18.ぼくらの愉快な生徒会
「しかし、今日はどうした? わざわざ別件を
「いや、そうではないんだが……。キミと二人きりで、話しておきたいことがあってね」
「ほう?」
同じく全裸で向かいのソファーに腰掛けたジークは、ふとその表情を改めた。
「実は……何者かが、僕の命を狙っているようなんだ」
「なんだと⁉」
ジークの予期せぬ発言に、ロッシュは目を
「ここ最近、学内で怪しい視線を感じたり、不審な出来事が多くてね。一昨日など、いきなり吹き矢が飛んできて、危うく身体に刺さるところだった。後で矢を調べてみたら、強力な毒物が検出されたよ」
「……そのことを、国王陛下には?」
「無論、話してある。城内で信頼できる側近たちにもね」
「それなら、王城から学内に護衛を派遣すればいいだろう。お前は学園の中では、ボディーガードを付けていないからな」
「あまり警備を物々しくして、生徒たちの不安を
その言葉通り、ジークは普段の学園生活で王族の威光を振りかざすこと無く、生徒会長として極めて公正な自治を行っており、生徒からの評判もすこぶる高かった。
「事を荒立てたくないが、僕を狙っているのが何者なのかは知りたい。その正体を暴くため、キミの力を貸してほしいんだ」
「……分かった。他でもない、友の頼みだ」
ロッシュが承諾すると、ジークはニコリと笑みを浮かべた。
「すまない、恩に着るよ」
「なに。俺たちの悲願を達成するためにも、ここでお前に倒れられるわけにはいかないからな」
「そうだね。僕が国王になった
そう言って、ジークはロッシュと裸姿のまま
変態が国家権力を握ると、ロクなことが起こらない。
これはその歴史的事実を証明する、極めて危険な実例だった。
「あー、もー。授業が長引いたせいで、遅れちゃったよー!」
「「‼」」
その時、ドアの外から突然女生徒の声が聞こえてきて、ロッシュとジークは表情を一変させた。
続いて生徒会室のドアノブが、ガチャガチャと音を立て始める。
「あれ? ドアが開かない。フィーちゃん、鍵持ってる?」
「持ってる」
女子二人の会話に続き、ドアに鍵が差し込まれて、カチャリと解錠される音が響く。
そのドアの中では現在、素っ裸の男二人が堂々ソファーに腰掛けており、ここに第三者が入室してくれば、騒ぎが巻き起こることは確実だった。
が、しかし。
この変態男たちは、決して諦めなかった。
「よし、開いたー! って、あれ? ジーク会長に、ロッシュ先輩?」
やがて開かれたドアから、桃色ショートボブの髪をした小柄な女子が、勢いよく入室してきた。
「やあ、ココロ君」
「どうも、お邪魔しているよ」
そしてそれを迎え入れる、ジークとロッシュの二人。
彼らの恰好は、生まれたままのまっさらなヌード姿……ではなく、その身には、きちんと学園指定のシャツと制服ブレザーを着用していた。
ドアが開けられる寸前、彼らは常人では有り得ない速度で床に散らかった衣類を掴み取り、瞬時に着衣を完了させていたのだった。
「なんだ会長、いらしてたんですかー? ドアに鍵が掛かってたから、誰もいないと思ったのに。ねえ、フィーちゃん?」
「うん、びっくりした」
全くびっくりした様子も無くそう言ったのは、もう一人のクールな顔立ちをした、青髪セミロングの女子生徒だった。
「ああ、すまない。間違えて施錠していたみたいだ」
ジークが白い歯を光らせ、流れるように嘘をついた。
桃色髪の女子は、生徒会会計のココロ・フィジョース。
青髪のクール女子は、同じく書記の、フィーリ・サクリード。
彼女たちはヌーダストリア学園高等部の一年生で、今年の春から生徒会に加わった、新人の役員だった。
二人とも背は低めで、ともすれば中等部にも間違われかねない外見だが、学業成績は非常に優れており、その優秀さを見込んで、生徒会長のジーク直々にスカウトした人材だった。
「会長、意外とうっかりしてますねー。でも、ロッシュ先輩まで生徒会室にいるなんて、珍しいんじゃないですか?」
「ああ。この前魔法科の課外授業で起こった騒動について、ジークに話していてね」
「課外授業というと、ドロリーンチョ湿原にエンペラースライムが現れた件ですか。ロッシュ先輩が撃退したと聞きましたが、さすがですね」
クールなフィーリが、淡々と賛辞を述べた。
「えー、なんだー。てっきり会長とロッシュ先輩が二人で密室に
「ココロ、口からヨダレ垂れてる。あと、鼻血も」
呆れたように言いながら、フィーリが布切れを取り出し、ココロの口と鼻を
一見すると活発で
ファンタジーな世界のゼン・ラーディスにおいても、物語小説や同人作品といった文化は普通に発展しており、その創作物は多くの庶民にとって、重要な娯楽となっていた。
「ハハハ、キミたちは仲が良いな」
そんなココロのリアクションは気にもせず、二人の様子を見たロッシュが笑った。
「はい、学園でも一番の親友ですから!」
「別に、そこまで仲良くはないです」
二人の口から、正反対の回答が同時に告げられた。
「そんなっ⁉ 酷いよフィーちゃん‼」
「……嘘、冗談よ」
そう言ってフィーリが、わずかに口元を
「もー。本気かと思って、びっくりしちゃったじゃん‼」
「ゴメン」
どこか楽し気なそのやり取りから、性格は真逆ながらも、二人の関係がとても良好であることが
と、そこで、ココロがなにかを思い出したように、ポンッと手を叩いた。
「そうだ会長! スライムもいいですけど、また学園の敷地内に、変質者が現れたんですよ! 生徒からの聞き取りで得られた情報によれば、王都を騒がせている謎の露出狂、『
その言葉に、ロッシュは耳をピクリとさせたが、表面上は平静な態度を貫いていた。
「こうも簡単に学内への侵入を許している状況から推測すると、蛇魔人の正体は、学園の関係者なのかもしれません。あまり考えたくはありませんが……」
このフィーリの推理は完璧に
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