12.やっぱり幼馴染って……いいよね

「なにをするんだ、アイナ」

「幼馴染が凶行に走ろうとしてたら、止めるに決まってるでしょ! 裸封法衣ヌグナリオの封印が無くなったからって、好き勝手な変態行為は許さないわよ‼」

「おやおや、バレていたのか」

「ロッシュの考えそうなことは、お見通し‼」

「そうか。……しかしアイナ。お前も昔に比べて、ずいぶん発育が良くなったな……」

「え?」


 ロッシュはアイナの身体をまじまじと、感慨深そうに見つめていた。


 焦るあまり、自身のローブを素早く裸のロッシュにかぶせたアイナだったが、そのローブの下に隠れていた彼女の服も、先ほどダークスライムの溶解液を浴びたことで所々が派手に溶けて…………なんというかもう、非常にエッチな感じになっていた。


 特に、胸元周りの被害が大きく、とろけた服とピンクの下着の中からは、ぷるりと実ったバストが、ほとんどモロ見え状態となっており……


「見るなーーーっ‼」

 恥ずかしさのあまり、アイナはロッシュに向けて、強烈な炎魔法を放った。


「うおっ⁉ 至近距離でそんな魔法を使ったら危ないだろう‼」

 ロッシュは焦りつつも、それを間一髪で回避した。


「ロッシュが変なこと言うからでしょ‼ どこまで変態なのっ‼」

「自分のローブを俺に着せてきたのは、アイナの方だろう。そんなに恥ずかしいなら、俺の裸体を包み込んだこのローブを、もう一度お前が着ればいい」

「なおさら着たくなくなるようなこと言わないで‼ このナルシスト露出狂‼」


 片手で胸を押さえながら、もう片方の手でポカポカと殴りつけてくるアイナに、ロッシュはやれやれと息を吐いた。


「おいおい……。確かに俺は、自分の裸体をこよなく愛しているが、お前の身体だって、結構気に入っているんだぞ?」

「なっ⁉」

 ロッシュの言葉に、アイナはピタリと動きを硬直させた。


「自分の裸を衆目にさらした時の快感とは、少々異なるが……アイナの身体を見つめている時も、高揚した感情と、心地よい興奮を覚えることができるんだ。こんな気持ちになる相手は、きっとこの世界で、お前だけだろうな……」


 ……この男は、またそういうことをサラッと‼


 アイナは裸ローブの幼馴染を前に、なぜか身体を熱くしてドギマギしてしまった。


 と、そこに、残りのダークスライムを倒して生徒たちの保護を終えたネクロ女史が走り寄ってきた。


「よーし、後始末は大体終わったよ~……って、あれ。どうしたのアイナ? ずいぶん顔が赤いけど、大丈夫かい?」

 そう言ってネクロは、スライム被害にあった女子たちに配っていたローブを、アイナにも手渡してやった。


「な、なんでもありません。大丈夫です……」

「先生、生徒たちの被害状況は?」

「一部の生徒が服を溶かされただけで、特に人的被害は生じなかったよ~。エンペラースライムを一人で倒してくれた君のおかげだよ、ロッシュ~」

「いえ。被害が拡大せず、なによりでした」

 口ではそう言いつつも、ロッシュは自らの下半身をやたらと強調したポーズを取って、どこか誇らしげだった。


「今回の件をカディル様が知ったら、きっと孫の活躍を喜ばれるだろうね~。ローヴガルドに戻ったら、しっかりお伝えしておくよ~」

「……いや、先生。じいさんには俺の方から話しておくので、それだけはやめてください。(ボソリ)あまりつまびらかに説明されると、罰を受けかねないので……」


 凛としていたロッシュは、ネクロの言葉に一転して動揺を示した。


「え~、どうしてだい? 裸になっちゃったのは不測のアクシデントだし、君はちゃんと魔物を倒したんだ。別に怒られるようなことはしてないでしょ?」

「まあ色々と、事情がありまして……。(ボソリ)いかんな……せっかく自由の身になったのに、詳細がじいさんにバレては台無しだ。こうなれば一刻も早くこの場を離れて、時間の許す限り、裸の自由を謳歌おうかしなければ……」


「させないわよ‼」

 言い放ったアイナが、素早く魔法を詠唱した。


 すると、ロッシュが羽織っていたアイナのローブの布地に、魔法術式の紋様が浮かび上がってきた。


 術式が発動したローブは、あちこちが縄のようにキューッと締まってロッシュの身体の拘束を強めていき、やがてその動きを、完璧に封じ込んでしまった。


「これは……! 封印術式と連動した、拘束魔法か⁉ アイナ、姑息な真似を‼」

「姑息なのはどっちよ‼ 裸のまま逃げようったって、そうはいかないわよ‼ このまま王都に連れ帰って、師匠に全部報告してやるんだから‼」

はかったな、アイナーーーッ‼」


 ポカンとするネクロをよそに、身に着けていたローブに拘束されたロッシュの嘆きが、湿原の周囲へ霧散していった。


 そしてアイナは、先ほど感じたドギマギを完全に忘れ去り、よじれたローブに縛りつけられた幼馴染の醜態に、ただ白い眼を向けたのだった。

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