第11話 乱戦


 「おい見ろよカトウ、こいつの機体の装備のしょぼい事しょぼい事」


「ウム、我らの相手をするには荷が重かろう……」


 マキシマとカトウがレントのコマンダーを見て嘲笑する。

 コマンダーは通信、索敵などのセンサー類が強化されているだけで機体自体はカスタマイズ前の素のアヴァンガードとほとんど変わらない、装備も右手に短射程のビームピストル、左手に肘から前腕を覆い隠す程度のスモールシールド、近接装備はストライカーが腰に装備していた物より短いショートソード一振りのみだ。


「俺のガルーダのスピードに付いてこられるかな!?」


 ガルーダが鳥を模した高速移動モードに変形し、コマンダーの周りを旋回する。

 さながら獲物を追い詰める猛禽類の様に。

 しかしレントは落ち着いていた。


「死ね!!」


 急旋回しコマンダーに爪状の武器で切り掛かろうとしたガルーダであったが激しい衝撃を受ける。


「ぐわっ!! 何だ!?」


 煙を上げ仰け反るガルーダ、コマンダーのビームが直撃したのだ。

 しかしすぐに体勢を立て直し、再び飛び去った。


「もう一度だ!! 喰らえっ!! ぐわあっ!!」


 又してもビームを食らうガルーダ。

 撃たれたというより自分から中たりに行っている形だ。


「予測射撃です、コマンダーにはそういった芸当も出来るんですよ」


 レントはコマンダーの情報分析能力を用い、ガルーダの軌道を予測、予めビームをその地点に放っていたのだ。


「くそっ!!」


「マキシマ下がれ、ここは拙者に任せろ、お主は手負いの方をれ」


「すまねぇ!! カトウ!!」


 マキシマのガルーダが戦線を離れて行く。


「どうやらお主を侮っていたわ!! 拙者が引導を渡してやろう、宇宙の塵と帰すが良い、はっ!!」


 カトウが十字手裏剣を放つ、狙いはコマンダーを正確に捉えている。

 レントがビームピストルを十字手裏剣に中てるが、弾き飛ばされるだけだった。

 仕方なく機体を移動させ攻撃を避ける。

 だが先ほどフェイのファランクスを攻撃したようにこの十字手裏剣はカトウの脳波でコントロールされ予想外の軌道を描き襲ってくるのだ。

 案の定、手裏剣は通り過ぎた先で一度止まり、弧を描いてコマンダーの下方から襲い掛かって来た。


「貰った!!」


 しかしカトウの勝利宣言も虚しく、コマンダーは僅かに機体を逸らしただけで手裏剣をかわした。

 これもコマンダーに搭載されている各種センサーのお陰であった。


「何ィ!?」


「甘いですよ!!」


 攻撃が中ると思い込んでいたカトウのシャドーの挙動が一瞬止まったのを見計らってレントはビームピストルを乱射しながら一気に距離を詰める。

 ビームが数発、シャドーを捉え、頭部と胴を庇った腕部に損傷を与えた。


「拙者を侮るなかれ!! 機動忍法、隠し身の術!!」


 シャドーの姿が宇宙空間い溶け込むように消えていく。

 やがて完全に目視では発見できなくなってしまった。


「フィールドステルスですか……」


 レントは周囲を警戒する。

 フィールドステルスとは機体の周りに特殊な電磁波を発生して光の屈折率を変え、機体を隠匿する技術である。

 本来はそこにある物があたかも見えなくなった錯覚を受けるが実際はそこに存在するのだ。

 敢えてレントは目を瞑った、戦闘のさ中にだ。

 そしてコマンダーのセンサーが何かを捉えた事を知らせる警告音が響く。

 レントが機体を左に避けるとまさに直前までいたそこへシャドーが忍者刀を模した剣で切り掛かっていたのだ。


「ウヌヌッ……!!」


 攻撃をかわされるも再び姿を消すシャドー。

 今度はコマンダーの背後の上方から切り掛かるも先ほどと同じく最小の動きでかわされ斬撃は宙を斬るのみ。


「ヌウウッ……何故だっ!? 何故避けられる!? 今まで拙者のこの攻撃を避けたものなど居ないというのに!!」


「所詮は目くらまし、高感度センサーの敵ではありません」


 お互い通信をしている訳ではないのだが会話が成立していた。

 

「これならどうだ!! 機動忍法影分身!!」


 シャドーの姿が数体十体に増えぐるりとコマンダーを取り巻く。


「ほう……」


 そう言いつつも特に何の感慨も抱いていないといったレント。

 どちらかと言うと呆れている感じだ。


「これでお主もお終いぞ!! 死ねい!!」


 中心のコマンダーに向かってシャドーたちがさまざまな角度から同時に迫る。


「グワッ!! 何ぃ!?」


 シャドーの胸部に深々と刺さるナイフ。


「姿が消えようが増えようが同じことですよ、あなたの敗因は己を過信した事です」


「むっ、無念……」


 コマンダーが離脱すると同時にシャドーの機体は爆散、カトウは戦死した。


「カトウ!!」


 背後の爆発が戦友のものと分かり動揺するマキシマ。


「よくもカトウを!! こっちはこっちでやらせてもらうぜ!!」


 マキシマのガルーダは目前にフェイのファランクスを捉えた。

 未だフェイは目を覚まさずファランクスは破損した装甲の破片と共に漂っていた。


「邪魔されない様にこっちへ来てもらうぜ」


 ガルーダは猛禽類の爪のごときクローアームでファランクスを鷲掴みにし、一気に距離を移動した。

 コマンダーに邪魔されないためだ。


「ここまでくればいいだろう、カトウの仇だ、お前には惨たらしく死んでもらうぜ!!」


 クローを放すと慣性でファランクスが独りでに前方へと飛んでいく。


『フェイ!! 起きるんだフェイ!! このままではやられてしまう!!』


 しかしティエンレンの呼び掛けも虚しくフェイは気を失ったままだった。


『くそっ、この生体認証って奴は厄介だな……この状態では俺が機体の主導権を掌握することが出来ない……』


 スペシオン陣営の人型機動兵器には生体認証と称する機能が実装されている。

 一機の機体につき1~3人の人間のDNAデータをAIに登録しておき、起動時にそれらの登録者のDNAを照合して初めてその機体は行動可能になる。

 そして搭乗者が平常時に限りAIは機体の各種機能を制限付きで使用可能になる。

 何故こんな制限を設けてあるのかというと、それはAIの暴走を抑制する為であった。

 AI導入当初より開発者たちは自律型AIの危険性を既に想定しており、人間及び組織に危害が及ばない様に【枷】を設けていた。

 これはどんな命令より優先順位が上で、AIは逆らう事が出来ない。

 現在の状況に当てはめるとフェイが平常時であるところの意識を失っているのでティエレンは機体を指一本動かすことが出来ないという事になる。


「散々いたぶって、その後で惨たらしく殺してやる!!」


 鳥型の高速巡行形態のガルーダの翼の前方に設置されている刃物の様に研ぎ澄まされている部分が怪しく光る。


「喰らいな!!」


 金属同士がぶつかる鈍い音を立てガルーダが翼でファランクスを打ちのめす。


『ヌウ……』


「まだまだ終わりじゃないぜ!?」


 ガルーダは旋回し二度三度、延々と翼をぶつけてくる。

 ファランクスは只々ガルーダの成すが儘に弾き飛ばされ宙を舞う。


『こうなったら奥の手だ、あまり使いたくなかったが致し方あるまい』


 ティエレンはフェイのスーツの胸の部分に微量の電流を流す。

 これはパイロットが気絶や意識低下に陥った時の応急措置の為に機体に元々備わっている救命装置だ。


「うはっ……!?」


 フェイの身体が勢いよく仰け反り、彼女は目を覚ました。


『フェイ!! 目を覚ましたか!!』


「あれ? 私は……一体?」


『説明をしている暇はない!! 取り合えずもう気絶しない様にさえしていてくれたらいい!!』


「えっ? あ、はい……」


 返事こそしたがフェイは状況を全く理解していなかった。

 そこへ幾度目かのガルーダの攻撃が迫って来る。


『動ける様になればこっちのものだ!!』


 ティエンレンの操作でファランクスが身を捩る。

 そのお陰でガルーダの翼がギリギリを通り抜け避けることが出来た。


「何っ!? かわしただと!?」


『今度はこっちの番だ!!』


 すぐさまガルーダの翼にしがみ付くファランクス。


「こいつ!! 放しやがれ!!」


『馬鹿め!! このチャンスを逃すと思うか!?』


 機体同士が接触したため、お互いの会話が通信として聞こえてくる。

 ティエレンは本来ミサイルコンテナを保持するためにある背中から生えたサブアームを使い腰に備え付けられている小型爆弾を掴み取った。

 それをガルーダの背中に仕掛け、そのまま翼を掴んでいた腕を放す。


『あばよ、鳥野郎』


 距離が離れたのを見計らってティエンレンが爆弾を起動させると、閃光と共にガルーダの背中が大きく爆ぜた。


「この……この俺がーーー!!」


 マキシマの断末魔と共にガルーダは大爆発を起こし飛び散った。

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