第25話 お見舞いへ行こう
モニカの面会謝絶が解け、ミズキ、フェイ、グランツ、ソーンの一基と三人は艦内の入院区画へと訪れていた。
「モニカと会うのは久振りねーーー、どうしているかしら」
フェイはミズキの身体を抱きかかえながら明るい表情を見せる。
「ミズキもモニカとはまだ会ってないんだったわよね?」
『うん、術後にナノマシンの活動状況を確認してからは会うのは初めてだよ
ダンテさんからはちょくちょく経過は聞いていたけどね』
「しっかしよ~~~まさかミズキが医者もびっくりの最新医療技術を持っていたとはなぁ、驚きだぜ」
グランツは頭の後ろで両手を組んで歩いている。
『あれは医療行為とは呼べないよ、しいて言うならサイボーグ改造手術みたいなものかな』
「おっ、おう……」
ミズキの例えがあまりに不適切なのでグランツは押し黙ってしまう。
「……その言い方はまるで悪の秘密結社みたい」
『そうかな?』
ソーンも皮肉を込めて言ったのだがミズキには伝わっていない様だ。
「さあ着いたわよ」
程なくモニカのいる医療区画の扉の前まで来た。
その扉は大袈裟なほど重厚で、厳重に廊下とその先の施設を隔てている。
これはもし乗艦しているクルーに病原菌の感染者が出た時の隔離と遮断をより完全に行うための隔壁であった。
「済みません、モニカ=フランディールの面会を申請していた者ですが」
『はい、連絡は受けています、扉を開けますのでお入りください、中に入ったら速やかに扉を閉めてください』
扉から音がしロックが外れる、扉をスライドさせ中に入ると、狭い部屋になっており又すぐに扉があった。
「何だこの部屋は?」
扉を閉めながら訝しがるグランツ。
『感染症予防の為に皆さんを消毒させて頂きます、目を閉じてください』
そう先ほどの人物の声がすると室内に霧が立ち込めた。
「うわっぷっ!! 何これ!?」
『消毒用のアルコールミストです、吸い込んでも特に害は無いのでご安心を』
「ちょっと!! いきなりすぎるのよ!!」
フェイは声の主に怒りをぶちまける。
そうこうしている内にアルコールの霧は晴れ、奥の扉が開く。
『お疲れさまでした、お通りください』
「あーーーっ!! 隊長!!」
何と、奥の扉の奥には壁から生えた受話器を持ったレントールがいるではないか。
「……もしかして今までの声は」
「そう、私でした……ってあれ? 皆さんどうしたんです?」
ソーンをはじめ皆がしかめっ面でレントールを凝視する。
「おかしいな、ウケると思ったんですけどね」
『なにキャラクターに無いことやってるんですか隊長』
「いやぁ、場の空気を和ませようと思ってね」
『それ、完全に逆効果ですよ』
「しょんぼり」
ミズキの辛辣なツッコミに激しく落ち込むレントール。
「モニカの部屋はここでいいんですね隊長」
「ああ、間違いないよ」
「モニカーーー、入るわよーーー!!」
「どうぞ」
扉の向こうから声がする、モニカの声だ。
フェイが扉を開けると、ベッドの上で上体を起こしているモニカがいた。
「久しぶりーーー!! 元気してたーーー!?」
「うん、お陰様でね」
モニカは以前と何ら変わらないように見える。
但し大きく違うところが一つだけあった、それは首の周りだ。
首回りは縦幅のある首枷をしているように見えるがそれはナノマシンが皮膚に成り代わっている部分であり、延髄の辺りには電子機器などのコネクタを刺し込めそうな接続端子があるのだった。
「まあ、痛々しいわね……大丈夫なのそれ?」
「うん、特に痛いって訳じゃないし、これは私に何かあった時にミズキがまた私の脳にアクセスするためのものなんだって、ねぇミズキ」
『そうだよ、君に断りも無く勝手にそんな端子を付けてしまったのは悪いと思っている……でも今後の事も考えてそうさせて貰ったんだ』
「いいのよ、そうでなければ私は寝たきりか、今頃お亡くなりになっていたかもしれないんだもの」
モニカは精一杯ほほ笑むがどこか悲しそうだった。
それはそうだろう、モニカとてまだ16歳のうら若き乙女である。
それが気が付いたら身体をいじられ、美しいはずの首筋が醜く変貌してしまったのだから。
『いつか必ず君のその首を完全に戻せる方法を探し出すよ、僕が責任を持ってね』
「ミズキ……ありがとう……」
モニカはミズキの身体を抱きしめはらはらと涙を流す。
それを見ていたフェイやソーンももらい泣きをしてしまった。
「うおおおん!! ミズキ!! お前った奴は、何ていい奴なんだ……!!」
なんと、大声で泣き喚いたのはグランツであった。
「ちょっとグランツ、ここは病室よ? 静かにして」
「うう、うるせえ!! 仕方ねぇだろうが!!」
(いい奴か、僕はそんなものじゃないよ……モニカがこうなってしまったのは、もとはと言えば僕が原因のようなものだし)
ミズキは今でも悔やんでいた、あの時激情に任せて能力を限界まで使わなければミズキの電源がシャットアウトする事は無かったし、それによってモニカが捕虜になって自白剤を打たれる事も無かったのだ。
次こそはモニカを守り切って見せる……そう心に誓うのだった。
「ねぇ、ところで今は一体どういう状況なの? 教えてくれないかしら?」
『そうだね……』
ミズキはモニカと自分がエデン3を離れた後の事を、収集した情報を元に全てモニカに聞かせた。
「そう、エデン3にはもう戻れないのね……」
『そうだね、僕らはもうハイペリオンの構成員扱いだから行動もある程度制限が掛かるだろうね』
「ううん、それは別にいいのよ、私は孤児だし別に家族が居るわけじゃないから」
ミズキはここ数日モニカの事も調査していた。
モニカは戦災孤児で、十歳の時に両親と死に別れスペシオンのパイロット養成所に引き取られ、長きに亘って戦闘訓練を受けて来たのだった。
年端も行かぬ少女が軍隊の中に身を置かなければならなくなった心情は計り知れない。
「そう言えばよ、これからの事だが何でこの船は
「それは……」
グランツの思い付き発言に誰も答えられない。
沈黙が病室を支配する。
「何だよ!! じゃあなんでお前らはエリザベスちゃんに質問しなかったんだよ!!」
「そういうあんたも聞かなかったでしょう!?」
「……何となく聞きづらかった、元々のクルーはきっと知っている事だと思うから」
「それは私がお答えしましょう」
「えっ!?」
やいのやいの騒いでいると、そこへエリザベスがヴァイデスを連れだった現れた。
「よう嬢ちゃん、じゃなかったモニカ、加減はどうだ?」
「ヴァイデスさん、お陰で何とか生きていますよ、その節は本当にありがとうございました」
モニカは深々と頭を下げる。
「おっと、よしてくれよ、当たり前の事をしたまでだからな」
「オッサン、カッコいいな」
「誰がオッサンかね?」
「いいえ……何でもありません……」
ヴァイデスの鋭い睨みに圧されグランツは前言を撤回する。
「オホン、いい? ガイアにはね、ハイペリオンの創始者の直系の血筋、現当主のハイデガー様がいらっしゃるのよ」
『ハイデガー?』
「そう、ミズキ君、あなたとモニカさんをハイデガー様に合わせるのが私たちの使命なのよ」
『何でまたそんな事に!?』
ミズキは自分の及び知らないところで話しが進んでいることに不安を覚えた。
「ちょっといいかな?」
レントールが後ろから現れた。
「あらダーリン、いたのね」
「だーりんだぁ!?」
エリザベスのその発言をヴァイデスは聞き逃さなかった。
「これはお義父さん、挨拶が遅れました、私はレントール……娘さんのエリザベスさんとお付き合いさせてもらっています」
「はぁ!? そんな話聞いていないぞ!!」
「家を出た後にダーリンと知り合ってね、ダーリンの語る人類進化の理想に感銘を受けて私もハイペリオンに入ったのよ……って今はそんな話している場合じゃないでしょう!!」
エリザベスはヴァイデスの身体を押し、病室から追い出す。
「後で必ず話しを聞くからな!!」
顔を真っ赤にしたヴァイデスはそう言い残し去っていった。
「はいはい、で、どこまで話したっけ?」
「続きは私から……ミズキ君、君に我々ハイペリオンが人類の進化を模索しているのは話したことはあったかな?」
「直接は無いですね、でもその情報は把握済みです」
「それなら話は早い、私は人類の進化の可能性の一つを君とモニカに見出したんだ……そこで君たちの事をハイデガー様に報告したところ是非直接会いたいという事になってね、それで今からあのお方の所へ出向くという事さ」
レントールの説明は実に分かり安かった、しかしミズキは納得がいかない。
「レント隊長、出来れば僕らには前もって許可を取ってもらいたかったですね」
「どうしてだい? 君らはもうハイペリオンの構成員だって自分で認めていたじゃないか……組織のトップであるあのお方がいちいち許可を取る必要があるかい?」
ちゃっかり先ほどの病室の会話を聞いていたらしい。
(この人は……前から思っていたけどどこか腹黒い所があるんだよね……)
ミズキは内心そう思う、ある意味一番敵に回したくない人物だと再認識する。
「じゃあそう言う事で納得して頂けたかな?」
『分かりました』
「では私はこれで」
レントールは背中で手を振り病室を後にした。
直後、遠くで怒声が鳴り響いていたが今はどうでもいい。
「それじゃあまたねモニカ、お大事に」
「今日はありがとうね、みんな」
それから数分後、面会時間が終わりフェイたちは帰っていった。
「あら? ミズキは帰らないの?」
『ああ、ちょっと君に確認したいことがあってね……なあモニカ、ミサキシオリって名前に聞き覚えはあるかい?』
「ミサキ? 誰それ?」
『じゃあキッカワモニカは?』
「えっ? モニカって私と同じ名前? でも聞いた事は無いかな……」
(嘘を言っているようには見えない……どういう事だ?)
実は病室ではじめてミニカにあった時からミズキはある違和感を感じていたのだ。
ミズキがモニカの脳内、精神世界であったモニカは前世の記憶を持った謂わば前世のモニカだった。
ミズキがモニカの脳に刺激を与えたことで蘇った人格だが、そのミズキを自らの思い人であるところの美咲栞の仇と捉える過激な性格をしていた。
しかし今はどうだ、今の彼女は以前のままの性格をしている。
もしかして皆が居るから猫を被っていた?
それともミズキのナノマシン手術によって前世の人格は消え失せてしまったのだろうか?
(確かめる方法はある……)
「モニカ、ちょっとゴメン」
「えっ? きゃっ!!」
ミズキはケーブルの手を伸ばしモニカの首の裏にある接続端子に差し込んだ。
次の瞬間、例のオープンカフェのテーブルの前に立っていた。
依然と同じく七瀬瑞基の姿で。
「あら、また来たの……私は君の顔なんてあまり見たくは無いのだけれど……」
「やっぱり居た」
椅子に足を組んで腰掛け、タピオカミルクティーを飲んでいる吉川モニカがそこに居た。
「何よ? ここは私の脳内よ、私が居たらおかしいかしら?」
「いいや、そして確信したよ、どうやら内なる君と外の君は別人格として互いに存在している様だね」
「その様ね、私も外の人格に働きかけようとしたんだけれど、私がこの路地から出る事は出来ないみたいだわ」
「そうだろうね、君は前世の謂わば亡霊だ、今を生きるモニカに関わってはいけないよ」
「何よそれ!! じゃあ何であんたは、あんただけは前世の記憶を持って今を生きていられるのよ!!」
「まあ怒るなよ、そんな事は俺にも分からない神様にでも聞いてくれ、そう言えば僕らを転生させたのは女神さまだったっけ」
「まったく、これじゃあ金魚鉢の中の金魚と変わらないわ、外の景色は見えているのに手が出せないなんて、折角色々試してみようと思ったのに……」
「それはよしてくれ、みんなが驚く」
「はぁーーー、何だかなぁ……」
モニカは大きなため息を吐いた。
「そう落ち込むなよ、君の知識を借りなきゃいけない事がこれからもあるかもしれない……その時はまたこうして会いに来るよ」
「仕方ないわね、ちょっとくらいなら話をしてあげるわ、でも勘違いしないでよね!! 渋々付き合ってあげてるんだから!! 私が寂しいからじゃないんだからね!?」
「はいはい、分かってますよ」
なるほど、これが俗に言う『ツンデレ』と言うヤツなんだなとミズキは確信した。
その後、ケーブルを引き抜いても表面に吉川モニカが現れる事はやはりなかったのである。
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