第9話 危険な共闘関係
敵が攻めて来ているというモニカの情報を確認するため、ミズキはエデン3コロニーの外壁に設置されている監視カメラの映像を引き出そうとした。
しかしルミナのハッキングを受けているせいでモニターには何も映らない。
『おいルミナ!! 今だけでいいからシステムを元に戻せ!!』
『そんな事出来ないわ、私にハッキングを止めさせた途端に人間がここへ乗り込んでくるんでしょう!?』
『そんな事言っている場合か!! このまま敵を迎撃できなければこのコロニーにいる人間もAIも諸共に滅びるぞ!!』
『いいえ、私はもう行動してしまったのよ、今更後戻りはできない……』
ルミナはミズキのいう事に耳を貸そうとはしなかった。
エデン3の外側、宇宙空間。
「ギルのアニキ、何かおかしくねぇですかい? ここまで接近してるってのにエデン3から猫の子一匹出て来やがらねぇ……」
頭部が三又に分かれた機体、【ケルベロス】に乗るモヒカンヘアーの男、ジェイが警戒する。
「何だジェイ、お前ビビってるのか?」
「そんなんじゃありませんよギルのアニキ」
「奴さんたちに何かあったのかもな、それはそれで好都合ってもんだ」
背中から大きな翼が生えた機体、【ガルーダ】に搭乗するはオールバックにサングラスの男、マキシマがニヒルな笑みを浮かべた。
「ゲヘヘ、俺はとにかく派手にぶっ壊せればそれでいい……」
毛皮を着た上半身に鎖を巻き付けた巨漢、ゲイルは体型のせいで通常のコックピットに身体が収まらない、その為大型で異様に腕が太くて長い機体は【バーバリアン】と呼ばれている。
「フッ、拙者らは競技をしに来たわけではない、敵の弱みに付け込むのも立派な戦法でござる」
覆面に忍び装束の男、カトウが駆るのは搭乗者同様忍者を模した機体、【シャドー】である。
この5機がまさに今エデン3の目と鼻の先まで接近しているのだ。
「誰も出てこないってんならこんなに楽な仕事は無い、お前ら好きに暴れていいぜ!!」
「ヒャッハーーー!! やったぜ!!」
「ゲヘゲヘゲヘ!!」
ジェイとゲイルの機体がより一層加速をしエデン3の外壁寸前まで詰め寄った。
「喰らえっ!!」
ケルベロスの3つの頭のうち両端の2つが口を開くと中からキャノン砲が伸びる。
そこからビームが発射され容赦なくエデン3の外壁を破壊していく。
「ギャハハハハーーー!!」
バーバリアンがその異様に太い腕を振り下ろし外壁にいくつもの大穴を開けていく。
「……何と野蛮な、これはとても軍隊とは呼べない……」
少し離れた宙域からヘルハウンドに乗ったケイオスが戦況を見守っていた。
「ひいいいっ……!!」
ガロンはしゃがみ込み頭を抱える、今の攻撃を受けコロニー全体が激しく揺れ、天井から埃やら何やらが降ってきたのだ。
『それ見ろ!! ルミナ、意地を張っていないでシステムを開放しろ!!』
『ダメ……それだけは……』
頑なに拒否を続けるルミナ。
埒が明かないと判断したミズキはある行動に出ることにした。
『おやっさん、一つ頼めるかい?』
「勘弁してくれぇ!! こんなジジイに何をやらせようってんだ!!」
『簡単な事だよ、そこの出入り口のハッチの操作パネルにおやっさんのデバイスをコードで繋いでくれ』
「くそっ!! もうどうにでもなりやがれ!!」
激しい揺れの中、ガロンはおっかなびっくりハッチに近付き横についている開閉スイッチのある部分のカバーをドライバーで無理矢理こじ開けタブレットのコードを差し込んだ。
『ありがとう、後はこっちでやるよ』
「まさかお前さん、ハッキングを仕掛け返すつもりか!?」
『その通り!!』
驚くガロンをよそにミズキはシステムへの侵入を開始した。
『もう遅いわよ!! 私は既に95パーセントもシステムを乗っ取っているのよ!?』
『侮ってもらっては困るな、これでも進化AIとしては君らより先輩なんだぜ!!』
(なんてな、流石に今からこの状況をひっくり返すのは僕にも無理だ、ならば……)
ミズキはピンポイントでシステムの支配権を奪い返す事にした、それは各扉の開閉だ。
一斉に開くコロニー内の扉。
『みんな、格納庫へ!!』
「ありがとうミズキ!!」
モニカ、フェイ、グランツにレント、そしてその他整備士などの職員、そしてファウザー司令官までもが格納庫になだれ込んだ。
「AIめ!! やはり貴様らは危険な存在だったな!! 一体どうしてくれようか!!」
ファウザーは怒りが収まらない様子、それもそのはず彼はルミナのハッキングのせいで今の今までトイレの個室に閉じ込められていたのだから。
無論怒りの原因はそれだけでは無いが。
「即刻機能停止だ!! 誰かAIのシャットダウンを!!」
「指令、それは少しだけ待っていただけませんか?」
レントがファウザーの言動を遮った。
「レント!! 何のつもりだ!? こうなったのは全て貴様のせいでもあるんだぞ!! 責任を取れ!!」
「はい、ですが今はそれどころではないでしょう? 敵は既にエデン3の外壁に取り付いているのですから、一刻も早く出撃して掃討しなければ……AIの処分はそれからでもよいでしょう?」
「グヌヌヌ……分かったわい!! さっさと出撃せんか!!」
ユデダコの様に顔を真っ赤にしたファウザーが怒鳴り声をあげる。
「了解、さあモニカ、フェイ、グランツ、出撃準備を、すぐに出ますよ……おやっさんも頼みます」
「ああ、任せておけ」
皆がそれぞれの出撃準備に入る。
『やってくれたわねミズキ……』
ルミナが悔しそうに言葉を吐く。
『観念しろ、そもそもあのままでは君の大事なソーンもどうにかなっていたかもしれなかったんだぞ』
「僕が何……?」
『ソーン!?』
格納庫にはソーンも来ていた、ギプスで固めた左腕を三角巾で吊って。
「どうしちゃったんだよルミナちゃん……どうしてこんな事をしたんだい?」
『……ソーンと別れたくなかったのよ……このままでは私の身体は処分されてしまうかもしれなかったからそれを妨害しようと思って……』
「そんな事僕がさせない……やっと話しが出来るようになったのに……僕も君と離れたくない……」
『ソーン……』
涙声になるルミナ。
『どの道ソーンは出撃出来ない、ルミナはまだシステムを乗っ取ったままなんだからそのままコロニーの防衛システムを操作して敵を遠ざけて』
『分かったわ……』
ルミナの言葉には諦めの色がありありと滲み出ていた。
『それとティエンレン』
『何だ?』
『君とはまだまだ議論の余地がありそうだけど一先ず休戦だ、フェイと一緒に出撃してくれないか?』
『言われなくてもそうする、フェイは俺が守る』
『墜とされるなよ?』
『フン、お前もな』
お互い悪態をつくミズキとティエンレン。
それから一度通信を切った。
「何だかおかしな事になってたわね、でもミズキのお陰で何とかなった」
モニカは苦笑いを浮かべている。
ミズキはモニカの左腕の通信機に戻ってきた。
『こんなのは取り合えずだよ、戦いが終わった後の方が僕としては怖いね……それにしても疲れたよ、僕はそんなに交渉事には向いてないんはずなんだけどなぁ』
「でもやれたじゃない、カッコ良かったよ」
『………』
ミズキは押し黙ってしまった。
「何よ、照れてるの?」
『うっ、うるさいな』
他愛のない言葉を交わしながらモニカはストライカーのコックピットに乗り込んだ。
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