第33話 団結の超AI


 「ミズキは大丈夫かしら……」


 メインメモリの殆ど全てのリソースをアヴァンガードコマンダーへと転送したミズキから連絡が来ない。

 何か良からぬことが起こったのかと気が気ではないモニカ。

 レヴォリューダーを移動させている最中、モニカの操縦に反して機体が急加速をした。


「ちょ、ちょっとどうしたの!? ミズキ2号!?」


『ますたーカラ救難信号ガ発信サレマシタ、急ギマス』


「えっ!? えっ!?」


 モニカの理解が追い付く前にレヴォリューダーは益々加速していく。

 しかしある程度飛行した途端、そこで急制動を掛けた。

 だが周囲にはコマンダーどころかバイパーの姿すら無い。


「ミズキは!?」


『ぷはぁっ!! 危なかった!!』


「あなた、ミズキなの!?」


『ただいまモニカ』


 モニカの脳内に聞き慣れた声が響く、ミズキがメインメモリーをこちらへ戻してきたのだ。

 ミズキ2号が加速してここまで来たのは先ほどの宙域はミズキのデータ転送の範囲外だったからだ。


「呑気にただいまじゃないわよ!! どうしたの!?」


『いやぁ、コマンダーをバイパーに撃墜されちゃってね……あとで隊長に謝らなきゃね』


「もう、無茶ばっかりして!!」


 モニカは僅かに涙ぐんでいた。


『ゴメン、でも感動の再会を喜んでいる場合じゃないんふぁなこれが……バイパーがこっちへ来るよ』


「何ですって!?」


『未確認ノ機影ヲ感知、コチラヘ接近シテキマス』


 コンソールのモニターに大き目のポインターが灯った。

 それは有り得ないスピードでこちらに近付いて来るのが分かる。


『一旦戻るよ、奴は機体を乗り換えて更に強力になったんだ、このままでは勝てない』


「えっ!? それはどういう……」


『説明している余裕が……って、そうだいい事を思いついた!!』


 ミズキはバイパーについての情報を直接モニカの脳へと送り込んだ。

 これなら言葉に出さなくても意思を伝えられる。

 これというのもミズキのナノマシンが細胞レベルでモニカの脳細胞と融合しているからこそ出来る芸当であった。


『そう言う事で奴に対抗するための対策を講じ様と思うんだ』


「なるほど、うん、分かったわ、船に戻りましょう」


 モニカは瞬時に理解を示す。

 自分がモニカの脳の機能を補うのは後ろめたい部分もあったミズキだが、こういった事情説明の間の時間さえ惜しい今のような状況にはうってつけだとミズキは思った。

 しかしこれで状況が解決したわけではない。

 遂にバイパー改めウロボロスはレヴォリューダーが姿を捉えられる距離まで接近して来たのだった。


「何!? あの大きな塊は!?」


『あれが今のバイパーだよ、とにかくセインツまで逃げるんだ!!』


「うん!!」


 モニカはここから最大速度で離脱するため足元のペダルをべた踏みにした。


(しかし艦に戻ったからと言ってどうなる? 奴は自分の周囲に何本ものビームを高速で打ち出すので接近戦を挑めない、しかも自身の装甲はビームを受け付けないコーティングがされているといったチート性能だ、これを打破するには……)


 逃げを打ちながらミズキは頭脳回路をフル回転させるがこれはと言った妙案が出てこなかった。


「ミズキ!! セインツが見えて来たわ!!」


『後ろを見ろ!! もう奴がそこまで迫っている!!』


 ウロボロスは既に自身の有効射程距離が及ぶあと僅かの所にまで接近していた。


『案内ご苦労、ここで纏めて貴様らを葬ってやるよ』


 例の如くウロボロスはこちらの回線に割込んで話しかけて来た。


「そんな!? 付けられていたの!?」


『奴の口車に乗るなモニカ、こちらを動揺させようとして言っているだけだ、そもそも艦の位置は最初から把握していたはずだ』


『チッ、つまんねえなぁ、もう少しお嬢ちゃんをおちょくってやりたかったのに……ってかお前、生きてやがったのか? しぶとい野郎だな』


 やれやれといったウロボロスの感情が言葉の発し方から伝わって来る。


『お陰様で死にかけたよ、それより貴様こそそんな余裕があるのかい? こんな敵陣の真ん前まで単機で乗り込んでくるなんて』


『おいおい、お前さんはさっきの俺の攻撃を受けたからには分かるだろう? 並みの兵器では俺の身体に傷一つ付けられないぜ』


(うん? 通信? レント隊長からか……)


 ミズキがウロボロスと会話している最中にレントールから映像だけの通信が入る。

 レントールは何やら文字の書かさった紙をこちらに見せつけている。


(なるほど、いま音声は奴に傍受されてしまうからな、考えましたね隊長……で、なになに?)


 書いていた内容は……。


「主砲発射!! 撃てーーー!!」


 エリザベスの号令の下、セインツの主砲が極太のビームをウロボロスに向けて発射したのだ。

 戦艦セインツのレーダーはウロボロスの巨体をいち早く察知しており、既に主砲のエネルギーを充填完了させていたのだった。


『うおっ!?』


 突然の事にたじろぐウロボロス。


『どうだ!? いくらビーム類が効かないコーティングが成されていたとしても戦艦の主砲並みの高出力ビームに耐えられるか!?』


 ビーム照射の激しい閃光でウロボロスの状態が確認できない。

 期待半分、不安半分で見守っているとやがてビームの照射が止んだ。


『ふぅ……驚かせやがって……』


『やはりダメか……』


 ウロボロスは全くの無傷であった。

 ミズキの見立て通り、やはり対ビームコーティングの性能は本物だった様だ。


『サプライズのお返しをしなきゃなぁ!! それっ!!』


 ウロボロスの極端に短かった手足が見る見る伸びていく。

 その様はまるで蛸や烏賊などの触腕を連想させるもので、それをたなびかせながらセインツへと特攻をかけて来たのだ。

 そしてその長い触腕を振り回しセインツの艦体に激しく叩きつけた。


「きゃああああっ!!」


「うわああああああああっ!!」


 セインツ艦内に悲鳴が響き渡る。


『それそれ!! 今度は捻り潰してやろうか!?』


 次に触腕をセインツに巻き付かせ締め上げる。

 メキメキと音を立て艦体までもが悲鳴を上げる。


『やめろぉ!!』


 見かねてミズキはレヴォリューダーでウロボロスにミドルソードで切り掛かった。


『馬鹿め!! 近づけると思ったのか!?』


 再びウロボロスの全周囲ビーム攻撃が始まった。


『くそっ!! またか!!』


 こうなってしまうともう手が付けられない、回避する他ないのだ。

 但しコマンダーの時とは違い、推力で上回るレヴォリューダーなら回避だけなら可能であった。

 しかしここで何故かウロボロスがセインツから離れて行った。

 このまま締め上げれば艦を握りつぶすのも可能だったはずなのに。

 それをミズキは見逃さなかった。


(何故セインツから離れたんだ? あの全周囲攻撃を使えば僕もセインツも同時に攻撃出来て一石二鳥だったろうに……いや考えるんだ、あの状態のままで攻撃を受けるのが奴にとって不利な状況を生むからだろう……待てよ、さっきのビーム攻撃、何故かセインツに密着したところは発射していなかったな、まさか密着するとビームが撃てない構造なのか?)


 ここで一つミズキが仮説を立てた。

 これ思考も早速モニカと共有する。


『密着する所まで接近できれば何とかなるかもしれない』


「でも危険すぎるわ、それにどうやってそこまで近づくのよ?」


『それは……』


『おい、少しは俺たちにも活躍させろ』


『ティエンレン!?』


 ここでティエンレンから通話が入った。


『私達もいるわよ』


『私達超AIの力、見せてやろうよ!!』


『ルミナ、ナナ!! どうして!?』


 次々と名乗りを上げるAIの仲間たち。


『俺たちのボディはもう戦闘には参加できないからな、ならAIとしてお前をサポートしようと思ってね……ミズキ、お前は一人で抱え込み過ぎだ、少しは俺たちを頼れ』


『そうそう、あなたが私たちより高性能なのは分かるけど、合わされば更に能力が向上するでしょう?』


『そうですよ、一人より二人、二人より四人ですよ!!』


 一気に三台分の超AIがミズキのレヴォリューダーへとメモリーを転送してきた。


『あれ? もう誰かいるよ?』


 ナナがAIボックス内の異変に気付く。


『初メマシテ、ミズキ2号ト申シマス、ドウゾヨロシク』


『何だ? ミズキお前、子供を作ったのか? モニカとの間に』


『こっ、子供!? ティエンレン、おかしなことを言うな!!』


 ティエンレンの発現にどぎまぎするミズキ。

 確かにモニカの脳細胞のナノマシンを転用して編み出したサブAIではあるのであながち間違いではないが、言い方と言うものがある。


『冗談だよ、何ムキになってるんだ?』


『………!!』


 恐らくミズキを人間に例えるなら顔が真っ赤になっていた事だろう。


『あ~~~もう!! 気を取り直してみんなの演算能力を使って奴に一泡吹かせてやろうぜ!!』


『おう!!』


 超AIが結集し、ミズキ達の反撃がいま始まる。

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