大毒蜘蛛掃討作戦-4

 ガルテンさんはオレを認めるとこちらに近付き右手を差し出して来る


「リオン久しいな、今日は共に頑張ろう」


 オレは握手に応えつつガルテンさん以外のメンバーを観察する


 ガルテンさんの小隊は他に3名いたがその誰もが見覚えの無い人ばかり

 少なくとも虹色亭のお得意さんには居なかったはず

 つまりこの3人が増強された戦力、シュレヒト殿下の手の者達か?

 さり気なくオイレさんと視線を合わせると、小さく頷きオレの考えを肯定して来る


「彼らは新しく配属された人員でな、私がまとめて面倒見る事になっている

 これも副官の務めというやつさ」


 ガルテンさんはやれやれと言った素振りでそう説明する


 相手にする時は4人纏めてか……

 どこから襲われるか解らないより一緒に行動してくれ方が警戒し易いからかえって都合が良い、そう考えておこう


 掃討作戦の内容は部隊を8つの小隊に分け、1小隊4人の編成

 オイレさんは拠点に残り全体の指揮と状況整理、フェルゼンさん一家は3人で1小隊、父さんと母さんも2人で1小隊扱い

 この2小隊は特別遊撃隊としてオイレさんの指揮からは外れ独自に行動するようだ


 オレとレイカは飛び入りなのでガルテンさんの小隊に組み込みこまれ副官に纏めて面倒を見させると言う名目である

 

 まあガルテンさんも自分が疑われてる事に気が付いてるだろうね

 オレ達は自分から志願した事になってるけど、どう考えても怪しいでしょ


「ではこれより作戦を開始する!」


 オイレさんの言葉で待機していた内6小隊と遊撃隊が森の中へ進軍を開始する

 2小隊は拠点に残りオイレさんのサポートと増援要請があった際に動く援護部隊として待機だ


 ガルテンさんを先頭に森の中を進む

 並びはガルテンさん、3人の増員兵、最後尾にオレとレイカの順


「リオン、君の方がこの森には詳しいだろう

 何か気が付いたら直ぐに言ってくれ」

「……はい、任せてください」

「どうした、大丈夫か?」


 一瞬答えに詰まるオレに怪訝そうな顔で聞いてくるガルテンさん


「軍の人と行動を共にするのは初めてなので多少緊張しています」


 取り敢えずもっともらしい事を言っておくが、こんな腹の探り合い何時迄続けていても仕方が無い

 

 ……思い切ってガルテンさんを問い詰めてみるか?


 しかしなかなか踏ん切りが付かず、気が付けば随分森の奥まで進んでしまった


 予定している探索ポイントまでもう少し


「あの、ガルテ」

「しっ!」


 意を決して話し掛けた所をガルテンさんに止められる


 ガルテンさんは行軍を止め身を低くし無言で前方を指差す

 指差した先には切り立った斜面が有り、その中腹辺りに人の背丈程の洞窟の入り口がポッカリ口を開いている

 そしてその洞窟へ向かってノソノソと斜面を登る大毒蜘蛛の姿が


 大毒蜘蛛は糸で固めた獲物を背負っている事から、あの穴が巣で間違いなさそうだ


 森の奥まった場所とは言え村からもそう遠く無い、今まで村人に被害が出なかったのが奇跡に思える

 

 発見出来て良かった


 ガルテンさんが振り向き全員に目配せすると皆静かに元来た道を戻り始める

 巣の場所さえ特定出来れば、後は部隊を集め掃討するだけ、報告のために一度キャンプへ戻るのだ


 最後尾を歩いていたオレ達が必然的に先頭となる

 

 戻るまでにガルテンさんに真意を確認しないと……


 そんな事を考えていたからだろう

 注意が散漫になっていた

 

 今度は最後尾を歩く形になっていたガルテンさんの更に後ろ


 そこに突然黒い塊が降って来る


 それは見間違う訳もない、馬ほどの巨体を持つ大毒蜘蛛である


 大毒蜘蛛は二本の前足を高く挙げ今まさにガルテンさん目掛け振り下ろそうとしている


「ガルテンさん危ない! 『ストーンウォール』!」


 オレは咄嗟に今朝記憶して来た魔法を解放する

 いざと言う時使うため記憶した魔法は攻撃と防御を一つずつ

 その防御の方を大毒蜘蛛とガルテンさんの間に放つ


 魔法はすぐさま効果を現し地中から人の背丈程の石壁を出現させた


 大毒蜘蛛の一撃は石壁に阻まれガルテンさんまで届かずに終わるが、槍の先端の様に鋭い二本の脚に貫かれた石壁は粉々に砕かれその役目を終える

 

「リオン助かった!

 大毒蜘蛛を囲え!」


 体勢を整えたガルテンさんは武器を構え部下に指示を出す


 大毒蜘蛛一匹相手にこちらは5人、戦力としては充分撃退出来る!


 しかしオレは気が付いていなかった

 背後から忍び寄る絶望の影に


 オレも戦闘に加わるべく動こうとした時、ゾクリと背筋に悪寒が走る

 背後から迫る死の恐怖

 それを本能的に感じ咄嗟に身を屈める

 その瞬間頭上を何かが通過し目の前にいた名も知らぬ兵士の背中に突き刺さった


 金属製の鎧をいともたやすく貫通し胸から黒光する槍を生やした兵士は血飛沫を撒き散らしながら空に消える


 背後を振り返ると目の前には兵士を頭上高くまで持ち上げた大毒蜘蛛の姿が

 

 でかい!


 その大毒蜘蛛は今まで見てきたどの個体よりも倍ほども大きい


 コイツ群れのボスか!


 巨大毒蜘蛛は持ち上げた兵士にもう一方の脚を突き刺し左右に引き裂く

 兵士は胴体を真っ二つにされ血と内臓の雨を降らし声をあげる間も無く絶命した


 完全にしてやられた、最初に現れた大毒蜘蛛は囮でコイツが本命ってか!


 二匹に挟まれる形となり形勢は逆転される

 しかし……


「ガルテンさん! コイツはオレが!

 最初のヤツお願いします」

「引き受けた! 直ぐに倒し加勢する!」


 オレは背中に背負った両手剣を引き抜き巨大毒蜘蛛に向かって構える


 フェルゼンさんのお祖父さんが作ったこの両手剣、何かしらの魔法が掛けられているのは確かだが、レイカに頼んで調べて貰っても残念ながら効果は、はっきりしなかった


 せめて使い方が解ればな……だが!


 魔法を発動出来なくとも剣が切れなくなる訳でも無し、やる事は1つ!


 オレは両手剣の切っ先を巨大毒蜘蛛に向け全力で突っ込む

 敵もそれに反応し脚に突き刺さっていた兵士の死体を投げ捨てるとオレ目掛け振り下ろして来る


 脚が頭上に迫った瞬間、頭の中で練り上げていた魔法を発動させると身体の真横へ突風が吹き付けオレの身体を無理矢理軌道修正させた

 巨大毒蜘蛛の脚が地面に突き刺さり動きが一瞬止まる

 

「まず一本!」


 突き刺さった脚へ水平に剣を叩き付けると虹色鉱をドワーフの職人が鍛え上げた業物はいとも容易く硬い表皮を切り裂きそのまま両断した

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る