第18話 追手
「………」
強襲戦艦セインツ内の休憩室でグランツ、ソーン、フェイが無言で寝転がっている。
「おやおや、まさかこの程度のシミュレーションでのびてしまったのですか? あれは初歩の初歩のレベルのものですよ?」
レントはやれやれと言った表情で首を振る。
「そうは言うけどなぁ、あの機体、俺たちが今まで乗っていたアヴァンガードタイプと違ってピーキー過ぎるんだよ……」
「……もう少し完熟訓練しないと死にに行くようなもの」
「大丈夫よ、少しづつだけど機体の特性は分かりかけて来たから」
三者三様の感想。
「さっきも言いましたけどそんなに時間は無いんですよ、次の訓練辺りでモノにしてもらわなければね」
「レント隊長、時間が無いのは分かるんですが何故そこまで焦るのですか?」
フェイはレントに落ち着きがない様に思えた。
ガンマ小隊時代はいつも冷静で余裕がある隊長であったから尚の事だ。
「私たちは連れ去られたモニカを救出するためにリガイアの戦艦を追跡していますが、それとは逆にスペシオンからは追われる立場なんですよ……どちらかというと私たちはリガイア軍よりスペシオン軍と遭遇する確率の方が高いのです、しかもそう時間を置かずにね」
「あっ……」
フェイは思い当たる、自分がハイペリオンと同行するのを渋ったせいで決断するために二時間時間を貰ったことを。
恐らくその分の時間の遅延によりスペシオンからの追手の到達が早まったのだろう。
「私、すぐに訓練に戻るわ、一刻も早くあの機体を使い熟さなくちゃ」
スポーツドリンクの入ったボトルから延びるストローから中身を勢いよく吸い込み、フェイは立ち上がり部屋を出て行く。
「おいマジか……ったく仕方ねぇなぁ」
「………」
渋々グランツとソーンも後を追う。
と、その時、艦内にけたたましい警告音が鳴り響く。
『敵襲よ!! スペシオンの人型機動兵器が三機こちらへ向かっているわ、あれは新型ね、パイロットは至急迎撃に出て頂戴!!』
スピーカーから聞こえるのは艦長もとい船長のエリザベスの声だ。
「何だって!?」
「最悪のタイミング……」
「言ってる場合じゃないでしょう!? 格納所へ行くわよ!!」
「仕方がありません、今回ばかりは私も出ましょう、あなた方にいま死なれたのでは計画が狂ってしまいますからね」
レントールがぽろっと本音を漏らしてしまった事に対して誰もその事に突っ込みを入れる余裕が無い。
四人はパイロットスーツの上着を歩きながら着込み格納庫へ向かうのであった。
「よっしゃ!! 準備完了!! 船長、敵の情報をくれ!!」
『分かったわ、映像を送ります
機体名は【ルーカス】、より対人型機動兵器を想定して設計された重量級機体よ、重機動人型兵器とでも呼ぶべきかしらね
大型化に伴い高出力のジェネレーターを二基搭載してるんだけど機体重量のせいで150パーセント増しに留まっているのよね……でね』
「あのさ、その話し長くなる?」
グランツはエリザベスの言葉を遮る……このまましゃべらせていたらいつまでも続きそうな気がしたからだ。
どうやら知っている情報をしゃべりたがるオタク気質が彼女にはあるのだろう。
しかしなぜエリザベスはそこまで敵の機体に詳しいのだろうか。
気にはなるがグランツは敢えて聞き返さなかった。
ブリッジからのデータの供給でグランツ機のモニターに今まさにこちらへ向かって来る敵影が映し出される。
確かにアヴァンガードタイプと比較すると機体が一回り大きい、そのうえ肩や腰には装甲が増強され大型で重厚なシールドも携行していた。
いかにも重量級といった佇まいだ。
「では行きますよ、私に付いてきてください」
レントールの乗るアヴァンガード・コマンダーが先行してハッチの前に移動する。
「えっ……レント隊長はコマンダーで出るの?」
「おやソーン、今こんな時代遅れな機体でって思いましたか?」
「……いえ……はい」
ソーンは図星を突かれた。
レボリューダーの性能を知ってしまったからにはアヴァンガードタイプはソーンにとっては過去の機体という認識に置き換わっていたからだ。
「性能面からはそうでしょう、しかし道具は使いようなんですよ、まあ私の乗れる機体がこれしかなかったというのが正しいのですがね」
レントールはそう言って開いたハッチから宇宙空間へと飛び立つ。
「よし!! 俺たちも行くぞ!!」
「オッケー!!」
「……うん」
続いてレヴォリューダー三機が追随する。
『敵の有効射程範囲に入ったわ、気を付けて!!』
「おうよ!! 船長!!」
直後、ビーム弾がグランツの横を通り過ぎる。
AIのナナが既に回避行動に出ていて難なく避けた。
『反応が遅いわよグランツ、まあ私が付いているから大丈夫だけど』
「うるせぇ、言ってろ」
相変わらずの口調で言い返すグランツだがいつもよりは語気がない。
ナナの事を少しは認めている証拠だ。
敵重機動人型兵器ルーカスが視認できるほど接近してきている。
「ここからは俺の間合いだぜ!!」
グランツは推進器付きハンマー、グレートクラッシャーをルーカス目掛け振り抜く。
対するルーカスも腰部背面に装備していたハンドアックスを手に持ちそれを受け止める。
「何!? これを片手で……」
だがロケット推進のある分グランツ側がジワジワと押してはいる、しかし武器を弾き飛ばすまでは行かない。
「へぇ、重機動兵器って謳い文句もあながちハッタリじゃなかったんだな」
これ以上の力比べは無意味だ、一旦距離を取る事にする。
「ならこれでどう!?」
今度はフェイがミサイルコンテナを開き追尾機能を持ったミサイルを一斉掃射した。
それに対応する様に三機のルーカスは一様にシールドを正面に構える。
するとシール下部が開きボール状の物体が射出された。
「何なのアレ……?」
『気を付けろフェイ、あの球から急激な温度上昇を感じる』
ティエンレンが言うか言わないかのタイミングでそのボールが一斉に炸裂する。
その熱に引き寄せられミサイルは全て自ら火に入る虫の様に爆発に巻き込まれてしまった。
『駄目だ、熱感知自動追尾ミサイルでは奴らに攻撃を中てられない』
「えーーーっ!? それじゃあどうすんのよお兄ちゃん!!」
『狙いを定めて直に狙うしかない』
「むーーー」
面白くないという顔をして口を尖らすフェイ。
「皆さん落ち着いてください、バラバラに戦っては勝てるものも勝てませんよ、まず陣形を立て直しましょう」
華々しいデビューを飾るはずのレヴォリューダーの初戦は怪しい雲行きで進行するのであった。
一方、ドッグケージを離脱したヴァイデスとモニカの乗るグリズリーも窮地に立たされていた。
一旦動力を落とし、宇宙空間を漂う戦艦の残骸の中に身を潜めている。
(これは参ったな、まさかシュテルの奴、あの二人を連れて来ていたとは……)
グリズリーの装備、小型の無人偵察機を数機放って周囲を警戒していたがヴァイデスが見知った人型機動兵器が二機映し出されていた。
当然シュテルがモニカ奪還の為に放った追手だ。
一方は大型のビームキャノンを両肩に一門づつと右手にロングバレルのビームガンを装備、片やもう一方は背中と腰に一見では数が分からない程の剣を複数装備した機体が隠れ蓑にしている残骸のすぐそばを通り過ぎた。
(このまま気付かずに行ってくれるといいんだが……)
だがヴァイデスの目論見に反しその二機は近くの宙域を何度も往復している。
それだけモニカとミズキのAIボックスが彼らにとって重要という事である。
「ねえねえイル、アタイ、探すの面倒になっちゃった……この辺のデブリをみんなぶっ飛ばしちゃおうよ!!」
大砲の機体のパイロットの少女が無邪気は破壊衝動をもう一機のパイロットに伝える。
「ダーーーメ、それじゃあ探し物も一緒に吹き飛ばしちゃうでしょう? 我慢なさいアル」
剣の機体のパイロット、イルと呼ばれた少女がアルと言う少女を諫める。
二人の少女パイロットは顔が瓜二つだった。
それもそのはず、二人は双子で人型機動兵器のパイロットになるためだけに受精卵の時から遺伝子に手を加えられて生まれたデザインチルドレンと呼ばれる人工の存在である。
「ちょっとだけいいじゃん!! あっ、もう撃っちゃった!!」
アルが手近なデブリに向け大口径ビームガンを一発放つ。
極太のビームはそのデブリを容易く貫通しどこまでも突き進む。
不幸にもその延長線上にあったヴァイデス達が隠れていた戦艦にも中ってしまう。
「くそっ……何て感をしているんだ」
隠れる物を失ったヴァイデスは仕方なくその場を離れるしかなくなった。
「手配のあったグリズリータイプを発見、確保に当たります」
「ほら!! やっぱり隠れてた!! アタイ偉い!?」
「はいはい、後で頭を撫でてあげるわ」
「やったーーー!!」
はしゃぐアルを窘めるイル。
どうやら暴走するアルに対してそれを制御するイルと言った関係の様だ。
「行っくよーーー!!」
アルの機体、【ドゥーム】が全身のキャノンを一斉に発射する。
その内の一本がグリズリーの背面の装甲に僅かに掠った。
「ぐううっ……!!」
衝撃に耐えるヴァイデス。
別のシートにベルトで固定されているモニカも身体を激しく揺らすが意識は失われたままだ。
大型の機体であるグリズリーでは高速で放たれる幾条ものビームを避け切るのはどだい無理な話であった。
「アル、コックピットは狙っちゃダメよ、手足をもいで行動不能にしなきゃ」
「分かってるってイル」
今度はイルの機体、【フォーチュン】が急加速、グリズリーに迫った。
背中でクロスしている大剣を両の腕で引き抜くと二刀流で切り掛かる。
その剣撃はグリズリーの左腕の中ほどまで切り進んだが分厚い装甲に阻まれ切断するまでには至らない。
「やられっぱなしは性に合わないんでね!!」
すかさずヴァイデスは機体を操りフォーチュンに蹴りを食らわすが、イルが咄嗟に剣を引き抜き交差させた大剣に受けられただ押し返すに留まってしまう。
「あら、少しはやるのね」
「キャハハ!! 久し振りに楽しめそうねーーー!!」
まるで鬼ごっこを愉しむようにヴァイデスを追い詰めるイルとアル。
まさに絶体絶命の危機に陥ってしまった。
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