第26話 最悪の同盟と牙をむく野心家
リガイア軍、戦艦ドッグケージ内艦橋。
「お前たちが捜索に出ていながらみすみすヴァイデスと捕虜を逃がすとは何事だ!?」
シュテルは双子のパイロット、イルとアルを呼び付け叱責の真っ最中であった。
顔を真っ赤にし頭から湯気が出そうな勢いで怒り狂っている。
いつもの丁寧語も鳴りを潜めている。
「申し訳ありませんシュテル大佐、作戦行動中に動揺し虚を突かれました」
淡々とイルが謝罪の言葉を述べる。
「そんなこと言われても~~~、あんな状況想像できる訳ないし~~~」
「何!?」
一切悪びれないアルを血走った眼で睨みつける。
「ちょっとアル」
「はい!! 申し訳ございませんでした!!」
イルに肘で脇を小突かれわざとらしく大声で謝罪するアル。
「お前たちを回収している間に奴らの足取りが分からなくなってしまったんだぞ?
まったく、デザイナーチルドレンであるお前らをここまで育てるのにどれだけの手間と時間と金が掛かったと思っている」
シュテルの説教、もとい愚痴は延々と続く。
イルは無表情でひたすら耐え、アルはあからさまに嫌な顔をして視線を逸らしていた。
そんな時、何かのアラーム的なメロディーが流れた。
音の発信源はシュテルの通信端末であった。
「何だこんな時に……うん?」
上着のポケットから端末を取り出し画面表示を見るなりシュテルは慌ててその場を離れた。
部屋を出て廊下で着信を受ける。
「もしもし? 何ですかこんな早い時間に、いつも薬の事で世話にはなっているとはいえ通話時間の約束は守ってもらわないと」
『そう邪険にしなさんな、今お前さんはとても不味い事になっている……違うかね?』
端末からはしわがれた男の声がする、明らかに年齢を重ねた男性の声だ。
「何故それを?」
『お前さんの声色を聞けば分かるよ……何か任務にでも失敗したかね?』
「あなたには関係の無い事です、それで要件は何です?」
『うむ、この話しは今のお前さんにとっては渡りに船といった絶好のタイミングの手柄話じゃな』
「勿体付けていないで早く話しなさい」
『実はな……』
謎の老人から事の詳細を聞かされシュテルは驚愕する。
「一体何を考えているのです!? そんな事が出来るはずないでしょう!?」
大声を上げてしまってから慌てて辺りを見回すシュテル。
『最近似たリアクションをした人物がいたのう、お前さんもかね』
「それはそうでしょうとも、相手の人物も常識がある証拠です」
『「敵の敵は味方」と昔からよく言うじゃろう、そう気にしたものではないと思うがね、一応先方は説き伏せておいたので後はお前さん次第なんじゃが』
「ぐぬぬ……」
『利害が一致しているんじゃ、それに未来永劫ずっと手を組もうと言っているんじゃない、それともあんたは失策を演じたまま本国へ帰れるのかね?』
「……分かりました、あなたの提案に乗りましょう」
『ほう、それは良かった、では儂がパイプ役となってあんた方の仲介をするとしよう……また連絡しますよ、ではこれにて』
老人は姿が見えない事をいいことに下卑た笑いを口元に浮かべる。
彼は手柄の話しで煽れば確実にシュテルが確実に首を縦に振るのが分かっていたのである。
双方、通話を切ると、老人は目の前にある自動扉を開け中に入る。
「話しは付きましたぞハイデル殿、まさかレントとか言う者も敵対しているスペシオンとリガイアが手を組んで共闘するとは思いますまい」
「ああ、そこまではいい、しかしダビデ博士、はるか先を先行するレントの戦艦にどう追い付くつもりかね?」
「そこはぬかり有りませんとも、儂が発明した相転移航法を使えば造作もない事……」
「相転移? 何ですそれは?」
「相転移航法を分かり安く説明するなら進もうとしている方向の空間と今自分がいる空間を入れ替えて前に進む方法の事じゃ、それを超高速で何度も繰り返すことによってとんでもない速さで先に進むことが出来るのじゃ……相手の先回りを出来る程にな
口で説明するより実際にやって見せましょう、その方が実感として分かり安い……そのためのエンジンは既にこの巡洋艦に取り付け済みですのでな」
「なん、だと?」
動揺と困惑の混ざり合った複雑な表情のハイデル。
「ダビデ博士!! これまでもあなたの勝手には目を瞑って来ましたが今日こそは許しませんよ!! そんな訳の分からない航法、失敗したらどうなるのです!?」
ケルンが物凄い剣幕でダビデに詰め寄る。
今回はいつにもまして迫力があった。
「まったく相変わらず細かい事を気にしよる、そんなでは大成できないぞい?」
ダビデは白衣のポケットから何かを取り出しケルンの胸に押し付けた。
「何を!? うっ!!」
パン、という乾いた音と共にケルンはその場に倒れ込むする。
ダビデが押し当てた物は小型のピストルであった。
「何をするのです!?」
「おっと、動かないでもらえますかなハイデル殿」
倒れているケルンに駆け寄ろうとしたハイデルにダビデは銃口を向けた。
「他の皆さんも、おかしな気を起こすとこの部屋ごとドカンじゃぞ?」
今度は反対側のポケットから物を取り出す、それはラグビーボールのような形のもの……小型爆弾であった。
「ダビデ博士、あなたは一体?」
「儂は儂の好奇心の赴くまま、探求心を満たせられればそれで良いのじゃよ、大人しく儂の言う事に従ってもらおうか?」
こちらに銃口を向けたまま後ずさりし艦橋を出て行くダビデ。
外側から扉のロックをし、先ほどの爆弾を取り付けた。
「下手に扉を開けようとすると爆弾が作動仕組みなので命が惜しのならそこでじっとしておくことじゃ……それと艦橋から艦をコントロールしようとしても無駄じゃぞ、艦の制御は全て儂が掌握しているのでな」
「博士!!」
ハイデルが呼び掛けるもダビデは既にその場を離れ、その足でエンジン区画へと向かった。
「準備は出来ておるかな?」
近くに居た工作員に声を掛ける。
「はい、博士の指示通りに……しかし良いのですか? ぶっつけ本番で」
元から備わっているエンジンに明らかに後付けしたと思われるユニットがいくつか確認できる。
これがダビデの言う相転移エンジンなのだろう。
「艦長の許可は取ってある、それに儂の理論は完璧じゃ、安心して作動させるが良い」
「分かりました、おい、始めてくれ!!」
「はい!!」
コントロール装置に居る別の工作員に声を掛け動力が作動した。
直後、艦首前方の宇宙空間に裂け目が出来、極彩色の渦を巻き始める。
「何ですかあれは……」
「成功じゃな、さあ艦をその中へ」
「本当に大丈夫なんですか?」
「心配するな、大丈夫じゃよ」
よっくりと巡洋艦チェイサーが渦の中に入っていく。
入った途端、視界に入る星の見え方が明らかに変わった。
移動した証拠だ。
「凄い、一気に百分の一後年先に進みました!!」
艦の現在地を観測する装置を見て工作員が歓声を上げる。
「そうじゃ、こうやって空間を押し退け入れ替え先に進む……儂の理論に間違いはない!!」
数度相転移を繰り返し、巡洋艦チェイサーは数十分で惑星ガイアの軌道上まで移動したのである。
「奴らの進んだ方向からこのガイアに来るのは確実……あとはシュテルの奴が後ろから追い込めば挟撃が完成する……見ておれダンテよ、科学者として儂の方が上だと証明してやる」
鋭い眼光で宇宙空間を睨みつけるダビデ。
そしてエンジンルームの窓越しから格納庫にある一機の漆黒の人型機動兵器に目を移す。
「そろそろお前さんにも働いてもらおうかの、バイパー」
『待たせ過ぎだ、こちとら早く暴れたくてウズウズしてるぜ』
バイパーと呼ばれた機動兵器のAIがダビデ博士の端末に反応を返してきた。
「まあそう急くな、もう少ししたら好きなだけ遊ばせてやるからな」
悪辣な笑みを浮かべるダビデ。
果たして彼とダンテ博士との関係は?
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