オレとレイカの初冒険

 案の定いくばくも進まない内に日が傾き始める。

 今日は早々にキャンプを張る事になりそうだ。

 急ぐ旅では無いので一泊増えたところでどうと言う事は無いしな!


 それはそうと余り暗くならない内に手頃な場所を探しキャンプを設営しなければ。

 食糧の確保や焚火の燃料集めとやる事は多い。

 初心者二人なので準備にも時間が掛かるだろう。


 村からグローシュタッドまでは大きな川が続いている。

 古くから村の生活を支える大切な川だ。


 村の主な産業は林業である。

 切り出した丸太でイカダを作りそのまま街へ川を下って運び入れる。

 街でイカダをバラし木材として売り払い、戻りは徒歩で帰る。

 川の流れは穏やかで歩くのと然程変わらない速度しか出ないが、陸路での輸送に比べれば大幅に輸送の手間を省く事が出来る。

 これが村で行われている商売の方法である。


 当然輸送中に夜を迎えれば川岸に一旦イカダを留め野営をする事になる。


 つまり川岸には普段から野営地として使用する場所が数カ所存在しているのだ。

 上手くそこにたどり着ければ比較的整った環境での野営が出来たのだが、今日に限っては進んだ距離が少な過ぎる。

 この距離では流石にまだ野営地は存在しない。

 取り敢えず川岸まで行き適当な場所を探す事にする。


 川岸は木々が少なく見通しが良いため、万が一襲撃に遭った場合も発見が容易だ。

 またオレのメイン武器は大型の両手剣なので周りに障害物が有ると最悪使い物にならなくなってしまう。

 そんな理由から選んだ場所だが、襲撃者が飛び道具や魔法を使って来た場合は身を隠す場所がほとんど無いと言うデメリットも存在する。

 なので野営の際は交代で休憩し必ず見張を置く。

 見張は焚火の番も行い火を絶やさない様にする。

 火が有れば獣の類に襲われる危険がグッと下がるからだ。


「よし、この辺にするか。

 オレはテントを立てるから、レイカは薪を集めてくれ」

「了解ー」


 オレはなるべく手早くテントを設営する。

 オレのテントは大型で大人3人が中で寝る事が出来るが、二人旅なので基本寝るのは一人だ。

 なので寝袋を広げるスペースを確保すればそれ以外の荷物を全てテント内に入れる事が出来た。


 テントの設営が終わる頃レイカが両手一杯の薪を抱えて戻って来る。


 その薪をナタで適当な大きさに切り魔法で火を付け焚火を起こす。

 やはり少々手間取ってしまった為食糧を集める時間は無く今日は保存食で我慢だ。

 時間が有れば川で魚を捕まえたりも出来たのだがそれはまた明日以降だな。

 初日はまあこんなもんだろう。


 食事の後は特にやる事も無い。

 明日に備えて早めに寝るか? と考えていたが……

 待てよ? そういや前々からやってみたいと思ってた事が有ったんだ。


「レイカ、風呂入りたく無いか?」

「えっ! お風呂!?

 そりゃ入りたいけどこんな所でどうやって?

 温泉でも湧いてるの?」

「いや作るんだ」

「?」

「まあ見てろ」


 この世界に風呂に入る習慣は無い。

 桶に水かお湯を汲み布で身体を拭くのが一般的。

 川や湖で水浴びをする事も有るが風呂とは意味合いが違って来る。

 なのでオレは風呂を作れないかと以前から考えていた。


 手始めに浴槽を作る。

 土魔法で地面を陥没させ、土肌の表面になるべく隙間が出来無い様に石を浮かび上がらせる。


 次に水魔法で浴槽に大量の水を注ぎ込む。


 最後に火魔法で水を直接燃やして温める。

 水を燃やしても直ぐに鎮火してしまうが、熱は蓄えられ結果お湯になる。

 本来燃えるはずの無い物にすら火を付ける。

 上級魔法まで修めたオレだからこそ出来る技だ。


 それなら普段から簡単に風呂へ入れるだろうと思われそうだがそうもいかない。


 何せ燃えない物を大量に燃やすのだから魔力も当然大量に消費するし、人目も有ればやり難くもなる。

 レイカの家に越したらきちんとした風呂場を作らせて貰おうと割と本気で考えている。


 適温まで温め風呂の完成。


「レイカ先に入って良いぞ」

「えっ……えーと」

「どうした?」

「外で服を脱ぐのはちょっと……」


 風呂に入りたいとは言ったが、いくら周りに人の目が無いとは言え外で素っ裸になるのは流石に抵抗が有るか。


「大丈夫、オレしか見てないよ」

「そうかもだけど……」


 頬を赤らめモジモジするばかりで拉致があかない。

 こうしてる間にもお湯はどんどん冷めていくのだ。


「じゃあ、オレが先に入らせてもらうよ」


 言うが早いかポイポイと身に付けてる物を脱ぎ捨てサッサと湯に浸かる。

 オレだって入りたくてウズウズしてたのだ。


「ふぃ〜〜〜」


 思わず声が出てしまう位気持ちが良い。

 足を伸ばして肩まで浸かれる広さ。

 熱すぎずぬる過ぎずの湯温。

 完璧だ、控え目に言ってオレ天才じゃね?


「ヤバイすげー気持ち良い……

 明日も作ろう」


 思いっきり気持ちよさそうにして見せてやる。

 それでもしばし葛藤していたレイカだったが……


「あーもう! 私も入る!」


 衣服を脱ぎ捨てオレの横に滑り込んで来た。


「あ〜〜〜気持ち〜〜〜」

「だろ? 作った甲斐が有ったぜ」


 すっかり惚けた表情のレイカ。

 そこでオレは有る事に気付く。


「あ〜凄い〜〜〜」

「ああ……ホントに凄いな」


 オッパイは水に浮くって都市伝説じゃ無かったんだ……


 翌日。

 レイカを起こしキャンプを畳む。

 その日は早くから行動出来たので距離を稼げた。

 野営地を見付ける事も出来たので今日はそこに泊まる。

 野営地には簡単な小屋が建てられているのでテントを張る必要も無い。

 食事は川で魚を取る事が出来たので、それを焼いて食べ昨晩同様風呂を作り二人で入る。

 レイカの抵抗感も随分薄れたようだ。


 小屋のドアには内側から鍵を掛ける事が出来るので今日は二人揃って寝られる。

 そうなると自ずとやる事は決まってくる。

 何せ『頑張る』と約束したのだから。


 寝袋を二つ並べて1つに潜り込むとレイカがオレと同じ寝袋に体を捻じ込んできた。


「おいおい狭いだろ?」

「そう? こうやってピッタリくっ付けば平気だよ?」

「寝れるかな〜」

「あら、私を放って置いて寝るつもり?」

「滅相もない」


 風呂に入ってる時からちょこちょこチョッカイを出しておいたお陰で、すっかり準備は完了している。

 なんだかんだでレイカもその気満々だったのだ。


 その後は、まあ。昨日出来なかった分タップリ可愛がってあげました。


 二人ともいつの間にか寝ていたので結果的に寝袋は一つで足りた。


 翌朝は朝風呂と洒落込む。

 昨日作った風呂をもう一度温め直し身体を清めてからの出発とした。

 朝から大量に魔力を使って平気なのか? とも思うが、母さん曰くオレの魔力量は常人とは桁違いらしく全く苦にならない。

 赤ん坊の頃から『努力』したおかげだ。


 その後の行程も何事も無く消化し。

 トラブルらしいトラブルも無く4日目の昼過ぎには無事グローシュタッドへ到着する事が出来たのだった。

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