大毒蜘蛛掃討作戦-1

村に帰ってから二週間が過ぎた頃オイレさんが率いる地方守備隊が到着した

 オイレさんを筆頭に掃討部隊員33人プラスフェルゼンさん、ザフィーアさん、それにマルモアの総勢37名

 今は森の入り口で拠点となるキャンプを設営中である


 オイレさんとフェルゼンさん達は父さんに会いに来る事になっていたのでオレとレイカも実家で待機していた

 待っている間は父さんに稽古を付けて貰う

 レイカは母さんと一緒に客をもてなす準備中だ


「父さんフェルゼンさんとは久しぶりなんだろ?」

 

 前方への踏込みと共に剣を上段から振り下ろす


「ああ、20年ぶりと言うところだな」


 ギャン!と重い物同士がぶつかる音を立て振り下ろした剣は父さんの剣で軽くいなされる

 返す刀で胴を薙に行くがバックステップで躱された


「昔殴り合いの喧嘩したんだって?」


 一度剣を引き切っ先を正面に構え突きを繰り出す


「あれは喧嘩では無く話し合いだ、その証拠にどちらも生きてる」


 出た! 肉体言語


 父さんはオレの渾身の突きを上半身だけ捻りヒラリと躱すと下から剣をかち上げる

 剣先は空を向かされオレは無防備な胴体と首を晒す

 父さんの持つ剣の先端がオレの喉元から数ミリの所へピタリと突き付けられた

 今回もオレの完敗である


「まだまだだな、攻撃が素直過ぎる」

「ふぅーやっぱり父さんには敵わないな」

「そんな事は無い、お前は十分強い、自信を持って良いだが慢心はするな」

「はい父さん」


 タオルで汗を拭き水筒から水を飲んでいると複数の足音が聞こえて来た

 どうやらオイレさん達がやって来た様だ


「おう! 久しいな! グラムス

 まだ生きてやがったか」

「それはこっちのセリフだ老いぼれ!」


 憎まれ口とは裏原に満面の笑みを浮かべた二人ががっしりと握手をする


「やれやれ、男ってのは挨拶も素直に出来ないのかね〜」

「リオン! 来たのじゃ!」

「ザフィーアさん、マルモア!

 よく来てくれました、歓迎します」


 あれ? オイレさんの姿が見えないな


「オイレさんは一緒じゃ無いんですか?」

「ああ、何か用事が有るとかで遅れて来るみたいだよ」

「そうですか、取り敢えず中へどうぞ

 母さんも待っています」


「どうした?グラムス衰えたんじゃ無いか?」

「ほざけ小僧その腕へし折ってくれるわ」


 気が付けば父さんとグラムスさんはいつの間にか手四つの力比べを始めていた


「ああなると長いからね

 馬鹿共はほっといて先に中へ案内しとくれ」

「ああ……はい、どうぞ」 


 家の中に入ればおもてなしの準備は万端

 テーブルの上には母さんの料理が所狭しと並べられていた

 少量では有るがちゃんとお酒も用意されている


「ザフィーア、いらっしゃーい」

「お久しぶりです」


 ザフィーアさんとマルモアを笑顔で迎える母さんとレイカ

 

「久しいね、あんたは何時迄も若々しくて羨ましいよ」

「ザフィーア、お元気そうで何よりです

 あなたがマルモアちゃんね、お母さんそっくりでとても可愛らしいわ」

「初めましてなのじゃ!」


 長身の母さんは屈ん目の高さを合わせ、優しい微笑みを浮かべながらマルモアの頭を撫でている

 母さんマルモアはそんななりでも二十歳だって知ってるよね?


「その言い方だとアタイまでカワイイって言われてるみたいだね〜」

「あら、あなたはとても可愛らしい方ですよ? 表面的には粗野で暴力的に見えますがとても女性らしい一面も持ってます

 特に旦那様に甘える時などこちらが顔を赤らめてしまう程甘々で情熱的でらっしゃったでは無いですか」

「なななな何を言ってるんだい! あんまりからかうもんじゃ無いよ!」


 顔を真っ赤にしながら母さんの言葉に動揺を隠し切れないザフィーアさん

 母さんに掛かると流石のザフィーアさんも形無しだ

 しかしザフィーアさんがフェルゼンさんに甘える所ね〜

 イマイチ想像が出来ない


 母さんもからかっている訳では無く本心で言っているんだろうけど、そう言う素直な反応をする所も可愛いと思われてるんじゃ無いかな?


「フッフッフッやるじゃ無いかフェルゼン

 久しぶりに本気の10分の1程力を出してしまったぞ」

「フンッ! 負け惜しみを言うな!

 貴様全力だったでは無いか! 平和ボケしおって!」


 力比べに決着が付いたのか父さんとフェルゼンさんも入って来た

 結果は敢えて聞かないでおこう、どうせどっちも負け認め無さそうだし


「おや馬鹿共、終わったのかい?

 で? どっちが勝ったんだい?」


 ザフィーアさん聞いちゃったよ……


「「俺(わし)だ!!」」


 ほらやっぱり


「あーん? どう考えてもわしじゃろうが!」

「どこがだ! とうとうボケたか!」


 ガシッと手を組み合い、またもや力比べの体勢に入る二人

 おいおいここで二回戦を始める気かよ


「貴方達? い・い・か・げ・ん・に・し・な・さ・い・ね」


 あ、母さんが笑顔でキレてる、当事者じゃ無いけどメッチャ怖い

 母さんの背後に黒いオーラが見える気が……

 母さん闇魔法使えたっけ!?


「「ハイ」」


 流石の二人も大人しく席に着く

 実は母さん最強説か?

 

 ザフィーアさんはそのやり取りを見てゲラゲラ笑っている

 こうなる事知っててわざと話を振ったんだろうね

 後マルモアは青ざめた顔で母さんを見ているし、レイカは明後日の方を向いて黙々と台所で片付けをしている

 黙って嵐が通り過ぎるのを待っている様だ


「マルモア平気か?」

「リオンの母上怖いのじゃ」

「大丈夫大丈夫、普段は優しい人だから

 怒らせなければね」

「覚えておくのじゃ……」


 コンコンっと全員やっと落ち着いた辺りでドアをノックする音が響く

 オイレさんかな?

 オレは席から立ち玄関のドアを開けるとやや緊張の面持ちのオイレさんが立っていた

 

「オイレさんいらっしゃい、中へどうぞ」

「あぁ、お邪魔させて頂く」


 中へ入ると真っ直ぐ父さんの側へ行き片膝を付いて頭を垂れるオイレさん


「お初にお目に掛かります、グローシュタッド駐屯軍地方守備隊で指揮を任されて居りますオイレ・フォーゲルと申します

 この度はお目通り頂き感謝いたして居ります」


 まるで国王陛下と謁見でもしている様な態度に一同唖然とする

 一番戸惑っているのは言われた父さんだ


「ああ、いや先ずは立ってくれ

 俺にはそこまでされる覚えは無いぞ」

「いえ、その様な事は

 『英雄』殿には恐れ多くその様な不躾な態度は取れませぬ」


 そう言いながらますます頭を下げてしまうオイレさん


「このままでは話も何も無いぞ

 良いから席に着いてくれ、頼む」


 とうとう父さんまで頭を下げる始末

 それを見たオイレさんは慌てて立ち上がり腰を折る


「も! 申し訳有りません! お顔をお上げください、席に着かせて頂きます」


 オイレさんもやっとこさ席に着いてくれた

 この人ホントに真面目だな〜

 いやそれとも英雄と呼ばれた人に会う時はこれが普通なのか?


「では全員揃った所で乾杯といこう

 旧友との再会と地方守備隊の到着に

 乾杯!」

「「「「「「乾杯!」」」」」」

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