30.閃光。その瞬間、風、揺らめいて……
「何者だ、貴様は⁉ そしてなんなんだ、その恰好は⁉」
「俺は、ロッシュ・ツヴァイネイト。裏の世界で暗躍する貴様ら暗殺ギルドを成敗するため、ここに
「ツヴァイネイトだと⁉ まさか、『英雄カディル』の一族か‼ ……って、そうじゃなくて‼ そのツヴァイネイト家の人間が、なぜそんな異常な恰好をしているんだ⁉」
「失礼な。『敵の本拠地に乗り込むなら、服は絶対着ていきなさい‼』とうちの幼馴染がうるさいから、わざわざこうして制服を着てきたんだ。それを異常者呼ばわりされる筋合いが、どこにある」
「いや、どう見てもそれ、女子の制服だろ‼ 男のお前がそんな物を堂々着てたら、異常者以外の何者でもないだろうが‼」
沈着なロッシュと正反対に、
だがそんなことは気にも留めず、ひらひらミニスカート姿のロッシュは、生真面目な顔で言葉を続けた。
「まあいい。今回は我が国の王子ジークの命を狙って、随分と姑息な真似をしてくれたな。しかも自らの手は汚さず、部下のフィーリに暗殺の全責任を負わせようとするとは……。組織のボスの風上にも置けん、卑劣な男だ」
「フィーリだと⁉ やはり、奴は失敗して……」
「フィーリは俺たちと同じ、ヌーダストリア学園の生徒だ。彼女も本心では、暗殺など望んではいない。大切な学友をロリメイドマニアの魔の手から守るため、俺は今日ここで、貴様らギルドを完璧に叩き潰す‼」
「な、なぜ俺がロリメイド好きだと……って、ゴホンゴホン‼ なめるなよ、若造が‼」
一瞬動揺した首領だったが、すぐに気を取り直し、ピュウィイ~と指笛を鳴らした。
すると、ロッシュが入ってきたドアから、黒装束のギルドメンバーたちが、次々と室内に押し寄せてきた。
「ほう。だいぶ仕留めたと思ったが、まだこんなに残っていたか」
ロッシュが、感心したように言った。
「
「貴様こそ、俺を甘く見るなよ。今日スカートの下には、ちゃんと男物の下着を穿いているんだ。さすがに女物のショーツまで身に着けていたら、道徳的にアウトだからな」
「お前はマジでなにを言っているんだ⁉ 頭大丈夫か⁉」
首領は思わず、ロッシュの正気を疑った。
「……ええい、もういい‼ 部下は大勢やられてしまったようだが、数の上ではまだこちらが有利‼ 貴様は完全に、袋のネズミだ‼」
首領が
「そうだな。そちらから一ヶ所に集まってくれたおかげで、各個撃破の手間が省けた」
そう言ったロッシュの足元が、キラリと鋭く輝き出した。
輝いたのは
そしてその紋様から、周囲の空気を震撼させるほど、膨大なエネルギーが
「なんだ、この圧力は⁉ まさかこれは……巨大な魔方陣⁉」
首領は、見る見る床を埋め尽くし、そのまま部屋の外まで広がっていく魔方陣の勢いに、狼狽の声を放った。
「ああ、そうだ。あちこち回って貴様の部下を倒しながら、アジト全体に魔法陣の刻印を張り巡らせておいた。一人残さず、貴様らを一網打尽にするためにな」
ロッシュが言うと、室内の魔力圧は、さらに高まっていった。
だがその状況で、ロッシュはなぜか、とても不満げな様子だった。
「てっきりフィーリの他にも、このアジトには女性の暗殺者が何人かいると期待していたのに……どこもかしこもむさ苦しい男ばかりで、正直ガッカリだ。スカートの中から色々とハミ出し露出する予定も、全て台無しになってしまった。この失望の代償は、お前たちをフルボッコにすることで
「だからなにを言っているんだ、この変態は⁉ ……くそっ、殺せ‼ 早くこいつを殺してしまえええっ‼」
錯乱しつつ発せられた首領の命令で、部下の暗殺者たちは一斉に、ロッシュを仕留めようとアクションを起こした。
……が、時すでに遅く、アジトに張り巡らされた魔法陣は、この時点で百パーセント完成していた。
「さらばだ。これに懲りたら次からはちゃんと、妙齢の女子メンバーをギルドに大勢勧誘しておくことだ」
ロッシュの妄言に続いて、特大魔法陣から閃光がカッと沸き上がり、周囲の景色を
「バ、バカなああああああああああああああっ‼」
光の
魔力の暴風は、彼のスカートをほとんど全て
……なにが「ちゃんと男物の下着を穿いている」だ‼ 大嘘つきめ‼
こんなサービスシーン、全く嬉しくねえよおおおおおっ‼
薄れゆく意識の中で、ロリコン首領は眼前に悪夢の光景を提供してきたモロ出しスカート男を、おもいきり
直後、打ち上げ花火を数百発同時に発射したような極大光がアジトから漏れ出して、夜の山中は数瞬、真昼のような明るさに包まれた。
続いて耳を
ロッシュを仕留めようとした暗殺ギルドの男たちは、一人残らずこの爆発に飲み込まれて、無残にも散っていったのだった。
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