第10話 ならず者戦隊


 「アヴァンガード・ストライカー、モニカ・フランディール出ます!!」


 出撃用デッキからストライカーが発進する。


『済まなかったモニカ、僕の仲間たちが迷惑を掛けた……』


「何で謝るの? ミズキはずっと人間とAIの間に立って頑張ってくれていたじゃない」


『えっ? まさか、ずっと聞いていたのかい?』


「もちろん!! ちょっと感動しちゃったな、あたし」


『………』


 ミズキはあまりの恥ずかしさに押し黙ってしまった。

 あの場に居たガロンはともかくまさか他の人間に、よりにもよってモニカにあの青年の主張のような青臭いセリフを聞かれてしまっていたとは。


『そんな事はいいんだよ!! ほら、敵が見えて来た!!』


「そうね」


 モニターにはケルベロスとバーバリアンが暴れている状況が映しだされる。


「へへっ、やっとお出ましか!!」


「俺に!! 俺にやらせろーーー!!」


 ケルベロスのジェイを差し置いてバーバリアンのゲイルがストライカーの方へ向かってきた。

 頭頂部をこちらへ向け胴体を軸に太い腕部をスクリューの様に回転させて突進してくる。


「ふざけているの!? こんなのビームガンで撃ち落としあげるわ!!」


 モニカがビームをバーバリアンに向かって数発放つ。

 狙いはミズキの補正もあり正確に的を捉えていた、しかし当たったはずのビームはバーバリアンの回転により乱反射をして逸れていってしまった。


「ちょっと!! どうなってるの!? ビームが弾かれた!!」


『解析……分かったぞ、あれは回転することにより発生したエネルギーが機体の表面を覆って一種のバリアの役割を果たしているんだ』


 よくバーバリアンを観察すると、目にも止まらぬ高速回転の渦から時折雷のようなスパークが発生しているのが見える。


「何よそれ!! 出鱈目だわ!!」


『恐らく回転している奴にビーム兵器などの光学兵器は通用しないと思う』


「それならこれよ!!」


 モニカはストライカーの腰部に装備してあるミドルソードを抜いた。


『確かに実体のある打撃武器なら通用するはず』


「突っ込んでくるアイツに一発食らわせてやるわ!!」


 ミドルソードを振りかぶる。

 丁度こちらに向かって渦巻くバーバリアンが突っ込んできた。


「ゲヘヘヘ!! そんなチャチな剣で俺を止めることが出来るかな!?」


 ゲイルは恍惚の表情を浮かべだらしなく涎を垂らしている。

 戦闘で興奮するといつもこうなるのだ。

 普段から粗野で不潔な印象のある彼であるが戦闘となると更にその度合いが増す。

 コックピット内は彼の体臭と分泌液で悲惨な事になり、戦闘後に帰還したバーバリアンの整備をするのを誰もが嫌がるほどに。

 まるでストライカーがバッターでバーバリアンがピッチャーから投げられた球の様に距離が一気に詰まる。

 

「やあああああっ!!」


 交差する瞬間、ストライカーがミドルソードを水平に振りぬく。


「きゃああっ!!」


 インパクトの瞬間、バーバリアンの勢いによりミドルソードは弾き飛ばされてしまった。


『腕部にダメージ、20パーセントのパフォーマンスが低下……ダメだ!! ストライカーでは太刀打ちできない!! 出力が違い過ぎる!!』


「ならどうするの!?」


「変われモニカ!! こいつの相手は俺がする!!」


「グランツ!?」


 大剣を肩に担ぎ、グランツのアヴァンガード・スマッシャーが駆け付けた。


「おっと、そちらも2機になるなら俺も加勢させてもらうぜェ!!」


 ジェイが舌なめずりをしケルベロスの三つある頭部全てから高出力のビームを放った。


「お前はその三つ首野郎の相手をしろ!!」


「分かったわ!!」


 ストライカーとスマッシャーはビームを避けながらそれぞれの相手目がけて散開した。




 コロニーの反対側の宙域。

 レントのコマンダーとフェイのファランクスが迎撃に出ていた。


「ねえ、あなたの名前はティエンレンっていうの?」


『そうだ、目覚めてから俺はそう名乗る事を運命づけられていた』


 フェイが恐る恐るコンソールに向かってティエンレンに話しかけていた。

 モニカにミズキの様な人間と変わらなく会話するAIが現れたのを羨ましく思っていたフェイではあったが、いざ自分のAIがそうなってしまった今、戸惑いを隠せない。

 それに数年前生き別れになり生死不明になった自分の兄と同じ名前を名乗るAIを訝しんですらいた。


「ちゃんと私のサポートしてくれるんだよね?」


『もちろんだ、俺は君を守るために存在するのだから』


(イマイチ信用出来ないんだよね……)


 フェイは心の中でそう思う。

 彼女もモニカ同様、ロッカールームでAI達のやり取りを聞いていたのだ。

 当然ティエンレンが人間を快く思っていない事も知っている。

 そんな相手と上手くやっていけるのか不安で堪らない。


「敵機発見、横一時、縦十三時の方向……フェイ、戦闘態勢を取ってください」


「はい!!」


 フェイからはまだ目視出来ないが、高感度センサーを搭載した隊長機であるレントのコマンダーはいち早く敵の位置を掴むことが出来る。

 そのまま機体を進めるとやがて敵機が視界に入った。


「ギル、お客さんがお出ましだぜ」


 マキシマがアヴァンガードを発見した。

 彼の機体、ガルーダも高性能のセンサーを内蔵していた。


「やっと来たか、だがこちらはハズレだな、目的の高機動型がいない」


「されど拙者のやる事は一つ、敵の殲滅でござる」


 カトウはシャドーの背中に背負っていた巨大な十字手裏剣を手に取った。


「何なのあのふざけたデザインの敵は!?」


「聞いた事があります、リガイア軍に異形の起動兵器ばかり集まった凄腕の部隊が存在すると……恐らく彼らがそうなのでしょう

 だとしたら気を付けてください、血も涙もない残虐非道な極悪集団だったはずですから」


「何ですかその怖い話し!? 聞きたくなかったです!!」


『おしゃべりはそこまでだ、来るぞ!!』


 ティエンレンの叫び声と同時にシャドーとガルーダがこちらへ向かって来る。


「起動忍法風車!!」


 シャドーの投げた十字手裏剣がビームを纏い猛スピードで飛んでくる。

 当たり前の話しだがこの攻撃は忍法でも何でもない。


『舐めているのか、こんなもの』


 ティエレンが軌道解析を行い、ファランクスを操り余裕で手裏剣をかわす。


『フェイ、ミサイルを』


「分かった、ミサイルコンテナ展開」


 肩、前腕、脹脛に備え付けられているミサイルコンテナを開放、今まさに発射しようとしたその瞬間、通り過ぎたはずの手裏剣が起動を変え舞い戻って来たのだ。


「フェイ危ない!!」


「えっ?」


 次の瞬間、手裏剣が右肩のコンテナを背後から急襲、中のミサイルが爆発を起こした。


「きゃあああああっ!!」


 激しい衝撃に揺さぶられるフェイ、コックピット内で頭を激しく強打した。

 不幸中の幸いか、暴発対策の武装緊急廃棄が発動し、コンテナを切り離したためファランクスの機体損傷は驚くほど軽微であった。


『フェイ!! おいフェイ!! 無事か!?』


 ティエンレンの呼び掛けにフェイは応答しない、ヘルメット内で額から血を流し気絶していた。


「笑止!! なんと他愛のない!!」


 カトウがコックピット内で腕を組むみ尊大な態度を取る。


「カトウ、マキシマ、ここはお前らに任せる……俺はお目当ての方へ行く」


「御意!!」


「りょーかい!!」


 マキシマはふざけて敬礼の真似事をする。

 普段は敬礼どころか敬語も使ったことがないというのに。


「行かせません!!」


「おっと、あんたの相手は俺がするぜ、夜露死苦!!」


「くっ!!」


 レントのコマンダーの行く手をマキシマのガルーダが遮った。


 ガンマ小隊の面々はそれぞれ危機に陥る事となってしまった。

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