大毒蜘蛛掃討作戦-2

食事も進み酒も入れば話も弾み始める

 父さんとフェルゼンさん達は昔話に花を咲かせ、母さんは横で穏やかな笑みを浮かべ静かに聴いている

 レイカとマルモアも虹色亭のその後やブルーメが会いたがっていた事やらで盛り上がっていた


「そういえばオイレさん、村への到着が約束より少し遅れましたが何か有ったんですか?」


 オレは話のタネになるかとオイレさんに予定日よりも遅れた理由を尋ねてみる


「ふむ……」


 オイレさんはオレの何気無い問いに難しい表情で考え込んでしまう

 聞いちゃ不味い事だったかな?


「あ〜言い辛い事でしたら構わないですが」

「うむ、いや君は知っておいた方が良いだろう」

 

 オレに関係有る事なのか?

 何と無く嫌な予感がする


「実は出発の直前になって戦力増強の名目で本国から増員が有ったのだ、その為出発に手間取ってしまってな」

「そんな事って頻繁に有るんですか?」

「いや、先ず無い、しかも調べてみたところどうも陛下からでは無く、第ニ王子のシュレヒト殿下の命によるものでな」


 確か国王がプリーマ・シュテルクスト陛下

 第一王子のグート殿下、そして話に出た第二王子のシュレヒト殿下だったかな?

 お会いする機会は先ず無いだろうが一応名前だけは知識として知っている

 少し気になったのは、オイレさんがシュレヒト殿下の名を出す時に少し眉をひそめた事だ


「シュレヒト殿下ってどんな人なんです?」

「王位継承権こそ持っているがグート殿下に比べると人柄や人望、政治力等、随分と見劣りしてしまう」


 ここでオイレさんはグラスに半分程残っていた酒を一気に呑み干す


「しかも余り良い噂も聞かない

 何でも事あるごとにグート殿下と対立し、隙あらば自分が第一継承権を得ようと躍起になっているそうだ、随分汚い手も使っていると聞く

 正直そんな器では無いのだがな」


 最後は吐き捨てる様に言うオイレさん

 オイレさんにそこまで言わしめるってシュレヒト殿下ってよっぽどなんだな


「で、そのシュレヒト殿下の息がかかった部下が送り込まれた真意は何だと思いますか?」

「余り考えたくは無いが君の事が殿下の耳に入った可能性が高い」


 ですよね〜そうでなきゃわざわざそんなの送り込んで来ないよな


「つまり目的はハーフエルフのオレを捕獲する事ですか?」

「だろうな、それ以外考えられん

 そうなると部隊内の誰かが情報を漏らした事になる

 つまり内通者が居ると言う事だ」


 オイレさんは苦渋の表情を浮かべながらそう言った


「……目星は付いているんですね?」

「ああ、残念ながらな

 君の素性を知っているのは私ともう一人

 ……副官のガルテンだけだ」


 そんな、ガルテンさんが……


 気が付けば宴の場は静まり返り全員オレとオイレさんの話に耳を傾けていた


「リオンどうする、今の内に村を出るか?」

「父さん……いや、掃討作戦が終わるまで残るつもりだよ」


 逃げ出したところでどうせ追手が掛かる

 相手は第二位とは言え王位継承権を持つ人物だ、何処へも逃げられやしない

 ならばどうする、いっそ死んだ事にでもするか?

 掃討作戦中に大毒蜘蛛にやられて死ぬか行方不明になった事にすればもしや……


 何れにせよ一度ガルテンさんと話をしてみないと

 本当にあの人が内通者なのか、だとしたらなぜそんな事をしているのか確認したい

 

「オイレさんお願いが有ります

 掃討作戦にオレも参加させて下さい

 そしてガルテンさんと同じ部隊に入れて下さい」

「本気か?むざむざ相手の懐に飛び込むと?」

「はい、オレにはガルテンさんが悪い人とは思えないんです、きっと何か理由が有るんじゃ無いかと」


 オレの言葉を聞いたオイレさんは暫く思案した後、一つため息を吐く


「解った、だが無茶はしないで欲しい

 君の身に何か有れば悔やんでも悔みきれない」

「それは大丈夫です、オレはこう見えてもしぶといんで」


 そう、オレは死んでも転生して蘇る位しぶといんだ


「私も一緒に行く」


 隣の席で黙って聞いていたレイカが突然立ち上がり口を開く

 

「レイカ……」

「私がリオン君を守る、何が有っても

 だからお願い、私も連れて行って」


 真っ直ぐオレの目を見てそう言い放つレイカの表情からは強い意志が感じられる

 ここで無下に断ってもコッソリ着いて来るかも知れない、だったらいっその事最初から一緒にいた方が……


 いや、そうじゃ無いな

 オレもレイカと居たい

 片時も離れず側に居て欲しい


 左手の指輪がキラリと光った気がした

 そうだ、あの時誓ったじゃ無いか

 オレとレイカは二人で一つなんだ

 だったら何も悩む必要は無い


 オレも立ち上がり正面からレイカの目をしっかり見据え言う


「レイカ、オレを守ってくれ

 オレも全力でレイカを守る」

「うん!」


 相好を崩したレイカがオレの胸に飛び込んで来た

 それに応え強く抱き締める

 レイカの体温が伝わって来る

 緊張からか指先は少し冷たくなっていた

 それを暖める様に手で包み込みお互い見つめ合う


「オホン、うむ夫婦仲が良いのは良い事だが来客中だぞ?」


 あ、そうでした


「あらあらまあまあ」


 母さんは凄い嬉しそうですね


「ちゅーするのか!」


 マルモア、そんな期待に満ちた眼差しで見られても、今はしません!


「……」


 ザフィーアさん無言でニヤニヤするのやめて! せめて何か言って!


「あぁ、私にもいつか……」


 え! オイレさん今なんと?


 レイカも今の状況に気が付き真っ赤になってモジモジし始める


「リ、リオン君」

「あ、うん」


 二人で大人しく席に着く

 メッチャ恥ずかしい


「さて、話も纏まった様だし私は隊へ戻るとしよう、明日の小隊編成も考え直さなければならんしな」

「よろしくお願いします、オイレさん」

「では明朝日の出前にキャンプへ集合だ

 くれぐれも遅れない様、程々にな」


 なっ!何をですかオイレさん!

 って言うかオイレさんの口からそんな言葉が飛び出すとは思ってもみませんでした


「では失礼させて頂きます、皆様明日は宜しく御願いします」


 オイレさんは胸に手を当て優雅に一礼するとキャンプへ戻って行った


「じゃあワシらも戻るわい、むこうさんでテントを用意してくれてるんでな」

「そうか、では作戦が終わったらまた飲み明かそう」

「はっ! 下戸がほざきおる」

「下戸では無い、お前の様に馬鹿みたく飲まんだけだ」

「何だと小僧!」

「何だ! 老いぼれ!」

「ハイハイ、馬鹿やって無いで帰るよ

 じゃーねフィオーネ」

「はい、また明日」

「バイバイなのじゃ!」


 フェルゼンさんはまだ何か父さんに向かって喚いていたがザフィーアさんに引きずられ帰って行った

 

「オレ達も帰るよ」

「そうか、明日は大丈夫そうか?

 何なら俺も同じ隊に入って……」

「いや、オレ達だけで何とかするよ」


 そう、これは自分達の力で乗り越えなければならない、今後も一生付き纏う試練なのだから

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