カンナとレイカ

「カッ、カンナ先輩!」


 やっぱそうか、レイカから先輩の話は過去何度か聞いていたし、あの見慣れた格好を見れば嫌でも見当が付く


「先輩どうしてここに・・・・」

「アンタね〜随分長いこと連絡も無しに滞在して、あまつさえ何、結婚までしたって言うじゃ無いの、経費も随分嵩んでるみたいだしそりゃあ様子も見に来るでしょ?普通」

「うっ……」


 あ〜そりゃごもっともだな


「取り敢えずアンタたちは服を着なさい

 目の得、毒だから」

「「はーい」」


 服を着て部屋を片付け、乱れまくった寝室のドアを閉め、カンナさんを家に招き入れる頃には夜もすっかり明けていた

 

 3人揃ってテーブルに着くとカンナさんは懐からファイルケースとタブレットを取り出しテーブルの上に広げる

 どこに入ってた? それ


「お茶入れますね!」

「良いから座ってなさい」

「ハイ」


 逃げる様に席を離れようとしたがあえなく阻止されるレイカ

 無駄な抵抗は止めとけよ……


「さて、先ずは現状確認から

 結婚したってのは本当?」

「はい……」

「相手は彼って事で良いのね?」

「はい、そうです……」

「彼の事は本気?」

「勿論です!愛してます……」

「そっちの彼は?」

「オレも本気です、レイカの事を心の底から愛しています」

「リオン君……」


 ここでカンナさんは一旦手を休め大きな溜息を付く


「レイカ、規則は知ってるでしょ?

 『いかなる場合でも観察対象に特別な感情を持ってはならない』って

 接触も原則禁止、して良いのは対象が規定違反を侵そうとした時だけ

 つまり自ら命を断とうとした時だけよ」

「はい……規則は知ってます」

「つまり解ってて破ったと?」

「……」


 レイカは俯いたまま肩を震わせポロポロと涙をこぼし始める


「ちょっと!やだ、泣かないでよ……

 アナタを虐めたくて言ってる訳じゃ無いんだから、あくまで事実確認なのよ?」

「ゔぁい、ごべんなざい」


 既に涙腺は決壊し号泣のレイカはしゃくり上げながら謝るばかりだ

 そんなレイカにカンナさんは席から立って近づくと、そっと頭を胸に抱き寄せる


「ごめんなさいね、ちょっと言い方がキツかったわね

 許してちょうだい

 ほら泣かないのよしよし」


 レイカの頭を撫でながら落ち着かせようとするカンナさん

 暫くそうしているとレイカも落ち着き、鼻をぐずらせながらも何とか泣き止んだ

 

 レイカの狼狽っぷりから最初は怖い人かと思ってたけど、実は優しい後輩思いの人っぽい、死神って良い人ばっかなの?


「アナタ達の気持ちは解ったわ、上には私の方から適当に報告して置くから心配しないでね」

「えっ!それってどう言う……」

「レイカは真面目にやってます、何の問題も有りませんってね」


 カンナさんは口に人差し指を当てお茶目にウインクをしながらそんな事を言う

 レイカ良い先輩を持ったな!


「まあ元はと言えばアナタの気持ちを知りながら彼をアナタに押し付けたり、監察官の任務を交代したりした私にも落ち度は有るしね」

「そんな!先輩は何も悪く有りません!

 私が無理矢理……って知ってた!?」

「そりゃあ気付くでしょ、あれだけ熱心に彼の事観察しては顔赤らめたり、ため息付いたりしてりゃ」

「あうぅ……」


 顔を真っ赤にして小さくなるレイカ

 どうやら気付かれて居ないと思っていたらしい

 レイカのポン子っぷりは昔からの様だ


「カンナさん、もしかしてレイカの気持ちに気付いてたからこそ、わざとオレの担当を押し付けたんじゃ無いですか?」

「あ〜まあね」

「規則違反を犯す事も承知で?」

「はは〜君には敵わないな」


 困った様な笑みを浮かべオレの言った事を認めるカンナさん


「まあ良いじゃない

 死神と人間が結ばれて幸せに過ごす

 そんなハッピーエンドの物語が有ったって」

「せ、せんぱい〜」


 ほんまええ人やで


「じゃあそっちの話はこれで終わりね」


 カンナさんはファイルケースから紙束を取り出しテーブルにバサッと置く


「じゃあ次は経費の話し、しよっか」

「ひっ!」


 今までとは打って変わって凄みの効いた笑みにビビるレイカ

 うん、まあ怒られとけ



 カンナさんにコッテリと絞られたレイカはフラフラになりながらも昼食の準備を始める

 そんな姿を後ろから笑顔で見守るカンナさん


「リオン君、だっけ?あの子のどこに惚れたの?」

「あ、え〜と笑顔が可愛いとこかな

 後オレの事を一番に考えてくれるとことか」

「ふーん……オッパイじゃ無いのね」


 ゴフッ!


「あ〜らやっぱりオッパイ?

 あの子の凄いもんね〜女の私が見てもドキドキしちゃう」


 身体をクネラセそんな事を宣うカンナさん

 勘弁して下さい、確かにレイカのは凄いけど彼女の魅力はそれだけじゃ無いんだよ? ホントだよ?


「先輩! セクハラですよ!

 それからそう言う話しはせめて本人のいない所でやって下さい!」

「あははは〜ゴメンゴメン

 お! 美味しそうじゃ〜ん」


 プリプリ怒りながらもテーブルに並べられる料理は、お客さん用かいつもより少し豪華だった


「って言うかレイカさー生活必需品を経費で落としちゃダメでしょ!

 大体パンツ買いすぎよアンタ」

「ななな何で知ってるんですかー!」


 真っ赤になりながら慌てふためくレイカ

 何買ってるかバレてんのかよ


「備品のタブレットから購入してるんだから全部記録に残ってるわよ

 パンツ位現地調達しなさい!」

「だってあんまりカワイイの無いんだもん」

「同じ女として気持ちは解らないでも無いけどさ〜

 どうせ彼に見せるためでしょ?」

「ブッ!」


 オレにまで流れ弾が……

 確かにカワイイ下着の時はいつも以上に頑張っちゃうけどね! だって男の子だもん


「そ、そんな事!……有ります」


 あっさり認めちゃったよ

 レイカさんや、もう少し頑張って否定してもええんやで?


「ハイハイごちそうさま

 彼氏君愛されてるね! 羨ましい♪」



 和やかな(?)食事も終わりカンナさんが席を立つ


「さて、じゃあそろそろお暇しようかな」

「えっ! もう少しゆっくりして行って下さい」

「そうです、折角なんですから

 なんなら泊まって行ってくれても」

「新婚さんの家に長居する程野暮じゃないのよ、それにこれでも仕事で来たんだから帰って報告しなきゃ」


 そう言うとカンナさんはサッサと帰り支度を整えて玄関へ向かう


「今度は仕事抜きで遊びに来るね」

「はい、待ってます!」

「あ、そうだ」


 カンナさんがチョイチョイっとオレを手招きする、なんだろ?

 近づくとガシッと肩を組まれ耳元で囁かれる


「レイカの事頼んだわよ

 私の可愛い後輩泣かしたら許さないから」

「肝に銘じておきます」

「よろしい」


 それだけ言うとオレを解放しパッと手を上げレイカを振り返る


「じゃあ元気で」

「はい、先輩もお元気で」


 別れの挨拶が済むとカンナさんの姿はその場からかフッと掻き消えた

 

「良い人だったね」

「うん、自慢の先輩」

「あんまり迷惑掛けんなよ?」

「えへへ〜

 それはそうと最後何話してたの?」

「ん〜ナイショ」

「え〜なにそれ〜教えてよー」

 

 太陽の様な笑顔でじゃれついてくるレイカ


 カンナさん、オレはレイカの笑顔を絶対守って見せるよ!

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