11.ファンの声援には応えるもの

「だから、服を着てよ‼ ……って、なに、この魔力⁉」


 アイナはそこで、ロッシュの身体からあふれる魔力の濃度が、急激に上昇していることに気付いた。

 横に立つネクロもそれを感知したようで、ひたいに大粒の汗を流していた。


「す、凄い‼ ローヴガルドの魔法兵団にも、これほどの魔力を有する人間は滅多にいないよ~‼ 下手するとこれ、カディル様にも匹敵してるんじゃ……」

「ロッシュの魔力が学生レベルを超えてるってことは知ってたけど、なんでこんな、急激なパワーアップを……」

 疑問を抱いたアイナの耳に、ぶつぶつと囁くロッシュの声が聞こえてきた。


「ふふ、見られている……。俺の無防備な姿を、皆がジッと見つめているぞ……」

「まさか、ロッシュ……」

 嬉しそうな幼馴染の囁きに、アイナは嫌な予感を覚えた。


 前世から真性の露出狂として悪名を轟かせてきたロッシュは、実は異世界ゼン・ラーディスに転生後、とある「特殊スキル」を手に入れていた。


 それは、「自身の裸体が他者の注目を集め、それに興奮を覚えることで魔力が上昇する」という、ニッチで意味不明なスキルだった。


 ロッシュ自身、その能力に気付いたのはつい最近だったが、特に、妙齢の女子たちから注目を浴びれば浴びるほど、元々高かった魔力が、さらに桁違いに跳ね上がるのだった。


「これが、俺の切り札……名付けて、『裸体魔限突破ヌーディスト・ブースト』だ」


 エンペラースライムと対峙した際、ロッシュが裸封法衣ヌグナリオの解除を執拗しつように求めてきた理由がようやく分かったアイナだったが、正直そんな理由が分かっても、全く嬉しくなかった。


「……さて。裸体もいい具合に温まってきたことだし、そろそろ勝負を決めさせてもらおう」


 明朗な声で九割全裸ロッシュが告げると、その両手に特大の魔法陣が現れた。


 深紅色の魔法陣からは、ただならぬ魔力の気配がビクンビクンと漏れ出しており、その危険性を本能的に察知したエンペラースライムは、再び空中に跳ね上がり、のしかかり攻撃を敢行した。


「勘は良いが、遅かったな。エモール渦まく炎よヌドー邪なる敵をテカカ輝くテ・ボデー御身でラメラーメ滅したまえ…………くらえ‼ 『ヌーディスト・メガフレア』‼」


 その詠唱と共に、魔法陣の中から燃えたぎる紅蓮の炎が、猛烈な勢いで放出された。


 まるで蛇のような形をした猛炎は、エンペラースライムの倍近い大きさを有し、放たれた数秒後には、巨大スライムを綺麗に丸呑みにしてしまった。


 スライムを呑み込んだ炎の大蛇は、そのまま空を飛翔していき、やがてグアオンッと派手な音を立てて、スライムごと中空で消失していった。


 炎が消えた後には、わずかに降り注ぐ火の粉だけが残り、それは生ぬるい風と同化して、アイナたちのそばを静かに吹き抜けていった。


「……ふむ。魔物相手に本気で魔法を使ったのは初めてだが、中々の威力だったな。いい訓練になった」


 ロッシュが満足気に言うと、後方で戦いを見守っていた生徒たちから、一斉に歓声が沸き起こった。


「凄え‼ あの化け物スライムを一発で倒しちまった‼」

「なんて威力の魔法だよ、ロッシュ‼ さすがは大魔法使いの孫だぜ‼」

「キャアアアア‼ ロッシュ君、素敵すぎいいい‼」

「ついでにお尻のラインも、素敵すぎいいい‼」

「ロッシュ君‼ あまりの衝撃にぼくはもう、君の裸無しでは生きていけないかもしれません‼ どうしてくれるんですか‼(キリッ‼)」


 生徒たちも喜びのあまり感情のタガが外れたようで、多種多様な叫びが上がっていた。


 それらの声を受けたロッシュは、まるで売れっ子雑誌モデルのように、爽やかに微笑んだ。


「ありがとう。皆の熱い視線が、俺に力を与えてくれた。ささやかな礼として、俺の『とっておきヌードポーズ・コレクション』を披露させてもらおうか……」

「これ以上、血迷った真似しないで‼」


 変態の蛮行ばんこうを瞬時に察したアイナは、自身が羽織っていたローブを、ロッシュの裸体にスポッとおおかぶせた。

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