転生先は美少女パイロットが乗るロボットのAIでした。

第30話 悲しき双子戦士

　「消し飛べーーー！！」

　アルのドゥームの大口径ビームキャノンが火を噴き極太のビームが宙を裂く。

　しかしヴァイデスの駆るヴァルキュリアンは難なくかわして見せた。

「おおっ、確かにこいつは俊敏に動くな……」

　ヴァイデスは操縦桿を握ったり離したりしながら機体のレスポンスを確認する。

　ヴァルキュリアンも初期状態のレヴォリューダーとほぼ同じタイトな調整が成されており、こちらは調整を行っていない。

　その機体を初の搭乗で難なく使い熟すあたりヴァイデスはやはりベテランの軍人だと言えるだろう。

「キーーーッ！！　羽虫みたいにフワフワ避けやがってーーー！！」

　何度も狙いをつけビームを放つがそのすべてをひらりと交わされアルは怒り心頭だ。

『ヴァイデスさん！！　その機体はその大砲以外には碌な装備がないはずです、それを破壊してください！！』

「そうか、ならば……」

　ミズキの助言を聞き入れヴァイデスはヴァルキュリアンの左腕に装備してある盾の裏側から棒状の物を右手で抜き取る。

　その棒は振るう事で柄が伸び、先端に斧のような形状のビームが展開した。

　所謂ハルバードである。

　そのビームハルバードを振りかぶりヴァルキュリアンは一気にドゥームまでの間合いを詰めた。

「何っ！？」

　あまりの早さにアルは回避が間に合わず、ビームキャノンで防御態勢を取った。

　このままいけば虎の子のビームキャノンはミズキの思惑通りに真っ二つになるはず……であった。

「これは……」

　ヴァイデスが目を見張る。

　何とドゥームのビームキャノンに沿って縦にビームが発生しているではないか。

　そのビームの刃は同じビームであるハルバードを受けきっていた。

「へへーーーん！！　同じ失敗はしないよ！！　この前の反省を踏まえてキャノンの底面にビームを発生させられるように改造してもらったんだ！！」

　アルが力任せにキャノンを振り回しビームハルバードを押し返した。

　この改造によりビームキャノンは打撃武器としても使用可能になったのだ。

「どうだ！！　こちらの方が目方がある分威力が高いだろう！！」

「グムッ……」

　激しくキャノンを叩きつけて来るドゥームに対してヴァルキュリアンは防戦一方だ。

　細くて軽いビームハルバードではまともにキャノンを受けきれない。

　形勢逆転、今度はドゥームの方が戦闘を有利に展開している。

　とうとう押し切られヴァルキュリアンはハルバートを弾き飛ばされてしまった。

「しまった！！」

「これで死ねーーー！！」

　ドゥームが頭上に高々とキャノンを振りかぶり、そのままヴァルキュリアン目がけて振り下ろす。

　万事休す……。

「パパ！！　コンソールの中心のハートのボタンを押して！！」

「エリザベス！？　よし！！」

　エリザベスの声にハッとなり条件反射的にヴァイデスの手が動く。

　ピンク色のハートのボタンを押した途端、ヴァルキュリアンの胸の装甲が中心から開き、左右各々の胸の膨らみの中から二門の砲口が顔を覗かせる。

「バストファイアー発射！！」

　艦橋でエリザベスが人差し指を突き出しながら叫ぶ。

　ヴァルキュリアンの胸の砲口から激しい火炎が噴射されドゥームに襲い掛かった。

「きゃあっ！！」

　高熱の炎で装甲が焼かれ、視界を担うカメラも焼かれてしまったドゥーム。

「くそっ！！　見えない！！　どこへ行ったーーー！？」

　視界を奪われ出鱈目にキャノン砲を振り回すアル。

　無論ヴァルキュリアンに掠りもしない。

「悪く思うな、これは戦争だ」

　ヴァイデスはハルバートを振りかぶり一気に振り抜く。

　刃はドゥームの胴体を横に一閃、真っ二つに両断した。

「きゃーーーーーっ！！　イルーーーー！！」

　アルは断末魔を上げ爆発に飲まれていった。

「アルーーーー！！　きっ、貴様ら……許さない！！」

　アルは涙を流しながら激昂する。

　ミズキは彼女の乗機フォーチュンから何やらどす黒い霧のような物が立ち昇った気がした。

　恐らくは殺気、それもこれ以上ないくらいの強烈な。

『気を付けろモニカ！！』

「分かっているわ！！」

「うわああああああああっ！！」

　フォーチュンは一気に間合いを詰めレヴォリューダーに襲い掛かる。

　イルの繰り出す二刀流の攻撃は確かに激しいが、怒りに任せて剣を振り回しておりレヴォリューダーはさほど苦労せず避けていく。

「よくもアルをーーーーっ！！」

　イルの激昂に呼応してフォーチュンに搭載されている夥しい数の剣が一斉に発射されミズキとモニカの乗るレヴォリューダーに一斉に襲い掛かる。

『以前にはこんな攻撃は出来なかったはずだ……まさか怒りの感情がピークまで高まったことによって脳波で剣を操る事が出来るようになったとでも言うのか？」

　味方のティエンレンがミサイルを任意に操って見せたことがあった。

　しかしそれは超AIの驚異的な演算能力によるところが大きい。

　例えイルが幼少から戦闘の為に育てられたからと言って人間には未だ不可能な領域なのだ。

　皆が現在戦っているバイパーですら自身の脳とOSであるシオリと接続した事で初めて遠隔操作が可能になったのだから。

　皮肉にもそれを戦闘中の、しかも妹の死を切っ掛けに覚醒したイルは既に人間を超える存在へと進化したのであった。

　迫りくる嵐のような無数の剣、しかしミズキは動じない。

『悪いけどにわか仕込みでは僕ら超AIに対抗することは出来ないよ……』

　ミズキは敢えて回避行動を取らず剣の群れに正面から対峙する。

「どうするのミズキ」

『こうするのさ』

　彼らのレヴォリューダーから音波のような物が発信された。

　その波を受けた剣は悉く進行を止め、ただ宇宙空間を漂うのだった。

「そんな！！　どうして！？」

『確かに君は凄いよ、でもまだまだ武装を操るには脳波が不安定過ぎる……だから僕が出した妨害電波に簡単に防がれる』

　お互い通信はしていないが偶然にも会話が成立していた。

「こうなったら！！」

　二本の腕とサブアームを含めた六本の腕に剣を握りフォーチュンはレヴォリューダーに対して高速で突進、イルは最後の勝負を仕掛ける気だ。

『モニカ……』

「うん」

　感情を押し殺し、モニカとミズキはイルに銃口を向ける。

　ビームが発射されイルは回避しようと機体を操るが、周りに散らばる自分の剣に突き刺さってしまった。

　これはミズキがイルの回避駆動を計算した結果であった。

　予め無効化した剣の切っ先をこちらに向くように少し操作していたのだ。

　ビームを避けなければそれで終わり、回避しても剣に貫かれる……飛ばした剣の制御を奪われた時点でイルの敗北は決定していたのだった。

「ゴメン……アル……仇を討てなかった……」

　フォーチュンは爆散、辺りに残骸をまき散らす。

　その中の一本の剣がレヴォリューダーの方の装甲を掠めて行った。

　イルの執念の一撃だったのかもしれない。

『ヴァイデスさん、無事かい？』

「無事は無事だが、エネルギーがもう無い……何て燃費の悪い機体だ」

　通信からヴァイデスの呆れた感情が伝わって来る。

　ヴァルキュリアンは極限まで軽量化したその細身のフォルムが災いし燃料タンクがあまり大きくなかったのである。

『分かった、あなたは艦に戻ってくれ、後は僕らに任せて』

「悪いな」

『……みんなが待ってる、行こう』

「うん、急がないと」

　去っていくヴァルキュリアンと別れ、ミズキ達のレヴォリューダーはガンマ小隊の皆が待つ宙域へと飛び立ていった。