9.でっかいプルプルです……
「と、とにかく、まだ無事な生徒も多いから、炎魔法が得意な皆で手分けして、ダークスライムを退治しないと!」
「そうだな。……ん? なんだ?」
「? どうしたの、ロッ……シュ……」
言いかけて、アイナも場の異変に気付いた。
やや遠方より響き始めた「ズン、ズン」という音と、それに伴い足元に伝わる、
その音が近づいてくるにつれて、足元の振動も徐々に大きさを増してゆき、周囲の木々からは鳥たちが、ギャアギャアと騒いで飛び去っていく。
やがて、振動が中規模の地震ほどにまで達すると、その揺れを生じさせていた元凶が、森の奥から姿を現した。
アイナは初め、巨大な丘が現れたのかと錯覚したが、そうではなかった。
全高約十メートルにも達する、重量感に
数多の木々をなぎ倒して現れたそれは、なんと超巨大な、暗赤色のスライムだった。
「な……なんだ、あのバカでかいスライムは⁉」
生徒たちは規格外のプルプルを前に、
「あの巨大な赤色のボディ……間違いない、『エンペラースライム』だ‼」
「エンペラースライム⁉ そんな名前のスライム、初めて聞きましたよ、ロッシュ君‼(キリッ)」
ロッシュの近くにいた委員長が、テンプルに手を添えて叫んだ。
「『スライムを
「い、いくらなんでも、スケールが大きすぎます‼」
通常のスライムは、せいぜい人間の膝元に達する程度の大きさだが、目の前のエンペラースライムに至っては、その辺の一軒家くらいなら丸々飲み込めてしまうほどの威容を誇っていた。
「これは……ただならぬ気配がすると思ったらまさか、エンペラースライムかい⁉」
そこに、他の魔法科クラスを引率していた女教師、ネクロ・クマスキードがやって来た。
「先生、いい所に! ダークスライムに襲われて身動きが取れない生徒が大勢いるんです。炎魔法でスライムを引き剥がして、早く皆を避難させてください!」
「避難させてくださいって……君はどうするんだい、ロッシュ~⁉」
「皆の避難が完了するまで、あの怪物を足止めします‼」
ロッシュはそう言い切って、サッと駆け出していった。
「ちょちょ、ちょっと~‼ いくら君でも、エンペラースライムが相手じゃ……」
「いいから早く‼
ネクロの静止も聞かず、ロッシュは巨大スライムに向けて、特大の炎魔法を放った。
が、しかし。
普通の魔物なら一発で消し飛ぶ威力の魔法が直撃したにも関わらず、エンペラースライムはダメージを受けた
「炎魔法が効かない⁉ まさかこいつ、体表面に
驚愕したロッシュに、今度はエンペラースライムが、口のような穴からなにかを勢いよく吐き出してきた。
吐き出されたのはスライムの体液で、ロッシュはそれを難なく
「エンペラースライムの体液の溶解力は、ダークスライムとは桁違いだ‼ 命中したら服どころか、骨まで溶かされてしまうよ~‼」
ネクロの言葉を聞いて、アイナの身体にゾワッと鳥肌が立った。
「ロッシュ、逃げて‼」
「ダメだ‼ ここでこいつを食い止めないと、皆に被害が……。こうなったらアイナ、『術式解除』を頼む‼」
「は⁉ この状況でなに言ってるの‼」
「こいつは、俺の全力を出さないと倒せない‼ そのためには、
「裸封法衣と今の状況は、なんの関係も無いでしょ‼ それより、ロッシュも後方に下がって‼」
「いいから解除だ‼ 急いでくれ‼」
次々放たれる体液を躱しながら叫ぶロッシュの剣幕に、アイナはビクリと身を
その目つきは真剣そのもので、いつものように、ただ露出がしたいからと無茶な要求をしているようには見えない。
……でもなんで今、裸封法衣を解除する必要があるの⁉
どさくさに紛れて、また変なことを考えているんじゃ……
「ロッシュ、上だよ~‼」
「‼」
ネクロ女史が声を上げると、ロッシュの頭上に、エンペラースライムの巨体が迫っていた。
体液攻撃の連発でロッシュの気を
「なんだと⁉ ……うっ⁉」
上空からのエンペラースライムののしかかりを
視線を移すと、小型のダークスライムが数匹、ロッシュの足と地面を接着するように、ガッチリとまとわりついていた。
「くっ、動けん‼」
「ロッシューーーーー‼」
アイナはたまらず絶叫したが、どうすることもできなかった。
動きを封じられたロッシュは、降下してきたエンペラースライムから逃れることができず、あっという間にその巨体の下敷きになってしまった。
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