第40話 それぞれの決断


 戦艦セインツは戦闘により深刻なダメージを被った。

 宇宙空間の航行に限って言えば約40パーセントの性能を発揮できるが問題はそこではない。


「参ったわね、これでは惑星ガイアに降下することが出来ないわ」


 艦橋で艦長もとい船長であるエリザベスは首を傾げる。


「おいおい!! ちょっと待ってくれよ!! それはどういう事だ!! 俺たちは一刻も早く地上に降りなきゃなんねぇんだぞ!!」


 グランツがエリザベスの胸倉に掴みかかり物凄い剣幕で食って掛かる。


「止めなさいグランツ!! これは船長のせいじゃないでしょう!? 頭を冷やして!!」


「くっ……!!」


 フェイの制止にグランツはエリザベスの襟から手を放す。

 グランツとて分かっていたのだ、エリザベスを責める事がお門違いであるという事に。

 だがこの怒りと焦りは誰かに当たらないといけない程どこにもやり場が無かった。


「ご免なさい、こんな事になってしまって……」


 エリザベスだって悔しいのだ、そのあまり全身が僅かに震える。


「モニカには気の毒な事をしましたが恐らくはもう……」


「レント!! お前がこんな訳の分からない事に俺たちを巻き込んだからこうなったんだぞ!!」


「グランツ!!」


 今にもレントールに殴り掛かりそうな勢いのグランツを再びフェイとソーンが制止する。


「……止めなよグランツ、こんな奴殴ったってモニカは戻って来ないんだ」


「ソーン!! お前までモニカが死んだって思ってるのか!?」


「……客観的に見ればそう思うしかないよ、信じたくないけど」


『ああ、信じないね……』


「その声は、お兄ちゃん!?」


『おう帰ったぜフェイ』


 よく知る声にフェイが反応すると、そこにはヴァイデスと共に艦橋内に足の生えたキューブが三体入って来たではないか。


「お前ら!! 無事だったのか!?」


『私がグランツを見捨ててどこかへ行く訳ないでしょう?』


 ナナがグランツに優しく声を掛ける。


「……お帰りルミナちゃん……みんながいるって事はミズキも?」


『ソーン、残念だけどミズキは残ったわ……モニカを見捨てられないってね』


 さすがのルミナも落ち込んでいる。

 艦橋内に重い空気が充満する。


「だ、だけどよ、ミズキが一緒ならモニカはきっと無事だぜ!! これまでだってミズキは奇跡を起こしてきただろう!? なあそうだろうみんな!?」


「………」


 一同は沈黙。

 グランツが場の空気を払拭しようと明るく振舞うが上手くいかない。


『現状、モニカとミズキの安否を確認する方法は無い、実際に惑星ガイアに降下しなければな……』


『だけどこのセインツの状態じゃそれは不可能でしょう?』


『人間の方々はこれからどうするつもりなのかしら?』


 AI達は冷静に現状を分析し始める。

 今の頭に血が登ったり意気消沈しているクルーたちでは建設的な議論にならないと踏んだからだ。


「そうね、とにかくセインツの修理をしなければ」


『どこで修理するんだい? 応急修理では大気圏に突入は無理だろう』


「ハイペリオンに連絡して修理艦を呼ぶわ、最寄りにハイペリオンの基地もドックも無いからね」


『時間は、期間はどれくらい掛かるの?』


「早くても修理艦の到着に五日は掛かるでしょう、それから修理に数日……はっきりした期間は分からないわね」


『そんなに掛かるなら先に何かしらの行動を起こした方がいいんじゃないかしら?』


「一体どうするって言うのよ?」


「俺に考えがある」


 ティエンレン、ナナ、ルミナと、順々にエリザベスに対して質問が飛び、最後の質問に詰まった時、ヴァイデスが口を挟んだ。


「パパ!?」


「みんなの前でパパはよせ、提案なんだが精鋭を募って先にガイアに降下するのはどうだろう?」


「降下って、セインツには地上降下用の突入艇は搭載していないのよ?」


「それなら丁度良いツテがあってな、おい聞こえるか? 私だ」


 ヴァイデスが携帯端末を取り出し会話を始めた。


『はい、こちらジェイド』


 何と通信相手は敵対関係にあるリガイアの戦艦ドッグケージ艦長代理のジェイドであった。


「そっちに地上との連絡用の大型突入艇が合ったろう、それを貸してくれないか?」


『了解しました、他ならぬヴァイデス大佐の要請です、突入艇はシュテルの造反の為紛失したと本国には報告しておきます』


「ハハハッ!! しかしお前も随分と言うようになったじゃないか!! よろしく頼むぜ!! それはそうともう俺は大佐じゃないからな、その呼び方は止めてくれ」


『いいえ、我々の取ってあなたはいつまでも大佐ですよ、では後ほど』


「おう」


 そう言って通信は切れた。


「そう言う訳だ、突入艇の人員は6人、機動兵器はレヴォリューダータイプなら三機までなら搭載可能だ、どうする?」


「俺は行くぜ!! モニカは絶対に生きてる!! それをこの目で確かめてやる!!」


 拳を握り締めるグランツ。


「私も行くわ、モニカのとの付き合いはこの中じゃ私が一番長いのよ、親友の私が行かなくてどうするの?」


 強い意志を秘めた瞳でフェイが言う。


「……僕も行くよ、君たち二人だけで行かせたらストッパーが不在だからね」


 ソーンの口元が僅かに綻ぶ。


「当然私も行きます、ハイペリオン関係者が必要でしょう?」


 さも当然とレントール。


「じゃあ次は俺だな、突入艇の操縦士が必要だろう?」


 ヴァイデスも名乗りを上げた。


「ではこの五人とレヴォリューダー三機を搭載は決定としてあと一人はどうする?、無理に6人乗る必要は無いんだが……」


「ちょっと待ったーーー!!」


 艦橋に一人の男が走り込んできた。

 その男は余程焦って来たのか壁に手を付き肩で息をしている。


「ゼェゼェ……俺も行くぜ!! 機動兵器の整備をする者がひつようだろう?」


「お、おやっさん!!」


 グランツ達の表情が和らぐ。


「確かにそうだな、よし、じゃあこれで決まりだ、向こうから連絡が着次第週発する、準備をしておけよ!!」


「了解!!」


 グランツ達は駆け足で艦橋を後にした。


「あ~~~あ、私も行きたかったなぁ……」


「馬鹿を言うな、艦長のお前が艦を離れてどうする」


 ヴァイデスは眉を顰める。


「船長よ、でもこんなに不自由な思いをするなら船長なんかにならなければよかったなぁ」


「今更だな」


 ヴァイデスは娘の言動に苦笑いをする。


「やれやれ、完全に隊長のお株をお義父さんに奪われてしまいましたね」


「だからいつから俺はお前のお義父さんになったのかな?」


 レントールの言い草にこめかみの血管が浮き出る。


「冗談でも何でもなくこれからはあなたがあの子たちを指揮してはくれませんか? これまで通り指揮するには私は少し彼らに嫌われ過ぎました」


 淋しそうに微笑むレントール。


「いいだろう、文字通り乗り掛かった舟だからな、だが俺はハイペリオンの事は詳しく知らん、サポートはお前がしてくれよ?」


「もちろんですとも」


 レントールが右手を差し出す、一瞬手を出そうとしたヴァイデスだったが思いとどまった。


「フン,馴れ合いはせん、俺はお前をまだ認めてはいなんだからな」


 くるりと踵を返す。


「それでも結構ですよ」


 ヴァイデスの背中を見送るとレントールはエリザベスにウインクすると自らも艦橋を出て行った。


「置いてきぼりかぁ、仕方ないわね……モニカも無事でいてくれるといいけど」


 窓の外の宇宙空間に目を移しエリザベスは深く溜息を吐くのであった。

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