナをよそに、そばにいたジーク王子がロッシュを
「ロッシュ。僕はキミの本気の魔法を初めて目の当たりにしたが、実に見事だった。同じ学園に通う友として、キミを誇らしく思うよ」
友人を誇らしく思うジークもまた、シャツを綺麗に脱ぎ捨てて、今まさにズボンに手をかけようとしていた。
「王子も、どさくさに紛れて裸になろうとしないでください‼」
「ああ、すまない。ロッシュの活躍に感極まって、無意識に脱衣していたようだ」
「嘘つけ! 絶対確信犯でしょ‼」
その後、全裸の解放感に浸っていたロッシュは、アイナが持ってきた最新の
無念の思いを抱きながらも、やがて気を取り直したロッシュは、ジークとフィーリのことを交互に見やった。
「……さて。めでたく暗殺ギルドは壊滅させたわけだが、今後のフィーリの処遇についてはどうするつもりだ、ジーク?」
「ロッシュ、ここに来る前も言っただろう? 僕は、彼女に処罰を与えるつもりなど無いよ。梟の陰套も壊滅し、彼女を縛るものは無くなったんだ。僕としては、フィーリ君にはこれまで通り、ヌーダストリア学園に通ってもらいたいと思っている」
そのジークの言葉に、フィーリはやや困惑していた。
「ジーク王子……いえ、会長。あなたの命を狙っていた私に寛大な言葉をいただき、ありがとうございます。でもギルドが壊滅したからといって、暗殺者として多くの標的を
「フィーリ君。キミの過去については聞かせてもらったが、孤児だったキミが梟の陰套に拾われたのは、ある意味不可抗力というものだ。確かに、他人の命を奪ってきた行い自体は、許されることではない。……だがもし、キミがこれまでの自分の生き方に、少しでも罪の意識を抱いているのであれば……」
「……いるのであれば?」
「代わりにこれからは、一人でも多くの人々の命を救えるよう、学園で新しい生き方を見つけていってほしい。それを、今回僕の命を狙ったことに対する、キミへの罰としよう」
ジークは屈託の無いイケメンフェイスで、ニコリと微笑んだ。
変態の仲間と判明したことで、ジークに対するアイナの評価は大暴落していたが、この
「それに、キミのことをとても心配していた友人もいるしね」
「えっ……?」
「フィーちゃあああああん‼」
突然の声と共に、小柄の女生徒ココロ・フィジョースが、フィーリの元へ猛スピードで駆け込んできた。
「ココロ⁉」
驚くフィーリに、ココロはヒシッと抱きついた。
「よかったよおお! 会長の命を狙ってた怪しい人たちにフィーちゃんが
「え、ええ。大丈夫……」
戸惑いつつ、フィーリがジークたちに視線を転じると、ジークは口元に人差し指を当てながら、華麗にウインクをして見せた。
「ジーク会長……」
その仕草で、自分がジークの命を狙った暗殺者であることをココロには伏せていてくれたのだと、フィーリは一瞬で理解した。
「ああん、もお‼ 本当に無事でよかったよおおっ‼ ロッシュ先輩とジーク会長が助けてくれたんだよね⁉ 男同士の熱い友情と濃厚な愛情が炸裂して、初めての共同作業『ラブラブツインアタック』で悪党たちを華麗にやっつけたんだよねっ⁉ はあはぁぬんはあああああっ‼」
「それは炸裂してないけど……心配かけてごめんね。私は大丈夫だから」
謎の興奮で鼻血を垂れ流す親友をフィーリがなだめていると、いつの間にかジークとロッシュは身を
「会長、ロッシュ先輩……」
……ありがとう。
自分の正体をココロに明かさず、全てを解決してくれた二人に、フィーリは心中で礼を告げた。
……でも、私に全裸で迫ってきた恨みは、一生忘れないから。
ついでにそう毒づいたが、暗殺ギルドの束縛から解放されたフィーリは、どこかスッキリした気持ちで、ロッシュたちの背中を見つめていた。
「ジーク。フィーリの罪は、本当に問わないんだな?」
「くどいな。そんな無粋な真似を僕がすると思うかい、ロッシュ?」
「いや……お前らしいな。さすがだ」
「フィーリ君は、とても優秀な生徒会役員だ。いなくなられては、僕の方が困る。梟の陰套も壊滅させたことだし、彼女にはココロ君もいる。もう間違いを犯したりはしないだろう」
「そうだな。これにて一件落着、というわけだ」
「ああ。……どうだい、ロッシュ? 夜も更けてきて、いい時間帯だ。暗殺ギルドの壊滅を祝して、このまま近くの村で二人、行きずりのストリート露出と洒落込まないか?」
「それは名案だ。今、急いでこの裸封法衣の術式を解除するから、待っていてくれ」
「ちょっと‼ 二人でとんでもない打上げを
「む、アイナ‼ 聞いていたのか⁉」
背後に現れた幼馴染の姿に、ロッシュは目を
「アイナ君……キミには暗殺ギルドの者たちを監獄に移送する兵士たちが到着するまで、現場待機を頼んでいただろう?」
「暗殺ギルドのメンバーはまとめて拘束しておいたから、逃げる心配は無いですよ‼ このままあなたたちを野放しにする方が、よっぽど危険です‼」
アイナはそう断言して、変態二人にロッドを向けた。
「待ってくれ、アイナ君。話せばわかる。だからひとまず、その物騒な武器をしまってくれないか?」
静穏な声で言いながら、ジークはいそいそと、ズボンのファスナーに手をかけ始めた。
「ズボンを脱ごうと試みるな、変態王子‼ そういう行動取るから、武器を手放せないんですよ‼」
「ジークの言う通りだ、アイナ。そんな武器は、さっさと手放すべきなんだ。想像してごらん? 武器など無い世界を。そして、服も無い世界を……」
いつの間にかスポンポーンと裸になったロッシュが、平和の
「なんでそんなに術式解くのが早いのっ‼」
驚愕したアイナだったが、続いてロッシュはジークが着せられていた裸封法衣の術式までも、あっさり解除してしまった。
そしてジークも疾風のような勢いで、スッポポポーンと全てを脱ぎ去っていった。
「俺たちの自由は、もう誰にも止められない。このまま
「了解だ、ロッシュ。僕たちの赤裸々な姿を、村に住まうレディたちに見せつけてあげよう!」
意を決した変態二人は、猛然と山道を駆け始めた。
「これ以上、犯罪行為を繰り返さないでっ‼」
アイナはロッドから猛烈な雷魔法を発して、ロッシュたちを追撃し始めた。
「ぬおっ⁉ アイナ、その攻撃はシャレにならないぞ! ジークまで巻き添えにするつもりか⁉」
「王子なんて知るかっ‼ 国の恥を
「なんと……! この度胸と、思い切りの良さ……。流石はロッシュの幼馴染だ。っぐおおお⁉」
そこで雷光の直撃を受けたジークが、裸のまま地に倒れ伏した。
「ジーク‼ っぐああああああああああ‼」
続いてロッシュの裸体にも、容赦なく雷光が叩き込まれた。
「くっ……なんと絶妙な刺激だ。全身の細胞が、雷の威力に喜び打ち震えている……」
「そうだね、ロッシュ。この痛みはまさに、新たな世界の幕開けだ。特に、避雷針代わりとなった股間を駆け巡る衝撃が、痛みと共に
「それ以上喋るなああああっ‼」
「「ぬぐああああああああああああっ‼」」
憤激したアイナは、雷魔法の出力を一気に増幅させた。
これにより、大ダメージを負った変態たちは見事討伐され、ロッシュとジークの危険すぎる打上げは、無事開催を阻止されたのだった。
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