16歳の誕生日

 早いものでオレもこの世界に生を受けて16年。

 今日誕生日を迎える。

 この世界では16歳で成人と認められる。

 オレも一人前として扱われるのだ。


 成人すると何が出来るか?

 言ってしまえば何でも出来る。

 そして行った事全てに置いて責任が生まれる。

 それだけの事だ。


 もう少し突っ込んだ話をすれば、居住地へ奉仕する義務が発生する。

 奉仕の形は様々だが、主は労働力を提供するか税金を収めるか。

 大体そのどちらかになる。


 この村の場合労働力で外貨を稼ぎその一部を村へ還元する形だ。

 木を切り木材を売っても良し、野菜を育てても良し。

 そしてもう一つ。

 父さんの様に村を外敵から守る事も立派な奉仕となる。


 オレは成人する直前に父さんが出した課題を見事クリアーしたので、今後は父さん同様村を警護する任に就く事が出来る。


 とは言え外敵が頻繁に現れる訳でも無いので、結局普段は木こりをする事になるのだが。


 そして成人すると出来る事がもう一つ。

 家族を持つ事が出来る。

 そう、結婚する事が出来るようになるのだ。


 今日は家でオレの誕生日と成人を祝う事になっている。

 もちろんレイカも招いてだ。


 オレは今日1人の男としてケジメを付けるつもりだ。


 昂る気持ちを抑えるため庭先で素振りに励む。

 無心で振っていれば気が付くと夕食時だ。


「今日も精が出るね〜リオン君」


 いつから居たのかすぐ側にレイカが立っていた。

 今日のレイカはいつものダブダブローブでは無く黒い外套を羽織っている。

 アイデンティティ云々は何処へ行ったのやら。


「エスコートはしてくれないのかな?」

「お手を此方へお姫様」


 冗談めかして言ってきたのでこちらもそれに合わせて返してやる。

 レイカは赤みがかった顔でオレの腕に抱き付いて来た。


 照れる位なら変な事言わなきゃ良いのに。


 相変わらず凶悪なオッパイの圧力を充分過ぎる程腕に感じながら家の中へ招き入れた。


 食卓には既にディナーの用意が整っている。

 今までで一番のご馳走だ。


 レイカの外套を預かる。

 外套の下はいつかとち狂って着て来たドレスだった。

 あの時は場違いな格好としか思わなかったが今日は違う。

 レイカの可憐さを一層引き出してくれている。


 おっといけない思わず見惚れちまった。


 そんなレイカと目が合うとニコッと微笑み返してくれる。

 やべ惚れ直しそう……


 椅子を引いてレイカを座らせ自分も隣の席に着く。

 そんなオレ達を両親は温かい目で見守ってくれていた。


 格好付けるのって結構恥ずかしいもんだ。

 それが両親の前でなら尚更だ。

 しかし今日だけはバッチリ決めさせて貰うぜ。


 全員席に着いたところで父さんがグラスを掲げる。


「リオン、成人おめでとう。

 そして俺の後を継ぐ立派な冒険者である事もここで宣言する。

 お前は一人前だ」


 父さん……


「リオンおめでとう。

 私からも、貴方が私の教えた全ての知識を恙無く修め、立派な魔法使いになった事をここで宣言します。

 貴方は一人前です」


 母さん……


「ではリオンの成人を祝して! 乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 和やかなムードの中食事が始まり、皆母さんの手料理に舌鼓を打つ。

 やはり母さんの作る料理は最高だ!

 今日から解禁となった酒も美味いが程々にしておこう。

 この後大事な用事が有るからな!

 しかしタイミングが難しい。

 出来ればレイカと2人っきりなりたいところだが……

 いや、いっそ父さんと母さんにも聞いてもらった方が良いのか?

 いやしかし……

 等と、纏まらない考えを巡らせていると父さんが、


「ところで孫の顔はいつ見せてくれる予定なんだ?」


 ブフォッ!


「ちょっとリオン! 大丈夫?」


 盛大に吹き出したオレをレイカが心配しながら口元をハンカチで拭いてくれた。


「ととと父さん何を……」

「ん? お前朝から何か難しい顔をしていたから、いよいよプロポーズでもするのかと思ってたんだが一向にその気配が無いんでな」


 バレバレですか〜


「もうグラムスったら!

 こう言う事はタイミングが大事なのよ!

 それに当人達がその気になるまで見守りましょうって話したばかりじゃない……

 でも実際どうするの?」


 母さん貴方もですか。


 レイカを見ると熟れたリンゴより赤い顔してます。

 でもやっぱり何か期待している様な眼差しも送って来ます!


 えぇ〜オレこの雰囲気の中でプロポーズすんの?

 そりゃあするつもりでしたよ?

 朝からどころか何ヶ月も前からずーーーっと考えてましたよ!

 でもこれってどうなの!?

 あ〜もうグチグチ考えてても仕方が無い!


 オレはグラスに残った酒を一気に煽りレイカの腕を取って立たせる。


「レイカ、ちょっとこっち来てくれ」


 そう言って自室へレイカを連れて行く。


 ドアを閉めレイカをベットへ座らせその前に立つ。


 そして片膝を付き両手でレイカの手をそっと握る。


「レイカ聞いてほしい。

 ずっと前から君に伝えたかった事を今日言わせてくれ。

 あ! さっきあんな事を言われたからとかじゃ無く、本当に今日言おうと思ってたんだ」


 言いたい事がグチャグチャでなかなか纏まらない。

 それでもレイカは優しい笑顔を湛えたまま黙って聞いてくれている。


 オレの覚悟はもう決まっている。今更後には引かない。

 一度大きく深呼吸をして続ける。


「レイカ、5歳の時に言った時からオレの気持ちはずっと変わっていない。

 だから今日改めて言わせてもらう」


「オレが死ぬまでずっと側にいて欲しい。

 それがもし永遠だとしてもオレと一緒に歩み、共に生きてくれ」


 レイカは大粒の涙を流しながらたった一言「はい……」と言って頷いてくれた。


 オレはレイカをそっと抱き寄せキスをする。

 それは今まで幾度か交わして来たキスでは無い。


 それは誓いのキスだった。


 部屋から2人で戻ると雰囲気から察したのか

 父さんはやれやれと言った顔。

 母さんは笑顔で小さく拍手をして出迎えてくれる。

 すげー恥ずかしい。


「さて今日はこの辺でお開きにしよう。

 リオン、レイカを送って行ってあげなさい」


 あれ? いつもみたいに泊まって行けと言うものとばかり思ってた。


 父さんはオレの肩に手を乗せ、


「リオン……

 今日は帰って来なくて良いからな!」


 なななななにお言ってらっしゃるんですかお父様は。


 母さん! 母さんは!?


 母さんを見ると、満面の笑みを浮かべ右手で小さく手を振っていた。


 行ってらっしゃいってか?

 つまり逃げ場無いんですね? 解ります!

 いやオレも男だ!

 それに何を今更ビビる事が有るか。


「じゃあ行ってくる」

「おう! 行ってこい!」

「行ってらっしゃい、しっかりね!」


 何をだよ母さん……


「そうだフィオーネ、息子も一人前になった事だしどうだ? もう1人」

「やだわグラムスったら、もう……アトデネ!」


 だからそう言うのはオレが居ないとこでやってよ!

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