07話 ファンタジズム3
(ルミネルミネ…。まだ来ていないのかな?)
日をまたぎ、俺は早速ルミネに着いた。
待ち合わせの時間5分前、一応着いたが今の所それらしい人影はない。
周囲に点在する転移門を見まわし、それらしい女性を探していた。
「初めまして、早速着てくれているみたいですね。」
「…?」
声が聞こえる真横を見ると、身長130センチくらいの少女が隣に立っていた。
赤い髪を後ろで三つ編み、瞳も赤色、頬には少しだけそばかす、肌は浅黒く、赤いふちの眼鏡をかけている。
服装は黒いミニスカートに白いタートルネックのニットだ。
まるで人形みたいに整った容姿をしている子供だと素直に思った。
「迷子かな?」
「いや、迷子では全然ないですが。」
(困ったな。強がるタイプの子供か。…近くに交番あったかな?)
「そうだ、これあげるよ。だからちょっと待っててね。」
俺はポケットから取り出した苺ミルク味の飴を少女に渡した。
それを素直に受け取ると、少女はじっとそれを見ている。
少し経つとため息をつき、飴を口に放り込んだ。
「あのですね、私がファンタジズムの者です。」
「え!?」
「そういえば自己紹介がまだでしたね、私はミル・エスタークです。」
「エスターク!?」
「反応すると思いました。ゲーマーの方にこの名前を言うと、なぜかいつも似たような反応をされるので一度調べた経験があります。」
「も、申し訳ないです。」
「いいえ、謝る必要はありません。実際私もゲームは好きですし、苺ミルクキャンディーはとても美味しいです。」
「そ、それはよかった。」
「さ、立ち話もなんですし場所を変えましょう。」
ミルさんはそういうと、スタスタと歩き始めた。
十歳児くらいの女の子の後をついていく黒一色のパーカー男という構図だ。
近くを通る色んな人が俺のことを観察している。
間違いなく怪しまれている。
もしも俺が逆の立場でも、同じように俺のことを見るだろう。
彼女はその後も迷わずに進み続け、とあるビルの地下へと降りていった。
そこは薄暗く、なんとなく危険な雰囲気が漂っている。
何とか周囲の視線を避けていたので、流石に通報されないだろう。
俺も彼女の後に続き、ビルの地下へと降りていった、すると扉が見えた。
彼女はそこに迷わず近づき、カードロックを外して扉を開けた。
「す、凄い。」
中に広がっていたのはゲームでよく見る鍛冶屋のような設備と、地球でよく見る真っ白な研究施設を融合したかのような場所だった。
高熱に保たれている窯があるかと思えば、反対には色々な魔物の部位が入った瓶がホルマリン漬けにされて並んでいる。
実はここに来るまでこの子が嘘をついているのではないかと多少心配していたが、流石にこれほどの施設を見せられては納得するしかない。
「どうぞ、そこに座ってください。」
指示された先にあるのは椅子が四つと机が一つ、椅子は二つずつ対面するように並べられている。
俺がそこにすぐに座ると、彼女も後から向かい合うように座った。
手にはティーカップが二つ、どちらも苺ミルクが入っている。
飴は適当に渡したが、まさしく"適当"であったらしい。
俺は緊張を紛らわすために、渡されたそれをすぐに一口飲んだ。
そしてもっとも気になったことを早速聞いてみた。
「あの、何歳なんですか?」
「女性に年齢を聞くのは失礼、なんてことはこの容姿では言ってられませんね。私は現在25歳です。れっきとした成人女性ですよ。ただしドワーフですけどね。」
「ドワーフ…なるほど。初めて見たもので、失礼しました。」
「いえいえ、地球人の方とコンタクトをとるのは初めてじゃありません。みんな似たような反応をするので、そこまで気にしないでください。」
ミルさんは少しだけ疲れた表情をすると、苺ミルクを一口飲んだ。
「私からもいくつか聞きたいことがあります。」
「はい。」
「夢霧無さんは何歳なんですか?」
「今年で16歳になります。」
「なるほど、本名はお聞きしても?」
「一色 契躱といいます。」
「いい名前じゃありませんか。」
「ありがとうございます。」
「それともう一つ、あなたが持っているスキルに関してです。」
「…"フレーム回避"のことですか?」
「あれはスキルで間違いないですね?」
「はい…一応。」
なんとなく彼女の視線が厳しく、俺はもう一度苺ミルクを口に含んだ。
何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
異世界事情に関しては詳しくない為、よくわからない。
「"フレーム回避"なんてスキルは聞いたことがありません。ほぼ間違いなくそれはトライアルスキルかスペシャルスキルですね?」
「トライアル…スキル?」
「神との会合、それに神からの試練。この二つがここ最近の夢霧無さんの身に起きていたのなら、それはトライアルスキルということになります。」
「それは…確かにありました。」
「やはりそうでしたか。こうして夢霧無さんと会ったのは、それを確認するためでもありました。」
「その、トライアルスキルって一体?」
「…まずはこれを見てください。」
ミルさんが俺に提示したのはスマホで、そこには現在隠すべき個人情報の一つになったステータスが映し出されている。
人の個人情報なので見るべきか迷ったが、トライアルスキルを知るためだと思い、俺はその中を見た。
もっとも最初に目が言ったのは"AGE:25"と書かれた欄だが。
「ここにある"skill"欄を見てください。」
「た、沢山ありますね。」
「ありがとうございます。ただ問題はそこではないですね。一例をあげるなら"火耐性Ⅴ"、これは私が鍛冶師として生活をしていた時にいつの間にか手に入れていたスキルです。スキルにはそれぞれ段階に応じてレベルが割り振られ、最大値が"Ⅴ"です。」
「す、凄いですね。」
「ありがとうございます。でも問題はそこでもありません。これら通常のスキルはこうして数字が割り振られますが…、良ければ夢霧無さんのも。」
「はい。」
俺は素直にスマホを差し出した。
余談だがステータスはアプリ、『すて~たす』で見ることが出来る。
「見てください。"フレーム回避"には数字が割り振られていないでしょう。」
確かにミルさんの他のスキル、"水耐性Ⅰ"には"Ⅰ"が割り振られているのに、おれのフレーム回避にはそうした数字はない。最近手に入れたはずのスキルなら"Ⅰ"が割り振られているはずだ。
「数字のないスキルは一般にスペシャルスキルか、またはトライアルスキルのどちらかなんですよ。」
「その…もう一つのスペシャルスキルって?」
「文字通り持って生まれた特別なスキルです。もっとも、トライアルスキルがその上位互換だと言われていますが。」
「ど、どうしてそんな凄いのを俺は持っているんですかね?」
「神の試練をクリアしたはずです。神に試練を与えられ、それをクリアできる者がそもそもほとんどいませんがね。」
「確かに…クリアしましたけど。」
「…今私から説明を受けているということは、まだ誰にもこの事実を知られていませんね?」
「今初めて話しました。」
「それはよかった。例えばシェルなんかは、そういう人材を喉から手が出るほど欲しがっているはずですから。」
ミルさんの口ぶりから、あることが気になった。
「シェルに入ることは、良くないことなんですか?」
「違いますよ。私はあなたとの関係を"契約"といいましたよね。もちろん私にとっても利益のあるものですから、契約といったんです。」
「夢霧無による商品の宣伝ですよね?」
「そのとおりです。私は本当にあなたとこの会社を大きくしていきたいと考えているんですよ。もしもシェルに先に入っていれば、シェルには専属の装備会社がついていますから、私の武器は使えなります。」
「なるほど。」
彼女はそういうと、また苺ミルクを飲んだ。
そしてUSBメモリを取り出し、それを俺に渡した。
「これは?」
「あなたに送った"black box"の拡張機能です。」
(装備が入っていた例の箱のことか。)
「拡張機能?」
「これでボックスに刀をしまえば研いでくれますよ。いやらしい話、刀に賞味期限を付ければ夢霧無さんと速く会えると思い、あえて機能の一部を封印しておいたんです。」
「完全に術中にはまっていました。」
「これは私からの信頼の証です。シェルとつながっていなかった時点で、私の思いは決まりました。」
彼女はそういうと、俺の方へ真剣なまなざしを向けた。
俺は彼女が答えを求めているのだと直ぐに悟った。
「…是非よろしくお願いします。素晴らしい装備でしたから、今後も使いたいと思っていました。」
するとミルさんは見た目通りの純粋な少女のような笑顔を見せ、こちらに手を差しだした。
もちろん俺も手を差し伸ばし、固い握手を交わした。
今はまだ正式な契約はできないけれど、これで口頭上の約束ということだろう。
「そういえば夢霧無さんの最終試練はなんだったんですか?」
「あぁ、ゲームの中のキャラクターを再現して、それと戦うだけでしたよ。」
「…?神様と会った時に何か頼まれませんでしたか?」
「いいえ。」
「それはおかしいですね。…神が試練と力を与えるのには理由があります。あなたに何かをして欲しいから力を与えたはずです。」
「でも…何も聞いてませんね。」
「これは私の仮説ですけど、神様はあなたをまだ見定めているのかもしれません。もう一度神様が現れた時に何かを頼まれるかもしれませんね。」
トットは確かにあれ以来現れていない。
そもそもトライアルスキルに関しても今聞いて初めて知った。
世界が融合してからもう随分経ったが、お互いの世界についてわかっていないことも数多くあるらしい。
世界融合の原因もグランディアによる召喚魔法の影響だと考えられているが、これも仮説にすぎない状況だ。
恐らくグランディアの神がこの世界の人間に影響を及ぼすようになったのも、きっと数多くある変化の内の一つなのだろう。
一体神は何を持って俺に力を与えたのか、俺はその答えをまだ知らない。
「そうだ、最後にこれをどうぞ。」
「これは?」
ミルさんが差し出したのは二着目のパーカーと、丸眼鏡型のサングラスだった。特に何か変わっているところがあるようには見えない。
「それ、額部分にカメラが仕込んであります。ファンタジズムを宣伝するために今後も遠距離視点からの撮影アングルは欲しいところですが、一人称視点のアングルもこれを使えば可能ですよ。」
「な、なるほど。頭にゴープロを付けているのと一緒になるってことですね。」
「その通りです。遠くから見ているよりも、近くから見ている方がスリルがあるのは当然ですから、是非使ってください。それとサングラスに関しては単純ですが、視界が暗くならない特殊な品です。」
「あ、ありがとうございます!」
俺はミルさんから新しいパーカーとサングラスを受け取った。
まるでお金持ちの彼女がいるヒモになった気分だが、やはり嬉しい。
実際お小遣いをカメラに使い果たしてなければ、間違いなく買っていた。
これでまた夢霧無活動に気合が入るというものだ。
そして一連の会話を済ませ、俺は帰宅した。
ミルさんとの契約も口頭にてまとまり、今後の活動に気合が入った。
俺の背中にはミルさんも乗っている。
責任感がある方だとは思っていなかったが、頑張れる気がする。
タガタメに頑張るのも、案外悪くない。
一人の時間が多かったはずの俺は、いつの間にか素直にそう考えていた。
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