15.イケメン揃えば熱視線

 翌日。ロッシュたちは彼らのまな、ヌーダストリア学園に登校していた。


「まだ頭がれているな……。おまけに今度の裸封法衣ヌグナリオの術式も、一段と強力になってしまった」

「当然でしょ! もっと悔い改めなさい‼」

 

 何度叩きのめされても不死鳥のごとく蘇る変態を、アイナは叱責した。


「だが昨日のシンリィの反応は、新鮮で良かったな。やはり無垢むくな少女に裸体を見せつけると、最高にハイな気分になれる。他のメイドたちはもう、大して動揺しなくなってしまったからな……」

「だから悔い改めなさいってば‼ 変態発言もいい加減にして‼」 


 そんなやり取りをしている内に、やがて学園の正門が見えてきたが、そこでロッシュは、自分に熱い視線を送ってくる生徒が増えていることに気付いた。


「見て、ロッシュ先輩よ。カッコいい……」

「この前の魔法科の課外授業では、大活躍だったんですって。物凄く強いスライムを、一人でやっつけちゃったらしいわよ」

「さすが、英雄カディルの孫ね……」

「その時のアクシデントで服が脱げちゃったらしいけど、脱いでも凄かったんですって……」

「ええ。あの裸体は、まさに芸術の域。まこと、眼福がんぷくでした……(キリッ)」


 盛り上がる女子たちと一部男子の称賛を耳にして、ロッシュはご満悦だった。


「あんなにベタ褒めされると、照れてしまうな。ぜひ彼女たちにも、俺の裸体をじっくりと、懇切こんせつ丁寧な解説付きで鑑賞させてあげたいものだ……」

「それだけは、絶対やめなさい‼」


「やあ、ロッシュ。先日の課外授業は、大変だったみたいだね」


 そこで不意に声を掛けられて、ロッシュとアイナは振り返った。

 そして、後ろに立っていた人物の顔を見て、アイナはギョッとした。


「あ、あなたは……」

「なんだ、ジークか」


 そこに立っていたのは、きらびやかな金髪サラサラヘアを有する、超絶ハンサムな青年だった。


「こうして喋るのは久しぶりかな? 元気そうでなによりだ」

 美しく並ぶ白い歯をキラリと輝かせて、金髪青年が爽やかに言った。


「お前こそ、相変わらず高貴なオーラを漂わせているな。さすがは王族といった所か」


 そう。この金髪青年は、ただのハンサムボーイではなかった。


 彼の名は、ジークハルト・ローヴガルド。


 その名が示す通り、ロッシュたちが住まうローヴガルド国王の実子であり、次代の王位継承を確実視されている、王国の第一王子だった。


「ちょ、ロッシュ‼ あなた、ジークハルト王子と知り合いだったの?」


 自国の王子とタメぐちで話すロッシュに、アイナは驚いた。


「ああ、アイナは知らなかったか。うちのじいさんは数年前から王城の『特別顧問』として、国王の相談役を引き受けているからな。その関係で俺も何度か城に行く機会があって、そこで知り合ったんだ」


 ジークハルト……通称ジーク王子は、ロッシュたちと同じヌーダストリア学園の二年生で、貴族の子息などが多く学んでいる「政経科せいけいか」に所属していた。


 優秀な生徒が集う政経科においても成績は常にトップで、現在はヌーダストリア学園の生徒会長も務めている。


 そんな、学園のトップ・オブ・ザ・トップであるジーク王子と、かつて世界を救った大魔法使いの孫として有名な、魔法科首席のロッシュ。


 家柄いえがらだけでなく、能力と容姿も際立きわだって優れた青年たちの邂逅かいこうに、周囲では女生徒たちが「キャー、イケメン二人のご対面よー‼」と色めき立っていた。


「キミは、ロッシュの幼馴染のアイナ君だね。カディル様やマーサ様の愛弟子で、魔法科でも優秀な生徒だと聞いているよ」

「い、いえ王子! そんな、もったいないお言葉です!」

「かしこまらなくていいよ。どうか僕のことは、気軽にジークと呼んでほしい」

 

 学園のカリスマにフレンドリーな口調で言われて、アイナはかえって恐縮してしまった。


「ロッシュ、先日のキミの活躍についても聞いているよ。あのエンペラースライムを、一人で討伐したそうじゃないか。大したものだ」

「いや、それほどでもないさ」

 アイナと違って全く恐縮する素振そぶりも無く、ロッシュは自然体で返答した。


「……だがその戦いで、ツヴァイネイト家の名に少々ふさわしくない姿を、皆の前にさらしたとも聞いている」


 ジーク王子の言葉に、アイナはギクッと表情を曇らせた。


 やっぱり、ロッシュが裸で戦ったことは、王子の耳にも入ってたんだ……。


「服を溶かされてやむを得なかったという事情も分かるが、紳士が公衆の面前で無暗むやみに肌を晒すのは、あまり褒められたことではないな。キミの取った行動について詳しい経緯を聞かせてもらうため、放課後、生徒会室に来てほしい。無論、キミ一人でだ」

「……分かった」


 ロッシュがうなずくと、やがてジーク王子は、整然とした歩調で去っていった。


「まさか、生徒会長直々の呼び出しとはな」

「ロッシュ、まずいんじゃない? 王子は公明正大な方だけど、風紀とか規律には、人一倍厳しいって聞くし……」


 アイナは心配そうに言ったが、ロッシュは動じる様子も無く、平然としていた。


「大丈夫だ。少々かたい所もあるが、ジークは決して理不尽なことを言う男じゃない。互いに裸になって事情を説明すれば、きっと分かってくれるさ」

「あなた、ちゃんと事情説明する気無いでしょ⁉ 自分の立場が余計に悪化するようなこと考えないでよ‼」


 アイナは、謎の変態理論を垂れ流す幼馴染を、本気で怒鳴りつけた。

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