第29話 復活のコンビと戦乙女?
「エリザベス船長!!」
モニカは戦艦セインツの艦橋に現れた。
「モニカさん!? あなた身体は大丈夫なの!?」
エリザベスが驚きの表情を現す。
彼女が知り得る限り、モニカが何の補助も無しに歩いてここまで来るなど有り得なかったからだ。
「はい、ミズキのサポートのお陰で以前より調子がいいくらいです、私に出撃許可をください」
溌溂として生命力に満ち溢れる眼差し、モニカが言う事は満更でもないのだろう、しかし。
「でも病み上がりのあなたを戦闘に参加させるのはねぇ……」
『みんな苦戦しているんですよね? なら僕らが行かなければ……恐らくあの敵のAIは僕らと因縁深い筈です』
「あら? ミズキ……君なの? そのヘッドフォンみたいな物」
エリザベスは食い入るようにモニカの首元を覗き込む。
『はい、モニカと直接リンクして欠損した身体機能を補っています』
「う~~~ん」
エリザベスが中々決断できずにいるとその時、艦が激しく揺れた。
「何があったの!?」
「左舷エンジンルームに被弾!! あれは、後方に新手の人型機動兵器が二機接近しています!!」
「何ですって!?」
モニターに機影が映し出される、二機の正体はイルの乗るフォーチュンとアルの乗るドゥームであった。
「レヴォリューダーの誰かを迎撃に回せないの!?」
「無理です!! あちらはあちらで手一杯ですから!!」
「ぐぬぬぬぬ……」
オペレーターの報告に歯噛みするエリザベス。
「こうなったら私が起動兵器で出るわ!! こんな事もあろうかとわたし専用機を用意してあるんだから!!」
「行かせてやればいいじゃないか、彼女らに」
「パパ!?」
艦橋を出ようとしたエリザベスにヴァイデスが話しかけて来た。
「ミズキだったね、君のAIとしての能力は私も目の当たりにしたが大したものだ、君が居なければ私は今ここには居ないからね」
『ヴァイデスさん』
「でもパパ……」
「そんなに心配なら私も出よう、確かお前の専用機があるんだったな?」
「えっ!? あるにはあるけど……パパには、ねぇ……ほら、搭乗者登録とかあるし!! それなら私が出た方がいいわよ!!」
エリザベスが妙に落ち着きがない、何があるというのだろう。
「そんなのそう時間が掛かるものではないだろう、それに艦長のお前が船を離れてどうする」
「うっ……分かったわよ、まずは後方の二機を何とかして頂戴!! 格納庫へ行って、連絡はしておくわ!!」
ヴァイデスの正論に負け、渋々許可を出すエリザベス。
「よし、そうと決まれば出撃だ、じゃあ行こうかお嬢さん」
「モニカと呼んでください」
「おっと失礼した、モニカ」
二人は一目散に格納庫を目指した。
夥しい数のスネークトゥースがレヴォリューダー隊を襲う。
「……エネルギーシールド展開」
ソーンのレヴォリューダーがエネルギーシールドを最大出力で展開、巨大なバリアが三機を覆う。
そこへスネークトゥースが次々と突き刺さる。
『そんなんじゃあ俺の牙を止める事は出来ないぜ』
スネークトゥースはビームに触れているので全て爆発したが、その時シールドに一時的に穴を穿つ。
その僅かな隙にスネークトゥース内に内蔵されていた紫の液体が降り注ぎソーンのレボリューダーに降りかかった。
「……なっ、装甲が……溶けている……?」
紫の液体が掛かった腕の装甲が煙を上げながらじわじわと内部フレームまでも侵食していく。
程なくしてソーン機の右腕は肘の辺りで崩れ落ちた。
『どうだい俺の毒の味は? 宇宙空間内でも凍結せずに液状を保つ特別製だ』
「くそっ、これかさっき俺のハンマーを溶かしたのは!!」
「何が毒よ!! そんなに蛇が好きなら皮を剥いでベルトにしてあげるわ!!」
『言ってやれフェイ、行くぞ!!』
フェイ機がミサイルコンテナをパージしバイパーに向かっていく。
『接近戦に落ち込もうってか? いいぜ、受けて立ってやるよ!!』
バイパーはフェイ機の突進を真正面から受け止めるつもりかその場を動こうとしない。
「喰らいなさい!!」
フェイ機の正拳突きがヒットする瞬間、一斉に身体を分割して飛び散るバイパー。
そしてその分割した部位それぞれから例の溶解液を噴射、フェイ機に降り注ぐ。
「きゃあっ!!」
煙を上げ装甲が解けていく。
『まずいぞフェイ!! このままではコックピットまで侵食して穴が開いてしまう!!』
「そんな……どうするのよ!!」
ティエンレンの警告にどうようするフェイ。
『フェイ聞こえますか? 一時撤退を』
「隊長!! しかし!!」
『そのままでは戦闘継続は不可能です、一旦戻って』
「分かりました……」
撤退行動を取るフェイ機。
『待てよ、これからパーティーが盛り上がるんじゃないか、帰るのは早いぜ?』
尚も襲い掛かるバイパーの分離機体。
「うるせえよ!! そんなに騒ぎたいなら一人でやってろ!!」
グランツ機がバイパーの分離体一機に剣を突き立て破壊する。
『そう言うなよ、一人で騒ぐなんて淋しいだろう? 次はお前に付き合ってもらおうか』
又しても分離体が一機追加されバイパーは元に戻ってしまう。
「……グランツ聞こえる?」
「ソーン、どうした?」
「……奴のパーツをいくら破壊しても元通りになるけど無限にあるはずがない、コックピットに当たるものがどこにあるかは分からないけど片っ端から破壊すれば或るいわ……」
「そうか、片っ端からぶっ壊せばいいんだな!? 得意分野だぜ!!」
『グランツ、代わりのブーストハンマーを射出しました、受け取ってください』
「おっ、隊長気が利くねぇ……よっと!!」
高速で接近するハンマーをしっかりキャッチしたグランツ機はさっそくブーストを噴射した。
「行くぜ行くぜいくぜ!!」
『馬鹿め、またキャンディみたいに溶かしてやる』
バイパーは分離帯で横に陣形を張り溶解液を発射する。
「……させないよ」
グランツ機とバイパーの間にソーン機が割って入る。
「……ルミナちゃん、左のシールドに右の分のエネルギーを回して」
『OKソーン!!』
右手は先ほど受けた攻撃で欠損しているのでそもそもシールドが張れない。
その分を左のシールドに充填するというのだ。
エネルギーシールドだからこそ出来る作戦である。
とはいえ溶解液がエネルギーシールドに干渉しシールドの膜が削られていく。
『無駄無駄、こいつにはエネルギー物質を発散させちまう効果もあるんだぜ』
「……それで十分、グランツ」
「おうよ!! 食らえ!!」
高速回転して威力を増したハンマーがバイパーの分離体全てを叩きのめす。
『やるじゃないか、そう来なくっちゃな!! 面白くなってきたぜ!!』
もう幾度目か、又バイパーの分離体が飛来、合体して元に戻ってしまった。
「おい、これで本当に勝てるんだよな?」
「……でもやるしかないよ」
絶望が支配する中、グランツとソーンは覚悟を決めるのだった。
「アハハハハッ!! 沈んじゃえーーー!!」
アルのドゥームが大口径砲を乱射する。
そのビームはことごとくセインツの機関部に命中、爆炎を上げる。
「アル、気を付けて、敵の機動兵器が来たわ」
「いいよいいよ!! みんなまとめて撃ち落としてあげるから!!」
フォーチュンとドゥームの待ち受ける宙域に二機の機動兵器が到着する、モニカとヴァイデスの乗る機体だ。
「はぁ? 何だあの機体、馬鹿にしてるのか?」
「見た事無い機体ね……特にあのピンクの機体は……何?」
二人の視線は特にヴァイデスの乗る機体に向けられていた。
穏やかな顔の造形、細い手足にくびれた腰、豊満な胸……まるで人間の女性だ。
「……エリザベスめ、機体を貸し渋ったのはこういう事か……」
狭いコックピットの中、ぎゅうぎゅう詰めになっているヴァイデスが吐き捨てる。
エリザベス専用機のこの機体は名を【ヴァルキュリアン】と言い、曲線と細身の
フォルムを誇る美しい機体だ。
おまけに背面には天使の羽を連想させる翼的な何かが生えている。
もちろんエリザベスの趣味がこれでもかと反映してあるのは言うまでもない。
それゆえに筋肉達磨のヴァイデスが乗っているのは実に不釣り合いである。
「なんだってこんなデザインなんだ、あいつ戦闘を舐めているのか?」
『まあまあ、解析した結果その機体は超高速での飛行が可能の様だよ、それもアヴァンガードの3倍、レヴォリューダーの1.5倍の出力がある』
「待った、自慢じゃないが私はそんなに機動兵器を操縦するのは得意じゃない、まともに操れる訳ないだろう」
『大丈夫、性能を限界まで使わなくても戦い様は有るよ、あなたのここまで逃げて来れた程の腕があればね』
「その気にさせるのが上手いな、そこまで言うなら全力を尽くそう」
実はヴァルキュリアンの造形の視覚的効果で敵の攻撃に若干の戸惑いが起こっていたのをミズキは見逃さなかった。
例えそれが本物の人間の女性でなくても本能的に女性的なフォルムは戦意喪失を引き起こすのだ、特にピンク色はその効果を増加させる。
エリザベスがそこまで考えてヴァルキュリアンを制作したのかは甚だ怪しいが全くの酔狂と言う訳でもないという事だ。
実際イルとアルの手が止まている、ここに付け入らずにどうする。
『ヴァイデスさんは長物を持った方をお願いします、僕らは剣を持った近接戦闘型の相手をします』
「心得た」
二機は二手に分かれ各々の敵に向かっていった。
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