第31話 バイパーの秘密
『聞こえますかレント隊長』
「どうしたんですミズキ?」
丁度ヴァイデスのヴァルキュリアンがセインツの機動兵器格納庫ハッチに到着したころ、レントールの元にミズキから通信が入った。
『あなたの機体、アヴァンガードコマンダーを貸してもらえませんか?』
「えっ? 一体どういう事です? それに誰が操縦するんです?」
『済みません、今は詳しく説明している余裕がありません、コマンダーを射出するだけでいいんです、お願いできませんか?』
僅かばかり考え込むレントール、しかしすぐに決断する。
「……分かりました、君がそこまで言うのなら……お義父さん、少し手を貸していただけませんか?」
「誰がお義父さんか!! まあいい、この機体でいいんだな?」
憤慨しながらもレントールに従いヴァイデスのヴァルキュリアンは機動兵器デッキに横たわるコマンダーを引っ張り上げ格納庫の外へと放り出す。
『ありがとうございます!! あとはこちらでやりますから』
浮遊していたコマンダーのカメラアイが点灯、独りでに飛行を開始した。
ミズキがコマンダーのAIにアクセスし遠隔操作を始めたのだ。
『頼んだよコマンダー、僕らの勝利は君の働きに掛かっているんだ』
『ピピッ……』
電子音でまるでミズキの呼び掛けにコマンダーが返答した様だった。
「なあ隊長さんよ、こっちも補給をして欲しいんだが」
「えっ? まだ出撃するおつもりで? 恐らく艦前方の敵機は彼らが何とかしてくれると思うのですが」
ヴァイデスの申し出に困惑するレントール。
「ああ、そっちじゃない……ちょいと決着を着けたい相手が他に居てな」
「……分かりました、では整備員の皆さん、ヴァルキリアンに補給をお願いします」
「了解しました」
格納庫に着艦したヴァルキリアンの機体に整備員が群がる。
「おい、それとは別に携行用の燃料タンクは無いか?」
ヴァイデスがコックピットから顔を出し一人の整備員に声を掛けた。
「有りますけど、どうするんですか?」
「知っての通りこいつはすこぶる燃費が悪い、少しばかり遠出をするから帰りの燃料が必要なんだよ」
「それでしたらいい物がありますよ」
「うん?」
「ちょっと待っていてください、すぐに用意しますから」
「おい、ちょっと……」
ヴァイデスの制止も聞かず若い整備士は格納庫の奥へと行ってしまった。
「……うっ!!」
度重なるバイパーの猛攻にソーンの機体は限界を迎えようとしていた。
「大丈夫かソーン!? 一旦引き返した方が良くないか!?」
「……大丈夫、僕が退いたらグランツ一人では持ち堪えられないでしょう?」
ソーンの機体の損傷に比べグランツの機体の損傷は驚くほど軽微であった。
それというのもバイパーのスネークトゥースの攻撃をソーンが一心に受けグランツの機体を庇っていたからに他ならない。
『お前たちとの遊びもいい加減飽きて来たな……そろそろ終わりにするかい?』
バイパーのこちらを舐め切った声が聞こえる。
「いよいよもってヤバいなこれは……」
グランツも疲弊していた。
相変わらず破壊しても破壊しても元に戻ってしまうバイパーの機体。
もうどれだけ繰り返したか分からない。
憎まれ口を叩く余裕すらなくなっていた。
『じゃあフィナーレだ!! 宇宙のゴミと成り果てろ!!』
バイパーの機体が六つに分離し広範囲に展開する。
そして各々からスネークトゥースを大量にばら撒いた。
それはほぼ全周囲に及んでおり、ソーンのシールドでは防ぎきれない。
「……万事休す」
ソーンが諦めかけたその時、バイパーに異変が起きた。
『なっ、てめぇ!! どうしてここが……!!』
そう言った切りバイパーからの通話は途絶え、分離した機体は全て行動を停止した。
しかしまだスネークトゥースが残っている。
こればかりは数が多く避け切る事は出来ない。
「くそっ!!」
「………」
その時どこからともなくビームが降り注ぎ、スネークトゥースを悉く破壊していった。
「二人とも大丈夫!?」
「モニカか!? 助かったぜ!!」
「……助かった」
二人はほっと胸を撫でおろす。
「一体何が起こったんだモニカ?」
「ミズキよ、ミズキがバイパーの秘密を突き止めたの」
「何? ミズキが? あいつはお前の身体のサポートをしているんじゃないのか?」
「そうだったんだけど、今は別の所にいるわ」
「はぁ!? どういう事だ!?」
「あたしもよく分からないのよ、だけど実際にここに居ないんだからしょうがないじゃない!!」
聞いたグランツだけでなく、モニカ自身も困惑している様だった。
ソーンはそれを察し、それ以上事情を聞こうとはしなかった。
「そんな事より二人は艦に戻って機体の修理と休息を取ってきて、後はあたし達がやるから、バイパーとの戦いはまだ終わってないのよ」
「待てよ俺たちも行くぜ、お前だけを行かせられるかよ」
「……グランツ戻ろう、今の僕たちじゃ逆に足手まといだ」
「くそっ、ああ分かったよ」
ソーン言われて気付く、グランツの機体も燃料がもう残り少ない事に。
「それじゃあ、あたしは行くわ、ミズキが待ってる」
「……気を付けて」
二人は飛び立つモニカの機体を見送った。
「だがこのまま帰っちゃ面目が立たねぇ、帰り掛けにこいつらをぶち壊しておこうぜ」
「……うん」
ただの浮遊物と化したバイパーの分離体を次々と破壊しつくすグランツ達。
取り合えずの危機は終息を迎えた。
数分前。
『来たねコマンダー』
モニカとミズキのレヴォリューダーに随伴する様にアヴァンガードコマンダーが飛来した。
「ミズキ、レント隊長の機体なんてどうするの?」
『モニカも知っての通り隊長の機体は子感度センサーを積んでいる、だからそれを活用してバイパーの秘密を暴く』
「えっ!? ミズキはあの不死身の仕掛けが分かったの!?」
『ある程度の予想はついているよ、これより僕はコマンダーの方に意識を転送するからモニカはグランツ達の増援に向かってくれ』
「はっ!? 何を言ってるの!?」
『今言った通りコマンダーの能力を使って僕がバイパーの本体を探し出す、一旦お別れだモニカ』
「ちょっと待ってよ!! あたしにあなたのサポート無しで戦えっていうの!?」
『大丈夫、今の君は僕のナノマシンでほぼ元の身体に戻っているんだ、以前の様にやれば何の問題も無いよ』
「でも……」
モニカは不安そうだ。
『分かったよ、じゃあ僕の分身を置いていく、それならいいだろう?』
「えっ?」
『コンニチハ』
「何!? 何!?」
モニカの頭の中にミズキと同じ声で片言に話す存在を感じる。
『僕のバックアップ、【ミズキ2号】だよ、いま造り出したばかりだけど僕の80パーセントの性能がある』
『コンゴトモヨロシク』
「分かったわよ、それで妥協してあげる」
それでもモニカはまだ不満そうだった。
ここでモニカのレヴォリューダーとミズキのコマンダーは別行動となった。
離れて行くコマンダー。
お互いの目的宙域を目指しながら通信で会話を続ける。
「話しを元に戻すけど、ミズキはバイパーの秘密が分かったのよね?」
『うん、あいつは、バイパーは調子に乗って能力をひけらかし過ぎた……それがヒントになったんだ
ねぇモニカ、バイパーは身体の各所が破壊されるたびに同数のパーツを呼び寄せて元に戻っていたよね?』
「そうね、腕が破壊されれば腕の代わりを、頭が破壊されれば頭の代わりを、身体の全てを破壊されればその全てを呼び寄せて元通りになったわね」
『そこに何か気付かないかい?』
「えっと……」
頭を捻るがモニカには答えを導き出すことが出来ない。
『奴の身体は6つのパーツで構成されていた……要するに同時に6つ分のパーツしか操ることが出来ないんだ』
「何故そんな事が言えるの?」
『考えてみて欲しい、パーツを一度に何個でも操れるならもっと多くのパーツを同時に操ってこちらを攻撃しようとしないか?』
「あっ、確かに」
『それと次に引っ掛かったのがパーツの操作範囲だ……バイパーの母艦とここまでの距離を考えると操作するのは結論として不可能なんだ』
「どうして?」
『あれだけの質量と個数を遠隔操作するには距離があり過ぎる、僕や仲間の超AIでもそこまでの能力は無いんだよ、実際に機体に搭乗していれば別だけど機体を全て破壊されてもバイパーはそこに居なかった……という事は奴は母艦と戦闘宙域の中間地点付近にいる可能性が高い』
「成程!!」
本当に納得しているのか疑わしいモニカが相槌を打つ。
『そして僕はこの辺のデブリが怪しいと思うんだ』
ミズキのコマンダーの眼前に無数の岩石が浮遊している。
ピピピピピピ……。
「何の音?」
『言ってる傍から獲物が掛かったね、コマンダーが何かを見つけた様だ』
岩石の影に赤いランプを点滅させている物体を発見した。
それはバイパーの分離体であった。
『居た!!』
『なっ、てめぇ!! どうしてここが……!!』
バイパーもコマンダーの存在の気付く。
「お前が本体だな!? 大人しく討たれろ!!」
コマンダーのビームピストルが火を噴く。
しかしバイパーはそれをかわす。
本体を動かしたことでパーツを6つしか動かせないという能力の限界を超えたバイパーのボディーは遠隔操作先で活動を停止してしまった。
それが丁度グランツ達に総攻撃を掛けた直後であったのだ。
『くそっ!! 何で俺の仕掛けが分かった!?』
『相変わらずだねバイパー、いやギル大尉』
『まさかお前は!!』
バイパーは驚愕する。
『モニカが世話になったね、今度は僕が君にお返しをさせてもらおうかな?』
ミズキは静かに内面で煮えくり返る怒りを抑えつけながらバイパーを威圧するのであった。
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