2.学校へ行こう。青春は大事だ

 この半年間、ロッシュは自らの露出欲を満たすため、祖父カディルの構築した魔法術式を、次々に突破していった。

 裸封法衣ヌグナリオの術式はどんどん複雑さを増していき、解除に数週間近くかかることもあったが、彼は決して諦めなかった。


 今回の封印術式も解除までに一週間を要したが、露出への執念をエネルギーに変えることで、見事難関を乗り越えていた。


 だが、術式解除して早々、新しい裸封法衣を着せられてしまったのは迂闊うかつだった。


「くそっ、今日こそは下半身露出しながら登校する夢が叶うと、期待に胸をおどらせていたのに……」

「おぞましいこと期待しないでよ‼」


 通学の途次、無念そうに嘆くロッシュに、アイナが叫んだ。


「まったく、いつも師匠に苦労をかけて……。あなたの変態趣味が世間に知られたら、英雄として名高い師匠の顔にも泥を塗ることになるんだから、馬鹿なことはやめなさい!」

「心配するな。外で露出する時はいつも覆面をかぶっているから、正体はバレたりしない。これでもちゃんと、じいさんに気をつかっているんだぞ?」

「私は、露出そのものをやめろって言ってるの‼」

「露出は俺の生き甲斐なんだ。やめたりしたら、俺は生きながらにして死んだも同然の身となってしまう。……だから、アイナ。今回の裸封法衣の解除術式を、こっそり俺に教えてくれないか?」

「絶対お断り‼」


 カディルの弟子であるアイナは、ロッシュの裸封法衣にかけられた封印の解除術式を、師匠から秘密裏に知らされているのだった。


「つれないな……。昔は、互いに裸を見せ合った仲だというのに……」

「そ、それは小さい頃の話でしょ‼」


 三歳くらいの頃、ロッシュにそそのかされ、一緒にすっぽんぽんになって遊んでいた記憶が蘇り、アイナは赤面した。

 彼女にとってそれは、忘れたくても忘れられない完全な黒歴史だった。


「照れることはないだろう。裸になるとは、すなわち自己を開放するということだ。なんなら今度、久々に一緒に脱いでみるか?」


 言いながらロッシュは、アイナの豊かな胸元や、制服のプリーツスカートからのぞく健康的な太ももを、じっくり凝視し始めた。


「ちょ、人の身体をジロジロ見ないでよ‼」


 そんなやり取りをしながら、やがて二人は、ヌーダストリア学園に到着した。


 ヌーダストリア学園は、中等部と高等部に分かれ、それぞれ複数の学科を有する大所帯の学校で、ロッシュとアイナは、その中で高等部の「魔法科」に所属していた。


「おはよう、ロッシュ君!」

「ああ、おはよう」

「キャー、見て! ロッシュ先輩よ!」

「ホントだ! 今日もカッコいいわねー!」


 学園の敷地に入ると、ロッシュを見つけた女子生徒たちが、黄色い声を上げ始めた。


 ロッシュは学園で非常に優秀な成績を収めており、昨年は高等部一年にして、魔法科で首席の座についていた。


 その本性は、どうしようもない脱ぎたがりの変態なのだが、「五十年に一人の逸材」と評される魔法の才能に加え、容姿端麗で誰にでも分けへだてなく接する性格のため、なにも知らない女子たちからは、非常に人気があるのだった。


「相変わらずモテるのね……変態のくせに」

 そんな幼馴染の本性を熟知しているアイナが、呆れて言った。

「まあな。……しかし、あんな純粋な眼差しを向けられると、あの娘たちにも俺の身体のあらゆる部位を見せつけて、性のステップアップ教育をほどこしたくなってしまうな……」

 恍惚とした表情で告げるロッシュに、アイナは嫌悪に満ちた眼差しを向けていた。


「アイナ先輩も、綺麗よねー」

「ロッシュ先輩とアイナ先輩って、登下校とかいっつも一緒だもんねー。幼馴染らしいし、やっぱり付き合ってるのかな~?」


 後輩女子の中には、そんなことを言ってはしゃいでいる者もいた。


 一緒に行動しているのは、付き合っているのでもなんでもなく、ただ師匠のカディルに頼まれて、ロッシュの無差別変態テロ行為を監視抑制しているに過ぎなかった。


 だが、年頃の男女が頻繁に連れ立っていれば、そういった誤解をされても仕方ないと理解していたため、アイナはこのたぐいの噂は全てスルーするようにしていた。


「ふっ。俺たちがとっくに裸の付き合いを済ませている関係と知ったら、あの娘たちはどんな反応をするだろうな?」

「余計なこと言わないでっ‼」


 周囲にさらなる誤解を生みかねない変態テロリストを、アイナは一喝して黙らせた。

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