第27話 復讐の毒蛇
「どう? 航海は順調?」
艦橋に戻ってきたエリザベスが操舵担当の青年に問いかける。
「はい、予定通り確保した航路を進行中……いt時間後には大気圏に突入し惑星ガイアの地表へと降下を開始します」
「そう、宜しくね」
エリザベスは操舵士に投げキッスをすると自分の座席に着く。
青年の頬は微かな薄紅色に染まっていた。
「はしたないな、お前は仮にもこの艦の艦長なのだろうに」
ヴァイデスが厳つい顔を更にしかめる。
「船長よ、せ・ん・ちょ・う」
「またお前は妙な拘りを……」
肩をすくめヴァイデスはあきれ顔だ。
「船長」
「どうしたの?」
「予定航路に未確認の艦影あり」
索敵担当の若い女性が何かの異変に気が付く。
「ちょっと見せて頂戴」
「はい」
女性は艦橋前方の巨大モニターにコンソールの映像を転送する。
「ちょっとこれ、この間のスペシオンの巡洋艦じゃない!!」
エリザベスは予想外の事態に声を荒げた。
「どうして今まで気が付かなかったの!? この距離ならもっと前に捕捉できていたはずでしょう!?」
「それが、まるで突然そこに現れたのかの様なんです」
「そんな馬鹿なことって……」
「ありえん話ではないぞ、船長」
「ダンテ!?」
ダンテがいつになく真剣な表情で話しかけて来た。
「儂が良く知る科学者の一人に相転移航行を研究していた者がいた……もしそれが実用化出来ていたのだとしたらこのような事も起こり得る」
「相転移航行? 何なのよそれ?」
「進行方向の空間と自分のいる空間を超高速で入れ替えて短期間で目的地へ進むという夢の様な理論じゃな……言うなれば昔提唱されたワープ航法に近い
じゃがあれは今の人類の科学力では実現不可能な技術、その代案として研究されたのが相転移航法じゃ……これも確かに革新的じゃが大変なリスクが伴う、儂に言わせれば危険と背中合わせの無謀な博打と変わらんよ」
「この艦がその相転移航法を使ったっていうの?」
「かなりの高確率でな……ジャミングならそれはそれでレーダーに感知されない空間が出来るので発見できるはずじゃ、そうでなければこのセインツの高性能レーダーがこんな目視できる距離まで相手を発見できない訳がないじゃろう」
「確かにそうね……」
戦艦セインツのレーダーは現時点で最高の性能を誇っていると言っても過言ではない程の代物なのだ。
それを掻い潜るとはもはや未知の技術を使用したと疑う他になかった。
「総員、戦闘準備!! 急いで頂戴!!」
エリザベスは高らかにそう宣言し手を突き出す。
艦内にけたたましい警告音が鳴り響いた。
「えっ!? まさか敵襲!?」
「そんな馬鹿な、裏で手を回した安全な航路だって聞いていたんだがな」
「……そうは言っても事実は事実、行かなきゃ」
レクリエーションルームでポーカーに興じていたフェイ、グランツ、ソーンはすぐに格納庫へ向かっう。
「今の手札は惜しかったなぁ、確実にお前らに勝てたんだがな」
「またまた、そんなこと言っても騙されないわよ?」
「いいさ、一から仕切り直しだ、帰ったらまたやろうぜ!!」
「もちろん、受けて立つわよ!!」
「………」
そんなグランツとフェイのやり取りを聞きながらソーンは思い出す。
部屋を出る時に見てしまったのだが、グランツがテーブルに放り捨てた手札は見事にブタであったのだ。
「警報!? あたしもいかなきゃ……」
病室のベッドから立ち上がろうとするモニカであったが、身体が思ったように動かない。
『無茶だモニカ、リハビリが始まったばかりの君じゃあ戦闘に出るのはまだ無理だ』
傍らにいたミズキがモニカを制止する。
「悔しいな、こんな時にみんなと一緒に闘えないなんて」
ミズキがケーブルを器用に使ってモニカに布団を掛けた。
モニカの目じりには薄っすらと涙がにじんでいる。
『大丈夫、みんなを信じよう……レヴォリューダーを少しばかり調整したんだ、かなり優位に戦えると思うよ』
「そう……」
興味ないといった風にモニカは寝返りを打ちミズキに背を向けてしまった。
自分が何の役にも立てないお荷物と認識してしまったのだろう。
『僕はいつも君の側にいるよ、君の出番と活躍の場が必ずやって来る……その時までね』
「………」
ミズキの言葉にモニカは返事をしなかった。
この時彼女は何を思っていたのだろうか、恐らく首の接続端子に繋がれば分かったかもしれないが、ミズキは敢えてそうしなかった。
ずけずけと無遠慮に他人の思考を覗き込むべきではないとそう思ったからだ。
一方、巡洋艦チェイサー。
「さてと、どうかなヴァイパー君、その身体になってからの君には初陣になる訳じゃが」
ダビデは腕の通信端末に話しかける。
相手はバイパーと呼ばれる無人の人型機動兵器のコックピット内だ。
『悪くないぜ、こうして再び戦場に返って来られるなんてな、否が応にも気分が高揚するぜ』
「フフッ、まるで人間の様じゃな」
『うるせぇ!! 俺は人間だ!! 今度俺をAI扱いしやがったら承知しねぇぞ!!』
「分かった分かった、済まんかったの」
『フン……』
バイパーは同名の機動兵器に搭載された超AIである。
その開発と完成に至る経緯は実に曰く付きだ。
高速巡洋艦チェイサーは反乱の起きたエデン3に向かう途中、二つのある拾い物をした。
一つ目は緊急脱出ポッド……これには半分精神崩壊を起こしかけたファウザーが乗っていたので保護した。
そしてもう一つ……原形すら留めていない人型機動兵器の残骸だ。
恐らく脱出ポッドも兼ねたコックピット部分と思われる物体の中には瀕死の人物がいた……その人物こそが先の戦いでミズキとモニカと死闘を演じた挙句、仲間のケイオスに報復されたギル大尉その人であったのだ。
身体の九割以上が重度の火傷を負い既に手遅れの状態であり、救助後すぐに死亡が確認されたが、脳の組織は健在であったのだ。
その為ダビデ博士が兼ねてより研究をしていたAIの開発に利用できないか実験を重ねたのだが上手く活用することが出来ないでいた。
そこで別目的で研究をし、最終段階まで出来上がっていたオペレーションシステム【SIORI】と接続、データを共有させると途端に起動し、まるで人間化の様に喋り、試行するようになったのであった。
(科学者である儂が言ってはいけないのかもしれんがバイパーが完成したのは言わば奇跡じゃ……じゃが惜しむらくは元の人間の粗野で乱暴な性格がそのまま移ってしまったのはいかがなものか……まあそれは後々対処するとしよう)
「あと一時間もせぬうちに敵と遭遇するじゃろう、それまで待機じゃ」
『俺に戦闘に関しての命令をするんじゃねぇ、戦いだけは俺の好きにさせてもらうぜ』
「何じゃと!? 馬鹿者!! バイパー戻れ!! 戻らぬか!!」
そう言い捨てバイパーは持ち場を離れ飛び去っていく。
勿論通信は切断されている。
「くそっ!!」
ダビデはコンソールを思いきり叩く。
「実用を急ぎ過ぎたか……」
後悔してももう遅い、既にバイパーは糸の切れた凧の様に何処へと姿を消した。
三十分後、戦艦セインツ。
「船長!! こちらへ高速で向かって来る物体あり!! 人型機動兵器です!!」
「モニターに出して……見ない型ね、新型かしら?」
モニターに映し出された漆黒の機体は人型機動兵器マニアのエリザベスですら知らない機体だったのだ。
『へぇ、これがジジイの言ってたスペシオンの戦艦か、何で味方同士で争ってるのかは知らねぇがウォーミングアップには丁度いい、少し遊んでみるか』
バイパーは胸や背中など至る所に設置してあるハッチを数ヶ所開き、その中から鋭い三角錐型の刃のような物体を複数放出した。
そして自分の機体の周りに配置する。
『行けスネークトゥース!! あいつを貫け!!』
バイパーの命令を合図にスネークトゥースと呼ばれた三角錐は縦横無尽に飛び回りセインツへと向かっていく。
「船長!! 敵人型機動兵器から複数の飛翔体が射出、こちらへ向かってきます!!」
「何ですって!? 防御シールド展開!! 急いで!!」
「はい!!」
『
セインツが艦の装甲を覆うエネルギーシールドを展開する前にスネークトゥースはセインツのエンジンルームのある区画に突き刺さる。
一瞬の間を置き中から爆発が起きた。
「
「消火活動を急いで!!」
「はい!!」
他にもスネークトゥースは船体の数ヶ所に突き刺さり、貫通して通り過ぎた物と突き刺さったまま残る物があった。
『お楽しみはこれからだぜ!!』
突き刺さったままのスネークトゥースの先端が開き、中から紫色の年度の高い液体が艦内に流れ込んだ。
「何だこれは? うっ……」
紫色の液体から同色の機体が発生し辺りに充満すると、それを吸い込んだ船員がバタバタと倒れていくではないか。
「艦橋……聞こえますか? 艦内の正体不明の機体が発生……恐らく……毒ガス……」
「何が起こっているというの……?」
「エリザベス!? おいエリザベス!!」
傍らにいたヴァイデスの声にも反応せずエリザベスは茫然と立ち尽くす。
パァン……!!
艦橋内に高く乾いた音が鳴り響く、ヴァイデスがエリザベスの頬を張ったのだ。
「あっ……ぱぱ?」
「しっかりしろ!! この船はお前が艦長なんだぞ!! クルーの命はお前の手に中にあると言っても過言ではない!! 的確な指示を出せ!!」
「ごめんなさい……艦内に毒ガスが発生している模様、クルーは安全な場所へ退避、隔壁を閉鎖します」
「はい、隔壁閉鎖、隔壁閉鎖、総員安全区画まで退避せよ」
オペレーターが艦内に指示を伝える。
「それでいい、艦長たるもの常に冷静であれ」
「うん、ありがとうねパパ」
エリザベスはこれ以上ない程の照れ顔で俯いた。
「よーーーし!! 気を取り直して反撃よ!! レヴォリューダー隊、出撃!!」
「待ってたぜ!! 行くぞ!!」
グランツがやる気満々でいきり立つ。
そして我先にと開いたハッチからグランツ機が飛び立った。
「ちょっと!! 一人で先行かないでよ!?」
「……やれやれ」
慌ててフェイとソーンが続く。
『いいですか皆さん相手はデータに無い新型です、十分に注意を……特にグランツ』
「分かってますよ隊長!! そうそう同じ失敗はしねぇ!!」
レントの嫌味に悪態をつきながらグランツ達ガンマ小隊のレヴォリューダー三機はバイパーの待つ宙域目指して飛び立つのだった。
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