第12話 死闘の末


「大丈夫ですか、フェイ?」


「はい、何とか……」


 レントのコマンダーがフェイのファランクスに接近する。

 

『何とかじゃないだろうフェイ、こんな血が出ているのに……おい人間、レントと言ったか、こちらは先の戦闘で動力制御系の回路が一部飛んでしまった、推進装置が作動しないから自力ではコロニーに戻れない……手を貸せ』


「そうでしたか、でもいいんですかティエンレン、あなたの大嫌いな人間の手を借りても?」


『致し方無いだろう、フェイの命には代えられない』


 先ほどコロニー内で反乱めいた事をした手前、ティエンレンはバツが悪そうにそう言った。


「分かりました、では行きましょうか」


 コマンダーはファランクスの脇に腕を通しゆっくり進み始めた。


「隊長、モニカ達は大丈夫でしょうか? 何なら私は後回しでもいいですよ?」


「まだ二人とも無事の様です、あなたを送り届けたら私が救援に向かいます、見ての通り私も丸腰なんでね、補給が必要なのですよ」


 コマンダーの武装は唯一の近接武器ナイフはシャドーに突き立てたまま爆発してしまい、ビームピストルも残存エネルギーではあと五発も撃てるかどうかだった。


「だからあなたは怪我人らしく私に運ばれてください」


「……分かりました」


 二機はエデン3に向かい飛び去って行った。




 同時刻、もう一方の宙域。


「ギャハハハハッ!!」


 猛スピードで突っ込んでくるバーバリアンに向かい、スマッシャーが大剣を振り下ろす。


 ガキイイイン!!


「うおっ!!」


 甲高い衝突音を立ていとも容易く弾き飛ばされるスマッシャー。

 錐揉みをしながら吹き飛んだが、機体の各所に備わっている姿勢制御用の推進装置を噴射し体勢を立て直す。


「くそっ、この野郎!!」


 グラントは苛ついていた。

 モニカに対し自ら引き受けると豪語したバーバリアンに未だに有効打を一発も中てられずにいたのだ。


「ギャハハハハッ!! 誰も俺の突進を止められねぇ!!」


 ゲイルの相変わらずの緩い口元からは大量の唾液が流れ出る。

 眼球も血走り極度の興奮状態だ。

 ドリルの様に高速回転をして突き進むバーバリアンには生半可な打撃では全て弾き飛ばされてしまう。

 かと言ってビーム兵器の類は奴が纏う電磁フィールドに全て無効にされてしまうのだ。


「まずいな、このままでは腕がもたん……」


 これまで何度も大剣の攻撃を弾かれ続けたことによりグランツの機体スマッシャーの腕部はダメージが蓄積しており肩、肘、手首の関節機構から火花が散っていた。

 しかしこちらの都合などお構いなしにバーバリアンは旋回し、もう幾度目かも分からない突進を仕掛けて来た。


「ギャハハハハッ!! もうお前と遊ぶのは飽きたな!! これで死ねぇ!!」


「……こりゃあ年貢の納め時かもしれねぇな」


 いつもの彼らしからぬ弱気を伺わせる発言をしたその時……。


『なあに? この程度で諦めるっていうの? あんたらしくも無い……』


「はぁ!? 誰だ!? ふざけたことを抜かす奴は!?」


『私よ私、気づかないの?』


 コンソールからは女の声がする……モニカではない、かといってフェイでもない。


「まさか、モニカ達の機体と同じ……」


『そうよ、私はAI……名前は……』


「名前なんてどうでもいい!! この状況をひっくり返せるなら誰でもいい、力を貸せ!!」


『もう、分かったわよ、話しは後でゆっくりしましょう』


「フン……」


 AIは半ば呆れた声でグランツの提案を飲むことにした。


『これまでの様にただ闇雲に大剣を腕力だけで叩きつけるだけでは駄目よ、もっと力を加えなくては』


「じゃあどうすればいいんだよ」


『ちょっと機体の制御を貰うわね』


「どうするんだ?」


 どんどんこちらへ近付いて来るバーバリアンに対してAIは大剣を機体の前方、中心で縦に構える、そして肩の背後と爪先にある推進装置を噴射し縦の回転を始めた。


「おいお前!! 何をする気だ!?」


 回転は速度を増しまるで電動の丸鋸の様だ。


『吐きそうになったらこれを使って頂戴』


 コンソール脇のロッカーが開きエチケット袋が飛び出す。


「ふざけんな!!」


 そんなやり取りをしているうちにバーバリンは既に直前まで迫っていた。


「何のつもりだぁ!? そんなもんで俺をどうこう出来るかよ!!」


 一瞬警戒したゲイルであったがすぐに元に戻る。

 基本的に脳筋で自信家の彼には力で相手をねじ伏せる事しか考えられない。

 やがて両者が衝突する。


「ウオオオオオオッ!!」


「ギャハハハハハッ!!」


 激しいスパークを起こし衝突するスマッシャーとバーバリアン。

 ドリル対バズソー、勝つのは果たして……。


「……ゲヘッ!! 何だぁ!?」


 ゲイルの頭に大剣が突き刺さっていた、スマッシャーの大剣がコックピットのあるバーバリアンの頭部ごとゲイルを叩き切ったのだ。


「グギャアアアアア!!」


 大爆発をするバーバリアン、その爆風をもろに受けスマッシャーも吹き飛ばされる。


「バカヤローーー!! 離脱の事も考えやがれーーー!!」


『ゴメーーーーン!!』


 スマッシャーの機体は腕が引き千切れ全体に大ダメージを受け戦闘不能に陥ったが、奇跡的にコックピットは無傷であった。。




「もう!! また喧嘩してきたの!?」


「うるせえな!! お前に関係ないだろう!!」


「関係なくない!! そんなんじゃ誰もあなたと仲良くしてくれなくなるわよ!?」


 目の上を腫らした少年に対して気の強そうなそばかすの少女が諫める。


「何なんだよ!! 何でそこまで俺に関わろうとする!?」


「無くなったおばさん……あなたのお母さんに私が顔向け出来ないわ!! あんたを見ててって私が頼まれたんだから!!」


「………」


 それまで怒鳴り散らしていた少年が押し黙る。

 一週間前、女手一つで彼を育ててくれた母を病気で亡くしたのだ。

 母の事を話題に出されると何も言えなくなる。


「いいこと!? もう喧嘩しちゃだめだからね!?」


「……分かったよ、なるべくしない様にするよ」


「仕方ないわね、今日の所はそれで許してあげる」


 少女は屈託なく笑った。

 少年も少女の笑顔が好きだった、本人に伝えた事は無かったが。




 数日後。


「○○!! おい!! 返事をしろよ!!」


「あっ……」


 降りしきる雨の中、倉庫街の道端に倒れている少女を抱き起す少年。

 少女は体中に暴行を受けた後があり衣服が破かれていた。


「逃げて……あなたを襲撃するって噂を聞いたから止めに来たんだけど上手くいかなかった……」


「馬鹿やろう!! 何でこんな俺の為にここまでするんだよ!?」


「何でって……そんなの……決まってるじゃない……私はあなたが……」


 そう言いかけて少女の身体から力が抜ける。


「おい……嘘だろ……おい!! おい!!」


 少年が呼び掛けるも少女は二度と返事をする事は無かった。


「ったく馬鹿な女だ……邪魔しなければこうはならなかったのによ」


 いつの間にかガラの悪いゴロツキや不良たちが少年を取り囲むように現れた。


「お前らか……こいつをやったのは……」


 少女を地面にそっと寝かせ少年は徐に立ち上がる。


「ああそうだ、お前が目障りだから潰すって話をしていたらこいつに聞かれちまってよ……止めろってしつこく食い下がって来るからちょっと強めにボコったらこの様よ」


「そうか……じゃあ俺がお前らをあいつの所へ送ってやるからあの世であいつに詫びて来い!! ウオオオオオオッ!!」


 少年は一瞬で今まで会話をしていたリーダー格の少年を殴り倒し、次々と他の少年に襲い掛かった。


「うわああああっ!! 何だこいつは!!」


 狼狽え逃げ惑う不良少年たち、しかし少年の怒りはそう簡単に収まるものではない。

 一晩かけ50人からの不良グループを血の海に沈め、少年は捕まった。




『はっ!?』


 ミズキは我に返る。


「ちょっと!! 戦闘中に急に落ちないでよ!!」


『えっ? 僕、フリーズしていた……?』


「そうよ!! おかげでこのビームの嵐を避けるのが大変だったんだから!!」


 モニカは頬を膨らませる。

 彼らが対峙するはジェイの乗るケルベロス……しかしその機体は三つの頭と両腕、両脚の七か所をケーブルを使って胴体部から伸ばしあらゆる方向からビームを放ってくるよう変形していたのだ。


「どうだ!! 俺のケルベロス・モードメデューサは!!」


 ジェイが誇らしげに名乗る、が当然モニカ達には聞こえていない。


「もう一度喰らえ!!」


 上から下から右から左から前から後ろから、縦横無尽に飛び交う幾条ものビーム。


『こんなもの!!』


 さっきの夢も気になったが今は戦闘中だ、今度はミズキがストライカーの機体を操り、ビームの網をかいくぐっていく。


「何だ!? さっきと動きが違う!?」


 ジェイは驚愕した、先ほどはクリーンヒットこそなかったがいい感じにストライカーを追い詰めていたのに今はどうだ、かなり余裕をもって攻撃を避けられているではないか。


「これがアニキの言っていた……」


『モニカ!!』


「ええ!!」


 全てのビームを避けモードメデューサの懐に飛び込んだストライカーは胴体の中心、コックピットの辺りにミドルソードを突き立てる。


「そっ、そんなーーー!! アニキーーー!!」


 ストライカーが離脱したのち、ケルベロスはジェイの悲鳴と各パーツをまき散らしながら派手に爆散した。


「ふう、何とかなったわね……」


『お疲れ様モニカ』


 戦闘に一区切りつき、モニカは大きく息を吐いた。


「おいおい、やっぱりその機体、普通じゃねえな……まさかジェイの奴が手玉に取られるなんてなぁ」


 突如、ミズキとモニカに語り掛ける男の声がした。


「誰!?」


『共通チャンネルで通信してきている奴がいる』


「よう、こうして直に話をするのは初めてだな、俺はリガイア軍大尉、ギル・バートンってしがない軍人だ」


『ギル・バートン……』


 ミズキはすぐさま軍のデータベースにアクセスした。

 数多の戦場でスペシオンの軍事施設を完膚無きにまで破壊し、生存者を一人も残さないほど徹底的に蹂躙する容赦ない戦術で知られるリガイアの要注意人物……。


『その大尉殿が何の様だ?』


「ん? 今しゃべってるのはもしかしてAIか? ふーーーん、そういう事ねぇ……」


「一体何の話し?」


『さあね……』


 ギルは一人で納得している様だが、ミズキとモニカには何が何だかさっぱりだった。


「あーーー悪い悪い、こっちの話しだ……では仕事を始めようか、悪いがお前さんたちを捕まえさせてもらうぜ」


 ギルの機体アナコンダがソードを抜き、こちらへ突っ込んできた。


『何だと!? 分からない事ばかりだがそうはいくか!!』


 ストライカーとアナコンダはソード同士を激しくぶつけ合った。

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