オッサン青年になる
大物喰らい《ジャイアントキリング》
「リオン、姿勢を低く静かにな」
「解ってるよ父さん」
オレは父さんと一緒に森の奥深くに居た。
目的は最近村の近くで目撃される様になった害獣の駆除。
既に何頭かの家畜にも被害が出ており放っては置けない状況だ。
害獣は馬程もある巨大な蜘蛛、ジャイアントスパイダーだ。
性格は至って凶暴。
肉食な上に牙には猛毒が有り一噛みで死に至る。
見た目は狂悪そのもの。
黒くテラテラと怪しく光る体毛の生えた身体、赤く鈍く光る8つの目、8本の脚で見た目以上に素早く動き、背中にはオレンジ色のドクロの様な模様が入っている。
まるで自分には近寄るなと言わんばかりだ。
その大毒蜘蛛がほんの数m先で今まさに捕らえたであろう獲物を捕食しているところだった。
オレと父さんは草木に隠れつつ、風下からなるべく音を立てず慎重に近づく。
奴はちょうどこちらに背を向ける格好だが気が付かれたら終わりだ。
ここで逃げられたら次見付けるまでに新たな被害が出る。
次に襲われるのは家畜では無く村の住人かも知れないのだ。
だが下手を打って逆襲されればこちらもただの怪我では済まない。
狙うは一撃必殺。
その必殺の間合いまでもう少し……
ゆっくり背中に背負った剣の柄を握る。
父さんと同じ両手剣だ。
身の丈程も有る両手剣は破壊力抜群だが、当たりが悪ければ一撃で仕留める事は出来ない。
じっくり弱点を見定める。
狙うは頭部に有る上顎と目の間。
そこに脳の中枢が有りそれを破壊すれば即死する。
父さんはオレからゆっくり離れ大蜘蛛の正面側に移動する。
囮役を買って出てくれたのだ。
父さんと目配せしタイミングを計る。
お互い頷き合い先ず父さんが茂みから飛び出し威嚇するように両手剣を上段に構えながら叫ぶ。
「はっはー! こっちだ大蜘蛛!」
大蜘蛛の意識が父さんに集中した。
今だ!
オレも素早く飛び出し大蜘蛛の背中に駆け上がる。
上がりざま剣を抜き蜘蛛の頭目掛け振り下ろす。
「せあっ!」
ゾムッ!
剣は狙い通りに突き刺さる、が!
キシュー!!!
大蜘蛛の動きは止まらず寧ろ暴れ始める。
しまった浅かったか!
暴れる大蜘蛛の背で振り落とされない様必死に剣にしがみ付く。
振り落とされればそこに待つのは確実な死。
体勢を立て直す暇も無く、槍の様に鋭く尖った8本の脚で瞬く間に蹂躙されるだろう。
「リオン! 踏ん張れ!」
父さんが大きく剣を振るうと大蜘蛛の脚が一本宙に舞う。
流石父さん! 歳をとったとは言え腕は一向に衰えていない。
しかしその程度で大蜘蛛の動きは止まらない。
体表に生えた細かい毛に足を滑らし体勢を崩しかけた。
オレは咄嗟に腰のもう一本の剣を抜き、大蜘蛛の脇腹に突き刺し振り落とされまいとしがみつく。
その剣は父さんから貰った最初の一本。
長年振り続け既にオレの身体の一部と言っても過言じゃ無い、あのショートソードだ。
尚も暴れ続ける大蜘蛛。
父さんも牽制し続けてくれているが早急に手を打たないと二人とも危うい。
オレは両手剣を支えに身を起こし、剣に上から体重を掛けて押し込む。
ズブズブと刀身が埋まり下顎から突き抜けてもまだ動き回る大蜘蛛。
とんでもない生命力だ。
「いい加減……」
剣の横に大きく突き出した鍔の両端を左右の手で握る。
「くたばれ!」
そしてそのまま鍔を握る腕に力を込める。
ブチッブチッと言う嫌な感触と音を響かせながら、縦に刺さっていた刀身が周りの組織を大きく破壊しながら、そのまま90度横を向くまで回転させる。
それだけでは終わらず更に90度。
剣をグルリと一回転させ大蜘蛛の頭部に大穴を開けてやった。
ビクビクッと数回身体を痙攣させた大蜘蛛は、傷口から紫色の体液をドバドバと噴き出させながら崩れ落ちついに動かなくなる。
オレは精根尽き果て大蜘蛛の背から滑り落ち、そのまま地面に身を投げ出した。
木々の間から差す日の光が眩しい。
下生えが首筋にチクチクと触る。
オレは生きている。
父さんが駆け寄りオレの無事な姿を確認すると笑顔で手を差し伸べて来る。
「おめでとうリオンこれで一人前だ」
こうしてオレは
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