大毒蜘蛛掃討作戦-3

「オレ達も帰るよ」

「そうか、明日は大丈夫そうか?

 何なら俺も同じ隊に入って……」

「いや、オレ達だけで何とかするよ」


「リオン、帰る前に少しだけ良いかしら」


 帰ろうと席を立ったところで母さんに呼び止められる


「うん、何? 母さん」

「リオンはエルフが何故長命なのか知っていますか?」


 ん?そう言えば考えた事も無かったな

 そう言う種族だから位にしか思って無かった、後エルフって妖精って言うイメージが有るから何となく納得もしてたし


「考えた事も無かったよ」

「私達エルフが長命な理由……

 それはね、呪いなの」

「呪い?」

「そう、古代魔法の呪い

 そのせいでエルフは死ねなくなったのです」


 母さんの語る内容は驚愕に値する物だった


 遥か昔、エルフがまだ人と変わらぬ寿命だった頃、一人の魔女が不老不死の魔法を研究していた

 彼女の名はアルタートゥム

 古代魔法の始祖と呼ばれる魔女だ

 彼女は不老不死研究の傍ら数々の魔法を作り出し世に広めたが、使うのに膨大な魔力を必要とする彼女の魔法を行使する事が出来るのはほんの一握りの才能有る者だけだった

 才能有る者達は彼女の魔法を研究し発展させ自らも魔法を創り出し始める

 そのどれもが強力な殺傷力を持つ魔法だった


 大きな力を持つ者は権力者となり、自らの国を持ち独裁紛いの統治を行い始める

 各国は領土を広げる為、または己の力を誇示する為に争いを始める

 最初は小さな火種だったが各地へ飛び火しやがて世界全てを巻き込む戦争へと発展した

 地平を焼き尽くす熱線、地形を変える程の爆発、星をも降らせ一瞬で大陸を蒸発させたりまで

 気が付けば生ける者の居ない死の大地と化していた


 アルタートゥムは自分のせいで起きてしまった争いを悔み、自らの命を贄として最後の魔法を唱えると、時間が逆行し彼女が魔法を広める以前まで戻ったと言う


 しかし彼女は生きていた

 自ら命を絶った筈なのにも関わらずだ

 どうやら意識だけが時を遡り、過去の自分の身体に宿ったらしい

 そして何の影響かは解らないが、彼女は歳を取らなくなっていた

 図らずも、長年研究していた彼女の魔法、不老不死が実現されたのだ

 正確に言えば不老に近い程の寿命を得ていた

 彼女の種族であるエルフ全てに効果を及ぼし決して解けない呪いとして……


 その後彼女は古代魔法を封印し、しかし自分の血縁者にだけは伝えたと言う

 いつかこの忌わしい呪いを解いてくれる者が現れると信じて


 母さんはオレに古代魔法の隠された歴史を語ってくれた

 そしてそれを知っていると言うことは……


「そう、私はアルタートゥムの子孫です」


 いつものお茶目な母さんでは無く、至極真面目な表情で言い放つ


「そしてこれから貴方に私が知る全ての古代魔法の知識を授けます」

「ま!待って母さん、何故そんな……」

「これが最後になるかも知れません

 それに知っていれば必ず貴方の力になる筈」


 確かに、明日はどう転ぶか解らない

 もしかしたらもうここへは戻れない事態になるかも知れない


「でも学ぶには時間がなさ過ぎるよ」

「大丈夫です、言葉や書面で伝える訳ではありません、貴方の記憶に直接知識を植え付けます」


 母さんはそう言うとオレの背後に周り頭の上にそっと両手のひらを乗せる

 それは小さい頃良く頭を撫でてくれた温かい手では無く、随分と冷たく感じられた


「貴方なら間違った使い方はしないと信じて居ます」


 母さんがそう言った瞬間オレの頭の中に何かが恐ろしい勢いで流れ込んで来た

 余りの事に意識を失いかけるが既のところで踏み止まる

 永遠に思える一瞬の後、オレは古代魔法の全てを理解していた


「どう? リオン、大丈夫?」

「……うん、平気……だと思う」


 今オレの頭の中には無限の可能性を秘めた古代魔法の知識が有る

 これを使えば何でも出来るが、同時に使ってはいけない物だと言う事も理解している


「貴方の顔を見ればわかるわ、ちゃんと理解していますね」


 母さんは緊張を解きながら言う


「私達エルフの願いは貴方に託されました

 どうかその力を正しく使いエルフを永遠の呪いから解き放って下さい」

「解ったよ母さん、その依頼引き受けた」


 冒険者になって初めての依頼がまさかこんな形になるとは思っていなかったけどね


「さすが私の息子です、貴方の歩む道に幸多からん事を願っています」


 すっかり普段の雰囲気に戻った母さんはオレの頭を胸に抱き頭を撫でてくれる

 その手は昔の記憶通り優しく温かかった……



「リオン君本当に大丈夫?」

「もうすっかり大丈夫だよ」


 二人の家に帰って来たオレとレイカ、最低限の旅支度を整え床に着いていた

 あの後椅子から立ち上がった時、足が言うことを聞かず倒れ掛かったのをレイカに支えられた

 その事を心配しての言葉だ


「明日どうなるかな……」


 不安げな表情で呟くレイカ


「さあ、出たとこ勝負って感じかな」


 オレはわざと緊張を欠いた返事をする


「リオン君らしい……のかな?」


 少し笑顔を取り戻したレイカがオレに抱きついてくる


「明日の事を考えてもキリが無い、だから今出来る事を全力でする」

「今出来る事?」


 キョトンとした顔で聞き返して来るレイカ


「全力でレイカを抱く!」


 言うが早いか布団を跳ね除けレイカに覆い被さる


「ちょっ! えっ! 何!?」

「これが最後になるかも知れない、悔いは残したく無いんだ」


 驚いて目を見開いていたレイカだがオレの言葉を聞いて慈愛に満ちた表情に変わる


「これが最後なんて言わないで

 私はリオン君を守る

 リオン君は私を守る

 だったら何が有っても平気でしょ?」

「そうだったな、二人なら何が有っても平気だ」

「うん、よろしい

 ……じゃあ、いっぱい愛して、ね?」

「任せとけ!」



 翌朝、約束通り明け方前にキャンプへ到着したオレ達をオイレさんが出迎えてくれた

 オイレさんだけでは無い

 フェルゼンさん、ザフィーアさん、マルモア、父さんと母さん

 それに昨日見る事の無かったガルテンさんの姿も有った


 静かにオレを見据えるガルテンさんのその表情からは何も読み取る事は出来なかった

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