25.「と」を「の」に変えちゃだめよ

「まさか、フィーリ君が僕を狙う犯人だったとは……」


 事件の二日後、危難を逃れたジークは、王城の自室にロッシュを招いていた。


「俺が迂闊だった。事前に彼女のことを怪しいと踏んでいたのに、結局お前の命を危険にさらしてしまった。すまなかったな」

「いや。キミの機転が無ければ、僕は庭園で死んでいたよ。腕の負傷だけで済んだのはキミのおかげだ、ロッシュ」

「ナイフには毒も塗られていたようだが……体調は大丈夫なのか?」

「ああ。毒の影響で少々傷の直りは遅いが、体調は問題無いよ。傷も大したことはないんだが、どうにも王宮の医師たちが心配性でね……」


 自身の右腕にグルグル巻きされた包帯を一瞥いちべつし、ジークは冗談めかして見せた。


「あれから調べてみたが、フィーリの経歴は、どれも巧妙に偽造された偽物だった。彼女は高等部からの編入生で、学園に来てまだ日も浅いわけだが……初めからお前の暗殺のために潜り込んでいたのだとすると、今回の暗殺計画は、相当綿密に練られていたようだな」


「そうだね……。捕らえた暗殺者たちも、ようやく正体が判明した。奴らは暗殺ギルド『ふくろう陰套いんとう』の構成員だ」

「梟の陰套、か……。これはまた、大物が来たな」


 裏の世界で一大勢力を築いている暗殺ギルドの名を聞いて、ロッシュがうなった。


「奴らの正体はともかく、フィーリ君がその仲間だなんて、考えもしなかった。彼女は、僕が直接生徒会にスカウトした人材だったからね……」

 そう言って瞑目めいもくしたジークの表情は、どこか悲しげだった。


「このことを、会計のココロには?」

 フィーリと同じく生徒会に所属する一年女子の名を上げると、ジークは首を横に振った。


「まだ言っていない。彼女はフィーリ君と、とても仲が良かったからね。フィーリ君もない性格ながら、ココロ君には気を許しているように見えたんだが……」


「彼女もプロの暗殺者だ。そのあたりの擬態は、お手の物だろう。……しかし、そもそも暗殺を梟の陰套に依頼したのは、何者だったんだ? やはり、ダスカコン帝国の人間か?」

「そこまでは、捕らえた連中も中々口を割らない。……が、依頼主が帝国なのは、ほぼ間違いないだろうね」

「フィーリの行方については?」

「まだ、足取りは掴めていない」

「あの場は逃走したが、おそらく彼女も諦めてはいないはずだ。このままだと、またお前の命を狙ってくる可能性が高い。とりあえず、しばらく城の中にいれば安全とは思うが……」


「確かに、ここなら安全だ。だが、いずれ国を背負う身としては、守られた安寧あんねいの中にいつまでもうずくまっているわけにもいかないな。傷が癒えたらもう一度、学園に戻るつもりさ。そこでフィーリ君が再び僕の命を狙ってくるというのなら……こちらにも一応、考えはある」

「ほう?」


 王子の精悍な表情に、ロッシュは興味深げな視線を向けた。


「とは言え、城の者たちに話せば、きっと猛反対を受けるだろう。そんな時、頼りになるのは……こころざしを同じくした親友だけだ。協力してくれるね、ロッシュ?」


 その問いに、ロッシュは不敵な笑みを作った。


「無論だ、我が友よ。というより、断られた場合のことなど、考えていないんだろう? どれ、お前の考えた妙案とやらを吟味ぎんみするため、邪魔な服を脱いで語り合うとしようか……」


 言いながら、嬉々として裸封法衣ヌグナリオを自力解除したロッシュに続き、ジークも晴れやかな表情で、自らの服の襟元に手をかけた。

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