06話 ファンタジズム2
場所はまた変わり、今度は県をまたいだ。
こうした移動も転移門なら一瞬だ。
もしも現実世界にファストトラベルがあったらなんて、ゲームをやりながら何度も考えたが、ついに実現した。
自然が多い場所を目指し、今は岩手に来ている。
余談だがハワイなんかも近所になった。
流石に外国に渡るのにはお金がかかるという弱点があるが。
そしてまたシェリー待機。
岩手は魔物の目撃情報が多いようで、今までで最も早く通知が来た。
場所は名前を良く知らない神社だった。
かなりデリケートな場所だが、魔物討伐という大見出しが、夢霧無を炎上から守ってくれることを祈ろう。
目撃された魔物は"ガーゴイル"、直ぐに検索した。
竜の形をした動く石像、それがガーゴイルだ。
全身が石なので、魔物の中ではかなり硬い方だろう。
しかし自重のせいで移動速度が遅いらしい。
体長はおよそ1.5メートルほどだと記載されている。
(あれがそうか。)
神社の門番:狛犬の石像が立つ小さな石柱の上に、明らかに狛犬ではない石像にしか見えない竜が座っている。
本来の狛犬は地面に落ち、砕けているようだ。
対面の狛犬はまだ置いてあるので、それに向かい合うようにしている。
魔物によっては擬態すらするのだと学ぶことになった。
もちろん景色に溶け込んではいないが。
狭い場所に器用に座っているが、体面の狛犬がガーゴイルの存在感をかなりかさ増ししている。
側によっても動く様子がないので、それなりに近くにカメラを設置した。
《おい!》
変声機ボイスで話しかけても、ガーゴイルは無反応だ。
そのうち本当に石像なのではないかと思えてきた。
俺はなんとなくガーゴイルの目前に立った。
するとガーゴイルは突然口を開いた。
「ッ!!??」
咄嗟にその場でかがむと、頭上を火球が通り過ぎていった。
魔法ではなく、火を吹けるのだろう。
一気に警戒心を引き上げ、その場から距離をとった。
しかし敵に遠距離攻撃手段がある以上、それが適切でなかったことをあとから悟った。
ガーゴイルが次々に火球を放ち始める。
その場でかるくフットワークを踏み、"フレーム回避"を多用しながら火球を何とか躱し続ける。
大体ドッチボールくらいの速度で飛んでくる火球のタイミングを、俺は徐々に掴み始めていた。
およそ5球ほど躱した後、そのまま一歩一歩前に踏み出す。
少しずつ近づてい来る俺に対して、ガーゴイルは必死に火球を放つ。
(まずいな、このままじゃ火事になる。流石にそれはまずい。)
俺は残りの距離をさらに素早くつめ、ガーゴイルへと直接触れた。
「衝撃波(インパクト)」
ガーゴイルは一気に石柱から吹っ飛んだ。
出来る限り沢山魔力を込めたかいがあったというものだ。
神社から少しだけ離れたガーゴイルの元へと一気に近づく。
そのまま刀を振り上げ、一気に振り下ろした。
のそのそともがくように動くガーゴイルに直撃、しかしはじかれてしまった。
(…流石に石は斬れないか!?)
はじかれた衝撃で手が若干痺れた。
火球を防ぐために、ガーゴイルから離れないようにする。
するとガーゴイルはのろのろと俺から離れようとするだけだ。
このままじゃカメラアングルも良くない。
俺はもう一度衝撃波を使用して、ガーゴイルを吹っ飛ばした。
するとガーゴイルの額にひび割れが入った。
斬撃にはめっぽう強いが、衝撃には弱いらしい。
その後は単純作業だった。
動くガーゴイルに接近、ひび割れに衝撃波。
繰り返すこと10回、ようやくガーゴイルは動かなくなった。
(つ、疲れた。死にそうだ。魔法の連続使用はまだまだ無理だな。)
疲労感に耐え切れず、その場に転がる。
田舎だからか、幸いにもシェルはまだ来ていない。
数度深呼吸し、何とか撤退した。
しかし長距離の移動はできず、見つけた公園のベンチで休憩。
その後しばらくしてようやく帰宅することができた。
●
帰宅後、直ぐに電話を手に取った。
武器の使い心地は文句なしだ。
となればやはりスポンサー契約は良い選択だという気がする。
学生という都合上、どうしても金銭問題は離れない。
装備費を負担してくれると考えれば、かなりいいことだろう。
何よりも俺の登録者数はまだ2万人に届かない程度だ。
そんな人間にスポンサーがつくことなどない。
少しだけ緊張しつつも、俺はすでに登録してあったファンタジズムの電話番号を、ゆっくりとタップした。
プルルルル、プルルルル。
『こちら、株式会社ファンタジズムになります。』
「もしもし、先日そちらから荷物を受け取りました、夢霧無です。」
『夢霧無さんですか、お電話お待ちしておりました。』
電話先の声は意外にも女性だ。
もしかするとオフィスなレディが対応してくれているのかもしれない。
「あの、担当者さんに代わってもらえますか?」
『担当者…?あぁ、なるほど。弊社は私一人で運営しております。』
「え?」
『つまり私がネットであなたを見つけて、今日にいたるわけです。』
「な、なるほど。それは失礼しました。」
『いいえ、お気になさらず。それよりもお電話を頂けたということは、スポンサー契約の件、考えていただけたわけですね?』
「は、はい。その、良ければ是非お願いしたいなと。」
『本当ですか?こちらとしても嬉しい限りです。そうですね、契約書などにサイン頂きたいので、直接お会いしませんか?』
「そ、そうですよね。その…未成年なんですけど大丈夫でしょうか?」
『あぁ…なるほど。やはりそうでしたか。活動のことは御両親には?』
「いいえ、伝えてないんです。」
『そうですかぁ…契約は難しそうですね。ならなおさら会いましょう。』
「え?」
『会ってお互いが信頼に足るか確認するんです。もしも私があなたに可能性を感じたのであれば、契約は口頭上の約束事に納めます。もちろん今後両親の許可が得れるのであれば、その時に正式に契約を結びたいと考えています。』
「あ、ありがとうございます。」
『早速明日というのはどうでしょう?日曜日ですからね。』
「わかりました。問題ありません。」
『待ち合わせの日時と場所をこの電話番号に送ります。』
「ありがとうございます。」
『それではまた明日、お会いできるのを楽しみにしています。失礼します。』
「分かりました。失礼します。」
…プツン。
す、凄い人だったな。
明るい感じの声で、なんというかしっかりとした大人って感じだ。
正直かなり緊張するけど、まずは会ってみないと。
ブー…ブー。
携帯にショートメッセージが届いた。
すぐにそれを開くと
『夢霧無様
明日はよろしお願いいたします。
○月○日 日曜日 場所:横浜転移駅内ルミネ入り口前』
『承知しました。
よろしくお願いいたします。』
俺はすぐに返信した。それだけでかなり手が震える。
とりあえず明日着ていく服は…あれでいいかな。
俺は今日使用したファンタジズムの服を見た。
携帯を開き、アプリファンタジズムを起動。
一番上の"box"をタップすると、洗浄機能が付いていることが分かる。
これを発見した時は、それこそかなり盛り上がった。
魔物に未知の菌が付いている可能性を考え、服を滅菌できるらしい。
それに洗濯機のように泡を使うわけでもないのに、仕上がりはそれ以上。
ただしbox自体にも魔力を貯める必要がある。もっともコンセントに流れる魔力を使うだけだが。
コンセントにはもう随分前から魔力が流れている。
昔からの習慣が抜けず、今でも充電といわれるが、正しくは充魔だ。
それぞれ上下の服をボックス内にセットし、"wash"ボタンをタップ。
後は待つだけだ。
刀に対しても同様の機能があり、ボックス内の所定の位置に抜刀した状態で入れると、滅菌、洗浄などはしてくれるらしい。
刃に関しては複雑な処置が必要で、機械で研ぐことはできないらしい。
もちろん包丁ではないので、素人の俺には扱えない。
つまりスポンサー契約の後、刀のメンテナンスを頼む流れになるだろう。
素人目でも、夢霧無が名刀であることは分かる。
今後も末永くお世話になるはずだ。
洗浄している間に、カメラ内のデータを移したりなど、疲れずに出来る最低限の作業を終え、俺はゆっくりとベッドに入った。
今日は相次ぐ魔物との戦闘でかなりの疲労が溜まっている。
半引きこもりゲーマーの俺からすれば、相当疲れた。
なんとなく筋トレをしていたおかげで、まだ対応できているが。
今後の活動を考えるに、俺にはもっとスタミナをつける必要がある。
とりあえず明日から頑張る。
これ、名言だよな。
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