儀式という名の話し合い
頬をなでる風で目を覚ました。
オレはどうやら外に居るらしい。
居ると言っても勿論1人ではない。
今オレを抱いているのは父さんの方だ。
服の上からでもわかる厚い胸板と引き締まった筋肉に覆われた逞しく太い腕に抱かれていると母親とは違う意味で安心する。
父さんが居れば何が有っても守ってくれると言う安心感。
たまに顎髭が当たってチクチクするけどな!
辺りの様子を伺う。
取り敢えず暗いので夜なのは間違い無い。
森の中を手に持つランタンの僅かな光を頼りに進んで行く。
何処へ向かっているのか……
暫くすると森の中にポツンと建つ家までやって来た。
丸太を組み合わせて作られた家は、キャンプ場に有るコテージを思い浮かべるがこの辺ではこれが一般的な家なのかも知れない。
家の窓からは光が漏れているので中に人が居るのは間違いなさそうだが、誰の家だろう?
ドアをノックすると中から聴き慣れた声が聞こえる。
あ、察し……
ドアを開けて出迎えたのはやはりレイカだった。
父さんは戸口でオレをレイカに預けると、オレの頭を数回撫でてから元来た道を戻って行った。
え? まさかオレ捨てられた?
それは無いか、父さん笑顔だったし。
で、今はレイカの家で小さなベットに寝かされてる訳ですが、
『これはどう言う事だ!』
思考が伝わる様に感情を高める。
「はいはい、今から説明するよ〜」
馴れ馴れしい口調に戻ってやがる。
『後なんちゃら強度上げてくれ! 感情高めて思考するの結構疲れる!』
「我がままだな〜」
そう言いながら例のタブレットを操作して調整している。
『上げ過ぎるなよ!』
「本当に我がままだな〜
っと、こんなもんかな? 取り敢えずお互いがお互いを認識していて、半径5m以内にいる時に思考を読み取れる位に調整したよ〜」
『よし了解した。
で? こりゃ何のマネだ?』
「これはね、生まれた子に祝福を授ける儀式なんだよね。
一晩私が預かって儀式すんの」
『死神の祝福とはこれいかに。天使にでも転職したのか?』
「そんなんじゃ無いよ、私ここでは魔女って事になってるから」
『魔女〜?
いよいよ胡散臭いな。オレを生贄にでもする気か?』
「説明聞いてた?
祝福の儀式するって言ったでしょ!
貴方の中の魔女に対するイメージ悪過ぎ。
この世界では魔法使いの女版が魔女って呼ばれてるだけなの!
だから貴方のお母様だって魔女よ?」
『何! 母さん魔法使えるのか!』
「食いつくとこそこ? まあ良いけど。
まあ儀式とか嘘っぱちなんだけどね!」
『はぁ?』
「生まれて直ぐの子に祝福を授ける儀式を受けさせれば病気知らずの元気な子に育つ……
って私が広めたの」
『うわ〜良くそんな胡散臭い話し信じて貰えたな〜』
「そりゃ〜ね〜
信じて貰える様に頑張ったもん。
怪我や病気を治す薬を無償で提供したり、村の人の仕事手伝ったり。
害獣退治なんかもしたんだよ!」
ドヤ顔で胸を張って来る。
うん、改めて見りゃダボダボな服の上からでもわかる位大きいな!
『つーかコミュ障のお前が良く村の人と馴染めたな、改善したのか?』
不意に視線を外し遠い目をするレイカ。
「6年掛かったよ馴染むのに。
その後2年掛けてこの風習も根付かせたの」
相変わらずだったわ……
『何でわざわざそんな面倒な事を……
つーか何でお前が居んの?』
レイカはキッとオレを睨み付けて、
「生まれたばかりの貴方とゆっくりお話しをする場を設ける為です!」
お、仕事口調だ。
「貴方に状況説明と、今後の事を伝える為です。
仕事とは言え私も貴方のせいで面倒臭い事に巻き込まれたんです!
研修も終わって無いってのにいきなり出張ですよ!!
どんだけブラックなんですかあの職場!!!
先輩が『事前調査怠らないでね〜』とか言うから貴方が生まれる8年も前から現地入りして色々根回ししてたのに、何で居るの? とは何ですかー!
貴方のせいで居るんですよ!
そう! 貴方のせいで!」
涙目で肩でゼイゼイ息をしそれでもビシッと指を突き付けられながら言われりゃあオレとしては、
『あ、うん、何かゴメン』
この位しか言えないよね……
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