オッサンの初冒険

お使いと言う名のハネムーン

 窓から差し込む日の光が眩しくて目が覚める。

 身体を起こそうとすると左腕が痺れて動かない。

 横を見るとレイカがオレの腕を枕がわりにしてスヤスヤと眠っていた。

 体にもしっかり腕を巻き付かせているので身動きが出来ない。


 ちょっとした悪戯心でそっとレイカの被っている布団をめくると生まれたままの姿が目に飛び込んでくる。


 やばい朝から刺激的過ぎだ。

 昨晩あんなにシタのにちょっと元気になっちまった。


 昨日の事を思い返す。

 オレ達夫婦になったんだな〜

 でも結婚式を挙げた訳でも婚姻届を出した訳でも無いけど、正式な夫婦って認められるの?

 その辺は帰ったら父さんにでも聞いてみよう。


 その後の行為の事も思い出す。

 お互い歯止めが効かなくなり気が付けば明け方近くまで激しく求め合ってしまった。


 レイカって結構情熱的なんだな……

 乱れてる彼女は、その、なんて言うか、とってもエロかったです。


「ん、ん……」と言いながらレイカが身動ぎした。

 目がぱちっと開いてオレの顔をボンヤリ見つめて来る。


「おはよう、レイカ」

「あ〜リオン君だ〜おはよ〜」


 どうやらまだ寝惚けてるらしい。

 ここは一つ頭をハッキリさせる為にと、キスをする。

 古来より眠り姫を起こすのは王子様のキスと相場が決まっているのだ。


「ん……んん」


 レイカは何の躊躇いも無くキスを受け入れ、それどころかオレの首に手を廻し舌まで絡めて来る。


 これじゃあ、どっちがキスされてるかわかんないな。


 名残惜しいがそっと唇を離す。


「お早う眠り姫、目は覚めたか?」

「うん、おかげですっかり」

「そろそろ起きようと思うんだが?」

「もう少しこうしてちゃダメ?」


 その上目遣いは反則だ、断れる訳無いじゃないか。


「構わないが、ほらなんて言うか、そんな格好で抱きつかれていると元気になっちゃうって言うか、我慢出来なくなるぞ?」

「私は……良いよ?」


 結局その日は昼過ぎまで一緒にベットで過ごした。

 何をしていたかは想像に任せる。


 朝昼兼用の簡単な食事を済ませた後オレは一度家に戻る事にした。

 今後の事を両親とはきちんと話し合っておきたいのだ。

 オレはレイカと暮らしたい。

 だから家を出てレイカの家で一緒に暮らす事を考えていた。


 家に着くとやたらツヤツヤした母さんと若干やつれ気味な父さんに向かえられる。


 貴方達、有言実行ですか?

 母さんは兎も角父さんは元気過ぎない?

 生涯現役と普段から豪語してるけど60過ぎてるんだから余り無理しないで欲しい……

 まあ言っても無駄だろうけど。


 それより2人が揃っていたのは丁度いい、今後について話してしまおう。


「実はh「ちょっとお使いを頼まれてくれないか?」


 そう決意し話始めようとしたところで父さんに割り込まれた。


「ん? 何か言ったか?」

「あ、いや後で良いよ。

 それよりお使いって?」

「先日の大毒蜘蛛ジャイアントスパイダー騒動の報告書を提出してきて欲しい」


 そう言って父さんは封書にしたためた報告書を出してくる。


 報告書自体はオレが書いたが最後に父さんにも署名してもらっている。

 それなりに名の通った人物の署名が入っていた方が、多少は動きも良くなると言う父さんの案からだ。


 提出先は村から徒歩3日の距離に有る都市『グローシュタッド』

 そこに有る地方守備隊の窓口だ。


「それからこれは旅の費用だ」


 そう言って大小二つの革袋を渡して来る。


 大きい方の革袋には銀貨と銅貨、小さい方には金貨が入っていた。


 この世界の貨幣換算は、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚と言う馴染み易い十進法が使われている。

 価値的には銅貨1枚が100円程度っぽいが、物価自体は然程高く無いので前世とは若干貨幣価値が違う。


 安宿素泊まりで大体銀貨3枚と父さんが言っていたのを聞いたことが有る。


 ランチなら銅貨3枚も払えばたらふく食えるし、ちょっとしたディナーでも銀貨1枚ってところらしい。


 また市場流通ではほとんど目にする事は無いが、金貨100枚に相当するゴールドバトンと呼ばれる物も存在する。

 その名の通り円柱形の金で出来た棒だ。

 まあ普通に生活していればお目に掛かる事はまず無い代物である。


 今回旅費として用意してくれたのは、銅貨30枚、銀貨15枚、金貨5枚である。


 向こうで一日滞在したとしても、往復7日程度の旅費にしては些かというかかなり多い。


「父さん、多くない?」

「向こうでの用事が終わったら1週間程2人でゆっくりしてこい」

「2人で?」

「なんだ1人で行くつもりだったのか?」

「えっと、じゃあ……」

新婚旅行ハネムーンに行ってこい」


 父さんはそう言うとニンマリ笑う。

 そうか、お使いはあくまで口実で新婚旅行が本命か。

 こりゃあ父さんと母さんには暫く頭が上がらないな。


「向こうに着いたら『虹色亭』と言う宿を探しなさい。

 大通りに面した場所に有るから直ぐに見つかるだろう。

 宿の主人にこれを見せれば多少の便宜を図ってくれるはずだ」


 そう言ってもう一通手紙を差し出してくる。


 至れり尽くせりとはこの事だな〜


「有難う父さん、母さん」

「なに気にするな。

 お前達の為にしてやれるのはこの位だ」


 充分だよ……


「お前は何も心配せずさっさと孫の顔でも見せてくれればそれで良い。

 じゃ無いとお前の弟か妹の方が先になってしまうぞ!」


 そう言いながら豪快に笑ってる。

 うかうかしてると本当にそうなりかねないなこりゃ。


 その後は明日の朝出発する事とし、旅支度を済ませ荷物を背負ってレイカの家に向かう。

 今日はレイカの家に泊まってそのまま出発する算段だ。

 レイカにも事情を話して準備させなければならない。

 荷造りで右往左往するレイカの姿が目に浮かぶ。

 旅とかした事無さそうだもんな〜



「新婚旅行!」


 オレの話を聞いたレイカはえらく興奮気味だ。

 やはりそう言うのに憧れが有ったらしい。

 だったら結婚式もやった方が良いんじゃ無いかと言ったが、こちらにはそう言った風習は無いらしい。

 やるとしてもお互いの親族が集まって内々でってのが多いとの事。

 ああ、昨日やったわそれ。


「でもお義父様とお義母様に随分お世話になっちゃった。

 何かお返ししないと……」

「さっさと孫の顔見せてくれってさ」


 何気無くそう言うとレイカの表情が先程までの幸せそうなものから一変する。


「私死神だから……

 きっと子供とか作れないと思う。

 ……ごめんねリオン君」


 ごめん、と何度も繰り返しながら泣き出しそうな顔をしているレイカの頭にポンっと手を乗せ、髪の毛をクシャクシャと撫で回す。


「なななななにをリオン君!」

「オレのスキルを忘れたのか?

『頑張れば何だって出来る』だぞ?

 子供の1人や2人作れない訳が無い!」


 我ながら無茶な事を言ってる気もするが、そんな事はこの際部屋の隅にでも置いとく。

 子供を宿す器官がレイカの身体に備わってるかもわからない。

 でもオレには神様から貰ったスキルが有るんだぜ?

 自然の摂理なんざぶっ飛ばしてやるさ!


 オレの言葉を聞いて暫く呆然としていたレイカも少し元気になったのか、笑顔を浮かべながら抱きついてくる。


「じゃあ早速『頑張って』貰おうかな?」

「おいおいその前に旅の支度を終わらせないと」

「じゃあその後でね!」


 旅の支度は割とアッサリ終わった。

 案の定必要な物を何一つ持っていなかったレイカは、例の天界通販とやらで『冒険者基本パック -ビギナー編-』と言うのを購入し明日の朝一で届く様に手配していた。

 何でも有るんだな天界通販……


「じゃあ約束ね!」


 今夜も長い夜になりそうだ……

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