6.人生はトライ・アンド・エラー

「お前は真昼間から、学園でなにをしとるんじゃあああ‼」


 数時間後、ツヴァイネイト家の屋敷で、憤怒の形相と化したカディルが物凄い怒号を放った。


 その怒りを一身に浴びたロッシュは、全裸に縄を巻きつけられ、床にちょこんと正座していた。


「なにをって、校内の女生徒たちに、性の素晴らしさを啓蒙けいもうしていたんだ。他にどんな理由があるというんだ?」

「堂々とトチ狂った発言をするな‼」


 男子トイレを脱出し、心行くままにき出しの時間を満喫していたロッシュだったが、やがてアイナの急報を受けて駆けつけたカディルによって捕縛されてしまい、ツヴァイネイト家の屋敷へと強制連行されていた。


 ロッシュも簡単には捕まるまいと、風の加速魔法などを用いて全力の逃亡を図ったが、本気で激怒した祖父から逃れることはできなかった。


「すみません、師匠……。私が目を離したばっかりに……」

 トイレでロッシュの脱走を許してしまったアイナが、粛々と謝罪した。


「いや、アイナ。どう考えても諸悪の根源は、この馬鹿孫じゃ。狡猾な手を使いおって……」

「狡猾とは酷い言い草だな。俺はただ、自分の心に素直に従っただけだ」

 ロッシュは縄でぐるぐる巻きになりながらも、無駄に冷静な口調だった。


「男子トイレの窓外に広がる雄大な青空を見て、俺は思ったんだ。これほど好天の日に服を着て室内に閉じこもっているなど、まるでかごに囚われた鳥のようだ……と。辛抱たまらなくなった俺は、ズボンのファスナーが部分解除されたのを利用し、そこから裸封法衣ヌグナリオの封印を全解除して、輝く太陽の下で我が身を焦がそうと決意した。生まれたままの姿で大地に抱かれることで、人は新たな精神の境地に達することが可能となり……」

「やかましいっ‼」

 滔々とうとうと続く変態の戯言ざれごとを、カディルは一言で一蹴した。


「師匠。今回は油断したけど、もう騙されません。もうすぐ校外で『課外授業』もありますし、この変態がこれ以上血迷った真似をしないよう、一層強力な裸封法衣を着せてやりましょう」

「うむ、そうじゃな」

「そんな! 横暴だぞ、アイナ‼ 俺の純朴な心を踏みにじるのが、そんなに楽しいか⁉」

「女子に喜んで裸をさらしてる男の、どこが純朴よ‼」

「ええい! かくなる上は、再び逃走を図るのみ‼」


 言い放ったロッシュは、全身に巻かれた縄をスパリと魔法で断ち切り、全裸で一目散に走り出した。


「師匠、変態が逃げました‼」

「逃がすかああっ‼」

 カディルは即座に魔法を詠唱し、手元に巨大な光球を生じさせると、それを逃亡するロッシュ目がけて、思いきり投げつけた。


「むっ⁉ なんと巨大な球……ぐああああああっ‼」


 金色に輝く光球の直撃をくらったロッシュは、その内部からあふれ出す強烈なエネルギーを全身に浴びて、苦悶くもんの絶叫を放ったのだった。

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