第13話 報い
「どうしようミズキ!! あいつが向かってきたわ!!」
ギルのアナコンダを目の当たりにし操縦桿を握るモニカの手が激しく震える。
前回の戦闘でソーンのディフェンダーをいとも簡単に行動不能に陥れたのを憶えており、彼女の中に恐怖心が芽生えていたのだ。
『落ち着いてモニカ、あいつの戦闘データは僕の中に入っているから』
「フフッ、俺が前の戦闘で全ての手の内を晒したとでも?」
『あっ……しまった』
ミズキは未だに共通チャンネルで通信が繋がっているのを失念していた。
「おっと、通信は切るなよ? 楽しくおしゃべりしながら戦おうじゃないか」
「ふっ、ふざけるないで!! なぜあたし達があなたのおしゃべりに付き合わなければならないの?」
勇気を振り絞りモニカが反論する。
「まあそう言うなって、ほら漫画やなんかで敵対している者同士が戦いながら自らの主張をぶつけ合うじゃないか、アレに憧れてるんだよ俺は」
飄々としゃべり続けるギル、しかしその間もストライカーとアナコンダはビームガンの射撃の応酬を繰り広げている。
「モニカさん、聞こえますか?」
レントからの通信が入った。
「レント隊長!! ご無事でしたか!!」
「はい、今のあなたの状況はどうなっていますか?」
「現在、あの蛇型に変形する機体と交戦中です!!」
「そうですか、こちらは二機撃墜しました、グランツからも一機撃墜の報告が入っています」
「本当ですか!?」
チッ、とギルの舌打ちが聞こえる、この通信もギルには丸聞こえだった。
「これから私がそちらの増援に向かいます、あと五分だけ持ち堪えてください」
「分かりました!!」
ここでレントの通信が切れる。
「あいつら、簡単にやられやがって……役に立たないな」
『貴様!! 死んでいった仲間にその言い草はないだろう!!』
「勘違いするなよ? あいつらは仲間なんかじゃない、俺の駒だ……作戦を遂行するためのな」
「何ですって!? 仲間を何だと思っているの!?」
「何度も言わせるんじゃねえよ、使い捨ての駒だって言ってるだろう!!」
脅えていたはずのモニカも流石に今の会話は聞き流せなかった。
手の震えが止まり、しっかりと操縦桿を握れるようになった。
しかしミズキが照準を付けているにも拘らずアナコンダはストライカーの射撃を悉くかわしていく。
『どうなっているんだ? 奴の挙動がまるで予測できない』
「教えてやろうか? 俺は特に考えて動いて無いんだよ、直感とでも言おうか」
『そんな馬鹿な!!』
「凄いAIでもそこんところはやっぱり機械の域を出ていないんだな、それじゃあ俺に勝つ事は出来ねぇよ」
アナコンダがこちらに向けて放つビームは正確であるが、それ故ミズキには逆によけ易く余裕で回避行動を取る。
退けきれないビームはこちらのビームで相殺するという離れ業も披露して。
「やるじゃないか……なあ、いくら高機動型の機体だろうとその運動性能と射撃の照準の精度……嬢ちゃんだけで出来るもんじゃないよな? 俺が思うにこれはサポートに付いているAI君の仕業だろう?」
『さて、何のことやら……お前の勘違いじゃないのか?』
「フッ、お前が本当にAIなのか疑わしくなってくるな、まるで受け答えが人間そのものだ」
「ダメよミズキ、こんな奴と会話をしては……何気ない会話からこちらを探ろうとしているんだわ!!」
「何だよつれないなお嬢ちゃん、考えすぎだよ」
(チッ……案外食えないなこの女パイロット……)
モニカのいう事は図星であった。
「打ち解けて来た所でそろそろお近づきになりたいんだが……このままではディスタンスが過ぎるんでね」
アナコンダがこちらに向けて左腕を差し向ける。
「何かやるつもり?」
『分からない、しかし戦闘データでは左腕に武装があった形跡はないけど……』
「さっき言ったろ、俺はまだ手の内の全てを晒していないんだと」
火薬が爆ぜたような煙がアナコンダの左肩辺りから上がると左腕があり得ない程伸び、その拳がストライカーの頭部左側面に掠ったのだ。
「何!? 今のは!?」
『ロケットパンチか!? いやあれは……』
ミズキがアナコンダをズームカメラで観察すると両脚が消え失せ左腕があり得ない程長く伸びていたのだった。
『そうか!! 両足を左腕に連結して左腕を延長したんだ!!』
「ビンゴォ!! そんな君たちにはご褒美を上げよう」
ギルはアナコンダの全てのパーツを棒状に分割させ連結、蛇の様な姿に変わった。
「あれは、ソーンのディフェンダーを行動不能にした……」
再びモニカの身体が震え出す。
『しっかりするんだモニカ!!』
「遅いな」
一瞬の隙を突きアナコンダが螺旋を描くようにストライカーを取り巻いた。
『このままでは巻き付かれる!! モニカ、上方へ逃げるんだ』
「うっ、うん!!」
背中から推進剤を噴射し飛び上がるも、蛇状のアナコンダの口に当たる部分が外れるように大きく開く。
そしてストライカーの左足へ噛み付いたのだ。
その様はまさに獲物に襲い掛かる大蛇そのものだった。
「きゃっ!!」
いきなり引っ張られた衝撃でモニカの身体がコックピット内で激しく揺さぶられる。
足を引き抜こうとしてもビクともしない。
『モニカ、剣で攻撃だ!!』
「分かったわ!! このっ!!」
腰に下がっているナイフを左手に持ち、噛み付いているアナコンダの顔目がけて突き立てる。
しかしその部分の装甲が特別厚いらしく軽く傷がつくだけだった。
「じゃじゃ馬には少し大人しくしてもらおうか」
更にアナコンダが顎に力を加える、ギリギリと軋むストライカーの左足。
バキンッ!!
そして大きな音を立てて左足が切断されてしまった。
『うわあっ!!』
コックピットにけたたましく警告音が鳴り響く。
モニターに映し出されているストライカーの全身図の左足部分が赤く点滅している。
「大丈夫ミズキ!?」
『ああ、思わず声を上げてしまったけど痛みがある訳じゃないからね』
機動性20パーセントダウンの文字、脚が片方失われた事でバランスにも狂いが出てしまう。
「捕獲の命令を受けてはいるが無傷でとは言われてないんでね、もう一本くらい腕ももいでおこうか」
『そんな事はさせない!!』
ギルの物騒な言い草にミズキの意思で右手にミドルソードを抜いたストライカーがアナコンダに迫る。
「威勢がいいな、ちょっとだけ遊んでやるよ」
アナコンダが変形し人型に戻った。
そして二機は高速で飛翔しながら何度も何度も衝突し、何度も何度も交差するように剣を交える。
「ハハハッ!! 楽しいねぇ!! ほら、もっと来いよ!!」
『くそっ、遊んでいるのか!? 機体が万全ならこちらがスピードで上回れるのに!!』
これはもちろんギルにとっては織り込み済みである。
既に前回の戦闘でストライカーの機動性が自分の乗機アナコンダを上回っているのが分かっていた、その為奇襲をかけ推進装置が付いている脚か背後を破壊する様に策を練っていたのだった。
「そらよっ!!」
ギルはナコンダの右手に握られている青龍刀に似た剣を振り下ろす。
ストライカーはミドルソードでそれを受け止めた。
つばぜり合いは互角だ。
「やるじゃないか、だがまんまと俺の誘導に引っ掛かったな」
『何!?』
二機が隣接したこのタイミングを見計らってアナコンダが蛇型に変形を始めた。
そしてそのままストライカーに巻き付き機体を締め上げる。
「きゃあっ!!」
両腕は外側へひしゃげコックピットが内側へ凹み始めた。
『貴様!! 最初からこれを狙って……!!』
「そうとも、誰も剣で決着を着けようだなんて一言も言って無いぜ?」
やはりギルは戦闘慣れしている、戦法も戦術もこちらの一枚も二枚も上を行っていた。
「もう嫌ぁ……」
完全に戦意を喪失し、シートの上で頭を抱え蹲るモニカ。
身体はガタガタ激しく震えている。
(くそっ!! これまでなのか!? 折角手に入れたこの力があっても女の子ひとり守れないなんて!!)
そう思ってからミズキはハッとなる。
(えっ? 折角手に入れた力? まるで前は力が無かったような物言いだな……これでは僕は元はAIでは無かったかのような言い方だ……)
おかしな事を思ったと他人事の様に分析するミズキ。
ドクン……。
(何だ!?)
ミズキは自分にあるはずのない胸の鼓動のような物を感じる。
そしてメモリーに、とある映像が映し出された。
「ちょっと!! 大丈夫!?」
車道の上で倒れる少女にもう一人の友達らしき少女が跪き声を掛ける、瞳からは大粒の涙を零して。
倒れている少女の方は後頭部を激しく打ったのかそこから夥しい量の出血をしており全身が激しい痙攣をおこしていた。
「誰か早く救急車を!!」
「何々!? 交通事故!?」
「うわっ……エグイもの見ちゃったな……」
周りに集まる人々が片や少女に救命措置をしたり片や野次馬然と事故現場を覗き見たりと現場は大混乱だ。
「通してください!! 救急隊です!!」
ストレッチャーを押して数人の救急隊員が現れた。
二手に分かれ少女と少年の容態を見る。
「少年の方はもう亡くなっています、少女の方を優先して運びましょう」
「分かりました」
数人で少女をストレッチャーに乗せ救急車に収容する。
そして心電図などのコードを身体に取り付けたその矢先。
ピーーーーーー。
少女の心臓は止まった。
「急いで電気ショックを!!」
「はい!!」
少女を蘇生させようとする救急隊の懸命の努力は死んでしまったはずの少年の耳にも届いていた。
(えっ? トラックから助けようと僕が突き飛ばした女の子、死んじゃったの? そんな、僕は最後まで何も成し遂げられなかったの……?)
薄れゆく意識の中、少年の目には涙が溜まっていた。
(はっ!? 今のは初めて見た夢の続き!? いや今のは夢なんかじゃない、あの少年は……僕だ!! あれは僕の記憶だったんだ……)
ミズキのメモリーが前世の瑞基の記憶のと記憶繋がっていく。
(そうか、思い出してきたぞ、トラックに轢かれそうになっていた女の子を助けたつもりが僕が突き飛ばしたせいでその女の子を結果的に死なせてしまったんだ……前世でも女の子を救えなかったくせに今もまたモニカを救えないなんて、そんなのは嫌だ!!)
『うわああああああああっ……!!』
ミズキが叫びを上げるとともにストライカーの機体が深紅に発光していく。
それは機体自体にも熱を帯びさせ、身体を絞めつけているアナコンダの機体にも伝導していく。
ストライカーに接触しているアナコンダの装甲がドロドロと解け始めた。
「うおっ!? 何事だ!?」
急激な機体の温度上昇に驚愕するギル。
「一体何が起こっているの……?」
モニカも驚きを隠せない、機体の外側の温度が上昇しているにも関わらずコックピット内は常温のままなのだ。
「くそっ、一旦離れなくては」
アナコンダがストライカーの拘束を解き、すぐさま距離を取る。
そして一度人型に戻ろうとしたが先ほど装甲が溶解した事で機体が歪んでしまい変形出来ない。
「何だと!?」
仕方なく蛇型に戻るしかない。
「やってくれたじゃないか!! だがこちらの機動力はまだ生きている!!」
波打ちながら滑る様にこちらへと向かって来るアナコンダ。
『来い!!』
尚もストライカーは発光を続けている。
ミドルソードをを逆手に持ち替えこちらも突進する。
だがそのスピードはこれまでの比では無く残像を引きながら超高速で移動したのだ。
「何だその動きは!?」
アナコンダはストライカーの動きを捉えられず、一方的にミドルソードによって切りつけられていた。
『わあああああっ!!』
アナコンダの身体の中ほどを一刀両断するストライカー、しかし剣と右腕も己の異常な出力に耐えられず肩から千切れ爆発した。
「馬鹿な……!!」
ギルは何とか被害を免れたがアナコンダの機体はもはや戦闘不能であった。
「こうなってはもう無理だな、退散させてもらうぜ」
短くなってしまった機体で逃走を図る。
『逃がすか!!』
ミズキもギルを追いかけようとしたがストライカーの機体の発光現象が突然収まり、動力が完全に停止してしまったのだ。
『そんな……ここまで……キテ……』
ミズキの電源も落ち、コックピットのランプも全て消え完全に闇に包まれた。
「ちょっと!! 待ってよミズキ!! どうするのよこれ!?」
モニカは一人取り残されてしまった。
その直後、機体に何かが接触したような振動があった。
「あっ、もしかしたら隊長が助けに来てくれたのかも……」
その時モニカは楽観的にそう思ったのだった。
「くそっ!! くそっ!! くそっーーーっ!!」
アナコンダのコックピットの中、一人荒れ狂うギル。
ある程度戦闘宙域から離れたはいいが、アナコンダの動力炉のトラブルによりこれ以上自力で飛ぶことが出来なくなっていたのだ。
「仕方ない、救難信号を……」
「ギル大尉……」
その時、ケイオスが乗るヘルハウンドが現れた。
機体の腕にはストライカーが掴まれている。
どうやら動力シャットダウン後にケイオスが鹵獲したようだ。
「おお!! 丁度いい所へ来たな!! 俺を連れ帰ってくれ!! その機体の捕獲の手柄はお前に譲ってやるからよ!!」
「虫のいい話ですね、こんな時だけ仲間を頼る」
ヘルハウンドのビームガンの銃口がアナコンダに向けられる。
「何の真似だ?」
「先ほどの戦闘中に通信を傍受していました、あなたは部下を駒としてしか見ていなかったそうですね、それも使い捨ての駒だと……今回の作戦に参加したあなたがわざわざ呼び寄せた部下は信頼のおける部下じゃなかったんですか?」
「聞いてたのか……あれはそのなんだ、戦闘中に敵としゃべっていると気が大きくなっちまってな、有る事無い事話ちまうんだよ」
バツが悪くなりいつもと違いおろおろと目が泳ぐギル。
「よくも抜け抜けと、あなたがそんなタマですか? 私の同僚もあなたの作戦の犠牲になったんだ、あなたの話しなど聞く耳もたない」
銃口にエネルギーが収束していく。
「おいおい!! 冗談はよせよ俺は上官だぞ!?」
ギルがかつてない程動揺する。
「後の事は私にお任せを、【狩人】は立派に任務を遂行したとヴァイデス大佐には報告しますので」
「止めろーーーー!!」
ギルの叫びも虚しくビームがアナコンダを貫き、機体は爆発した。
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